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働き方改革。 「組織」としての理想の姿とは【サイボウズ株式会社 青野 慶久 氏 インタビュー記事】

2019.01.17
サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久 氏
サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久 氏

 2016年9月、安倍晋三首相は内閣官房に働き方改革実現推進室を設置した。その目的は「一億総活躍社会」の実現。少子高齢化が進む中でも人口1億人を維持し、誰もが活躍できる社会をつくることを掲げている。

 設置から2年半経つ今、働く環境を変えている会社もあれば、何も変わらない会社もある。また、「働き方改革」という言葉が一人歩きしている現状も否めない。

 大切なのは組織そのものの根幹を変えていくことである。そこで、「サイボウズ」の創業から携わり中小企業経営者の気持ちも持ち合わせる、サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野 慶久氏に、働き方改革をするためには「組織」としてどうあるべきか、話を伺った。

「何をすればいいのか?」はその組織によって違う

 会社を変えるための働き方改革で「何をすればいいの?」と悩んでいる企業経営者は多い。しかし、何をすればいいのかは組織によって違い、100社あれば100通りの課題や解決方法があってしかるべき。にもかかわらず、「他社がやっているからやらなければ」「労働基準監督署に入られては困るからやらなければ」といった対外的なモチベーションで働き方改革を推進したところで、それは一時的なもので長続きせず、結局職場環境は変わらずに終わってしまうことにもなりかねない。

 昨今、人手不足による倒産も深刻化しており、人材確保に四苦八苦している会社は後を絶たない。その中で3名での創業から50名、100名、300名、500名と社員を増やしていったサイボウズの青野 慶久氏。発展させていく過程で、人材の採用・定着の問題、企業成長の問題、制度の問題などさまざまな問題に直面していたはずだ。その壁を乗り越えてきた青野氏に、働き方改革が叫ばれる"今"、企業経営者として何が必要なのか話を伺った。

 働き方改革を進めるにあたり、『変われる会社』と『変われない会社』があるが、青野氏はその違いについて「トップが覚悟を決められるか、決められないかが大きい」と話す。

「変われる会社と変われない会社には明確な差があります。シンプルに言うと、トップが覚悟を決めて取り組めば結果は出るし、そうじゃないところはうまくいかない。シンプルなことですが、そう感じています」(青野氏)

 覚悟と言われると少し仰々しいように思えてしまうが、経営者の覚悟とは一体どういうものなのか。

「経営者が『働き方を変えるぞ』と思ったとしても、覚悟なく変わることはありえないと思います。『覚悟を決める』、私たちはそういう言葉を使いますが、言い換えると何かを諦めてくださいということ。覚悟というのは何かを諦めることとセットなんですよ。例えば、死を覚悟するというのは生きることを諦めるということですよね。この感覚と似ています」(青野氏)

 青野氏らしい言葉に妙に納得させられるが、企業経営者たるものが諦めるべきものとは一体何なのだろうか。

「経営者には、『そうは言っても目先の売上が―』『そうは言ってもこの仕事は取りたい―』というものがあると思うんですが、それを諦めろということです。わかりやすい例でいうと、金曜日の夕方に上顧客から『今日中に見積もりを出してくれ』という依頼が来たとします。しかし今から見積もりを出すことになると残業が決定する。『みんな残業してやってくれ』と言うのか、『金曜日の夕方に言う方がおかしい、申し訳ないけど来週まで待ってもらえ』と言えるのか。ここですね。諦めた瞬間に働き方改革の方に舵を切れるんですけど、諦められないと目先の案件を取ってしまい流されてしまう」(青野氏)

 確かに青野氏が挙げた例では、目先の売上は手に入るかもしれないが、これによって生じるのは社員の残業、不満、疲弊。人離れが起きる原因だ。しかし、"それでは実際に売上が減ってしまうのではないか"と心配する経営者もいるだろう。「諦めるところは諦めようというのが経営者に求められる覚悟。実は諦めてみると意外とどちらも失わずに済む、ということが多いです。実際に、その程度のことで去っていくお客様はほとんどいません。『御社とお仕事がしたいので、来週まで待ちます。次から依頼するときは前の日からちゃんと言いますね』となっていく。経営者としてはそう持っていくべきなんです」(青野氏)

