1600社の組織開発支援から見えてきた「強い組織」の裏側 「陰のヒーロー」と「未来のヒーロー」を見逃す組織の落とし穴【前編】
受注獲得やプロジェクト完遂など、大きな成果を出した人に称賛が集まりやすい傾向は、組織として仕方のないことかもしれません。しかし重要なのは、そうした成果の裏側を支えてくれている「陰のヒーロー」や、これから成果を出していく「未来のヒーロー」の存在です。
そこで今回は、「感謝」や「称賛」というポジティブなコミュニケーションを通じて組織の活性化を支援してきた私が、これまでの自身の経験やお客さまのお悩みを踏まえて、全員が輝ける職場づくりのポイントを紹介します。職種や役職、勤務年数などに関わらず、全員の頑張りを可視化して組織全体のモチベーション向上を図る方法について、ぜひ参考にしてください。
企業の成果を支える「陰のヒーロー」「未来のヒーロー」の存在を理解する
企業のなかでは、営業職や企画職、エンジニアなどさまざまな役割のメンバーが協力し合っています。「売上を作った」「大規模なプロジェクトを完遂した」など、大きな成果を出している人には社内の称賛が集まりやすい傾向があります。しかし、称賛を集めている人がいる裏側には、そうした活躍を支えているバックオフィスやサポートメンバーなどの「陰のヒーロー」や、育成次第で大きな活躍の可能性を秘めている「未来のヒーロー」が必ず存在しています。
誰かの支えになることや裏方として支援することにやりがいを見いだす人がいる一方で、「頑張りが正当に評価されていない」と感じている人がいることも少なくありません。また、まだ育成段階のためアシスタントとしてサポートに回っている人や、業務内容・勤務時間などにある程度の制限が設けられている時短社員やアルバイトの人のなかには「本当は自分も成果を出す側になりたい」という葛藤を少なからず抱えている人もいることでしょう。
組織のさまざまな人たちの業務が積み重なり、一つの大きな成果として結実します。そのため、関わる人のなかの一人でもモチベーションやパフォーマンスが下がってしまうと、最終的な成果の質にも大きな影響を与えます。
実際、このことは私自身も営業職として強く感じています。アシスタントへ受注業務や提案書作成などを依頼したり、バックオフィスへ法務関連や請求関連をお願いしたりすることも多いため、関わる人が一人でも欠けてしまうとリードタイムの長期化やミスの発生、最悪の場合は失注を招きかねません。
組織全体で高い成果を維持していくためには、陰のヒーローや未来のヒーローなど、活躍の光が当たりにくいメンバーにもフォーカスして感謝や称賛を贈り、全員が高いモチベーションを保ちながら仕事ができる環境をつくることが大切です。
なぜ「サポート」や「頑張り」が評価されないのか
企業の成果を作りだす人材がいるのであれば、成果につながる過程を支える人材も必ず存在します。実は、このことを理解している方は少なくありません。特に、成果を出す側の人材ほど、支えてくれているメンバーたちの存在には気づいているはずです。
しかしながら、なぜそうした「陰のヒーロー」や「未来のヒーロー」に光が当たりにくいのでしょうか。これまでの経験から、以下のような理由が考えられます。
・減点方式の業務が多いため
バックオフィスやアシスタントなどが行っている業務は「できて当たり前」「正確でなければならない」というイメージを持たれやすいため、ミスをするたびに減点されていく減点方式で評価されがちです。そのため、ミスをしないことが当然になってしまい、高いパフォーマンスをしていても評価されにくいといえます。
・貢献度の可視化が難しいため
たとえば営業職であれば、「売上」や「利益」といった定量的な数字で成果が見えやすい傾向にあります。しかし、バックオフィスやアシスタントなどの業務は直接的な売上を作りだすわけではないため、成果を定量的に測るのが難しく、貢献度が可視化しにくいことも原因にあるでしょう。
・周囲の限られた人しか頑張りを把握できないため
営業職や企画職などは、大きな成果を出したら全社に情報が行きわたりやすいため、多くの人から称賛を得やすいといえます。一方、バックオフィスやアシスタントなどのサポート業務は、部門内や関わった人しかその人の業務内容を把握できません。限られたコミュニティのなかではその人の頑張りが評価されても、より多くの人から称賛されるのは難しい環境にあります。
・マネジメント層が褒め慣れていないため
マネジメント層は組織の高いパフォーマンスを維持していかなければならないため、一人ひとりのミスを無くしていくことや未熟な部分を改善することにフォーカスしがちです。中でも、先ほど触れた減点方式で評価されやすいサポート業務では、この傾向がより強く現れます。したがって「できていることを褒める」よりも「できていないことを指摘する」ということに重きを置くようになり、「褒める」「評価する」という承認に対する配慮が足りなくなることが多いでしょう。
ここで挙げたのは一部ではありますが、こうした背景からバックオフィスやアシスタントなどサポートメンバーの頑張りには光が当たりにくくなり、頑張りが評価されずに本人が苦しむという兆候が見られます。
成果に関わる全員の頑張りを可視化するには?
前章で紹介したような理由から、サポート業務にあたるメンバーの頑張りが称賛されにくい環境だと、本人は「頑張っているのに評価されない」「もっと私の業務を知ってほしい」などの苦悩を抱えることになります。このような状態では、モチベーションが低下していき、周囲が期待しているようなパフォーマンスを発揮できません。
このジレンマを打破するには、「感謝・称賛」というコミュニケーション方法と、「相互理解」の風土を組織に取り入れることが重要です。次回は、コミュニケーションのポイントや相互理解を深めるコツについて解説していきます。