 とはいえ、経営者の一存で何もかもを決めるのは違うという。

「経営者の意見を押し付けるのではなく、どんな会社にしようかとみんなで理想を出し合う。それが一番大事なプロセスです。働き方の多様化を進めていく中で、バラバラかもしれない私たちが集まって働く意味って何だろう、私たちは集まって何がしたいんだろうと考える。みんながそれに共感している状態だったらいい目標だと思うんです。私たちは何を目指しているんだろうという"柱"がその組織の存在目的になっていきます。この柱が、経営者が覚悟を決めて何かを諦めていった時に『ここだけは譲れない』という部分になります」(青野氏)

 ここで一つ疑問が生まれる。小さい会社であれば社長を含めた社員全員で取り組めるかもしれないが、従業員数の多い会社ではどういうプロセスを踏み、取り組むべきなのか。そして、経営者が覚悟を決めてそのような風潮を作るための第一歩とは何なのか。

「基本的には同じです。事業部門ごとに同じ目標を立ててみるといいと思います。さらに上の概念をつくってもいいでしょう。小さい会社でも大きい会社でも、上から落ちてくるものを待っているとつまらないですよね。第一歩は、この組織で何を得たいですか? 何を実現したいですか? という『問いかけ』だと思います。そういうことを聞かれたことはないと思うんです。まずはそこを問いかけて発信していくことではないでしょうか」(青野氏)

働き方改革は問いかけから始まる

働き方改革は問いかけから始まる

「会社という組織は、初めはみんなバラバラだと思うんです。でも最初はそれでいい。問いかけて"柱"となる部分に重ね合わせられるところをつくっていく中で、去っていく人がいても仕方がないと思います。例えば、みんなで甲子園を目指して頑張ろうという時に『甲子園を目指す野球なんて嫌! 普通に楽しく野球をしたかっただけなのに』という人がいたら、離れていった方が幸せだと思うんです。この野球部はどこを目指すんだろうというのは、第一に確認すること。働き方改革もまったく同じで、『働き方改革、何をすればいいかな?』と社員に聞くことから始めたらいいのではないでしょうか。働き方について何か困ってないかを聞いて、もし100人が100人とも困っていません、満足していますという会社があったら働き方改革をやる必要はないと思います。でも聞いてみたら『実は親の介護が必要なので実家に戻りたい』とか『家族との時間をもう少し取りたい』など、いろいろ出てくると思うんです。それに耳を傾け、一つ一つ実現していく。働き方改革の目標を決めるのは、問いかけて発信してもらうところがスタートだと思います」(青野氏)

 人が離れてしまう会社はこれができていないという。問いかけができておらず、押し付けになっている。

「サイボウズの場合ですと『チームワークあふれる社会を創る』というビジョンのために活動しようと決めているので、どんな意見でもこのビジョンと重なっていないといけません。例えば、ただ単に"在宅勤務がしたい"という意見があったとします。当然それだけではだめで、『チームワークあふれる社会を創る、というビジョンのために在宅勤務をしたい』というのが大前提になります。その"柱"が大切なんです」(青野氏)

 しかし青野氏は、単純に社員の言うことを何でも聞けばいいとは考えていない。社員の意見がどれだけ会社のビジョン="柱"となる部分と重ね合わせられるかが大切だという。

「わがままを言うことはいいことです。社員のわがままを引き出さない限り重ねることもできないですから。どんな会社にしたいか、これを引っ張り出すからこそ共通項をつくれる。とはいえ、社員の自我をすべて受け入れて言いなりになる必要はありません。先ほどもお話した"柱"を一本通すのは大前提。社員のわがままのために会社があるわけではないので、ビジョンに結び付かないものは必要ないと思います」(青野氏)

 では、そういった会社の柱と心を重ね合わせられる"優秀な人材"を引き寄せるにはどうしたらいいのだろうか。

「サイボウズで使わない言葉がこの"優秀な人材"という言葉。あまり私たちの中では議論に上がりません。なぜなら、優秀・優秀でないとかは関係なく、ビジョンに共感して入ってくれれば大歓迎だからです。経営者としては優秀な人材という部分を考える前に共通のビジョンを持っているかを考えるべきですね。いくら優秀でも共通ビジョンがない人は必要ないと思います」(青野氏)

 では会社のビジョンを決める場合、何を重視して決めていくべきなのだろうか。

「やりたいこと、やれること、やるべきこと。私たちはこれをモチベーション3点セットと呼んでいます。言い換えると、熱意、強み、事業継続性です。この3つを揃えていないと強いビジョンにはなりません。本気でやりたいことでなければ気持ちが入りません。また、会社としてできることでないとだめですし、事業としてのビジネスモデルが作れないとだめです。こうやって絞り込んでいくと、強いビジョンがつくれると思います」(青野氏)

強みのある中小企業にチャンスが訪れる

強みのある中小企業にチャンスが訪れる

 日本の中小企業の未来という部分では、青野氏はどう思っているのだろうか。

「少し冷めた見方をすると、淘汰が進むと思います。日本には中小企業がたくさんありますが、生産性の低い企業も多く見受けられます。事業承継の問題や人手不足の問題も重なり、消えていく中小企業もあるでしょうし、統廃合も進むと思います。ですが同時に、強みのある中小企業が淘汰の波の中でもっと成長・拡大していくチャンスにもなると思います。強いビジョンを持ってビジネスモデルにチャレンジできているところは、むしろグローバル化が進んでいる中で大きなチャンスがあるなと、悲観的ではなく未来に向けてポジティブに考えています」(青野氏)

 では、このままだと衰退の一途をたどるであろう企業が変わるためには何が一番必要なのか。

「一番大切なのは、ビジョンを作って共感する人を集めるというところ。当たり前だと言われると思いますが、それができていない企業の方が多いんです。共感する人が集まり、モチベーションの高い環境をつくるのが最低条件になると思います」(青野氏)

 1本ブレない"柱"を立てるのが必要なのは理解できたが、このビジョンはずっと変えずにいるべきなのだろうか。

「いえ、むしろ変えていくものだと思います。サイボウズには『理念を石碑に刻むな』という言葉があるのですが、自分たちが達成したいことは石碑にはない。心の中にあるべきという意味です。極端な話ですが、新しい人が入ってきたら変えなければなりませんし、メンバーが同じでも変化は必ず起きますから、その変化に合わせて変わらなければなりません。石碑に刻んだ瞬間、それは理念ではなくただの文字となります。理念というものは、心の中でモチベーションを保つためのものでなければならないし、常にアップデートされるべきものです。昨日と今日は違います。全員のモチベーションが上がるものができれば、そうするべきだと思います」(青野氏)

 時代とともに変化する組織を生き物ととらえ、個人の声に耳を傾けながら共通のビジョンを見い出し、そこを目指す。この第一歩を踏み出すことが、働き方を根幹から変えていくきっかけになるのである。

変化の激しい社会 働き方改革への第一歩へ

 現在、日本企業を取り巻く外部環境は激しく変化しています。少子高齢化に伴う労働人口の減少、経済のグローバル化による競争激化に伴った日本人の労働生産性の低さは深刻な問題です。

 このような背景を踏まえると政府主導でなくても、企業には「働き方改革」を進めるべき動機は十分にあります。「従業員のモチベーション向上」「長時間労働の是正」「業務効率化」と、取り組む内容は企業によってさまざまですが、単に時間外労働を制限したり、ITツールを活用したテレワークの導入だけでは、企業そのものを変えていくことは難しいでしょう。

 青野氏の言う「覚悟」を決め、「共通ビジョン」に沿って制度を変えていく。「働き方改革」を始めるには、その第一歩がとても大切なのです。

 働き方改革がうまくいっていない企業、これから働き方改革を進めていく企業には、ぜひ参考にしていただき、初めの一歩を踏み出してもらいたいと思っております。

(オフィスのミカタ編集部)

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