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女性の管理職志向を高めるには?【データで見る課題と明日から始める実践アプローチ Vol.1】

2026年4月から、常時雇用する労働者が101人以上の事業主に対して、女性管理職比率の公表と、男女の賃金差異の公表が義務化されます。女性活躍のさらなる推進が掲げられるなか、女性管理職比率の向上を喫緊の課題と捉える企業も少なくありませんが、その推進にあたって立ちはだかるのが女性本人側の「管理職になりたくない」という声です。本記事では、データを基に女性の管理職志向の実態を分析し、明日から実践できる具体的なアプローチをご紹介します。

管理職志向の現状

はじめに、管理職志向に関する現状についてご紹介したいと思います。パーソル総合研究所が2022年に実施した『グローバル就業実態・成長意識調査※』の「管理職になりたい人の割合」の国際比較をみてみると、日本の管理職志向は調査対象の18カ国中最下位の19.8%という数字が出ています。これは性別を問わず、日本全体で管理職に対するネガティブな印象が広がっていることを示しています。

興味深いのは、管理職志向の経年変化における男女差です。リクルートマネジメントソリューションズ(以下、弊社)が2025年に実施した『若手・中堅社員の現状把握調査』内では、新卒で企業に入社した1~12年目までの男女2110名に対し、管理職志向とエキスパート職(※管理職ではなく、専門性を生かす職群)志向を回答してもらい、その傾向について男女別での比較を行いました。

その結果、管理職志向は、男性社員は入社から7年目までは低下するものの、8年目以降は上昇に転じる傾向がありました。一方、女性社員は入社時から一貫して低下し続ける傾向が見られました。一体なぜなのでしょうか?

この傾向について弊社では、身近な組織の中で管理職のロールモデルが少ない場合、昇進の壁(いわゆるガラスの天井)を実感しやすい可能性があること。加えて、出産・育児などライフイベントとキャリア選択のタイミングが重なりやすく、管理職の重責と家庭の両立に対する不安や負担感があることが、志向を下げている可能性があると捉えています。

一方、エキスパート職志向は、男性社員は入社してから緩やかに上昇していく傾向があり、管理職志向が低い期間も専門性を高めておき、「管理職と専門職、どちらの選択肢ももっておく」というような、どちらの道も志向する傾向があります。女性はエキスパート職志向も入社してから緩やかに低下し続けることから、単に管理職志向が低いだけでなく、専門職としてもキャリアを伸ばす気力や機会が減ってしまっている可能性があります。

この傾向は職場で評価されにくい、やりがいを感じにくいなど、キャリアへの全般的なモチベーションが低下しているサインかもしれません。だからこそ、女性にとって「管理職が魅力的で現実的な選択肢になる環境を整えること」が急務であると同時に、女性の専門性を高めながら多様なキャリアの道筋を示すことが重要だと考えます。

女性が管理職を敬遠する5つの理由

さらにここからは同調査内の「管理職を目指したくない理由」についての回答データを元に、主な4つの理由から男女別の傾向を掘り下げたいと思います。

1. 責任への心理的負担
「あまり重たい責任を担いたくないから」と回答したのは、男性29%に対して女性は42%と13ポイントの差がありました。

2. ワークライフバランスへの懸念
「業務時間が増え、プライベートと仕事の両立が難しくなるから」と回答した割合も高かったですが、男女間に大きな差は見られませんでした。昨今は共働き家庭が当たり前となりつつあるため、家庭との両立に対する不安は男女共通の課題と捉える方が適切だと言えそうです。

3.給与と仕事量の釣り合いが取れていないと感じる
2つ目のワークライフバランスへの懸念と同様に、男女ともに一定の割合の方が給与と要求される仕事量の釣り合いが取れないと感じているという結果となりました。

4. 経営参画可能性の拡大への関心の低さ
「会社の経営に携わることに関心がないから」と答えた女性は24%で、男性の17%を上回りました。

5. 自己効力感の不足
「自分には管理職の仕事が向いていない」と感じているのは、女性43%、男性39%とこちらも女性の方が選択率がやや高い傾向が見られました。「周囲から期待をされている」そして、「期待に応えられるだけの経験を積むことができている」といった自分自身への自信が持てないままの状態が、管理職へのチャレンジを躊躇させる要因となっていると考えられます。

また「管理職を目指したい」と思っている人はどのような理由でそう感じているのか、管理職を目指す理由についても見ていくと、こちらは男女で大きな共通点が見られました。

「自分の成長に繋がるから」:男性53%、女性51%
「マネジメント能力を身に着けることができるから」:男性38%、女性35%
「高い報酬を得られるから」:男性48%、女性42%

個人的な成長意欲や能力開発への関心の割合は、男女でほとんど差が見られません。一方で、「経営参画」「裁量権の広がり」への関心は女性の方が低い傾向にあるといえます。キャリアの選択肢を広く持てるよう支援する、ということが行き届いていないことが実態であり、課題だと言えるかと思います。

このような実態と傾向から、女性の管理職志向を高めるポイントは、「これまで積み上げてきたものは何なのか」「その結果どんなことが出来る様になり、今後何が身につくと更にやりがいをもって働けそうか」「周囲にはどんな影響力を与える存在になりたいか」などを本人と会話しながら、本人の中で明確に今後のキャリアの道筋を描けるように支援することだと考えます。

昇格後に訪れるポジティブな変化

弊社が2016年に実施した『管理職意向の変化に関する実態調査』では、昇格前に管理職に対してネガティブなイメージを持っていた人でも、実際に管理職になるとそのうち半数以上がポジティブなイメージに変わるという傾向が見られました。つまり、管理職という役職のやりがいや醍醐味が十分に伝わっていないままに、「自分には不向き」や「負荷が高そう」といった限定的なイメージが先行してしまっている可能性があり、非常にもったいない状態だと言えるでしょう。

管理職昇格後の女性にどのような心理的な変化があったかについては、実際にこのような声が挙がっています。
「“戦略をつくって動かす”という醍醐味を感じられるようになった」
「事業視点など、今まで見えていなかったことが見えるようになった」
「自分だけでなく職場全体の時間もコントロールできるため、管理職になってからの方が意外と時間をコントロールできるようになった」

管理職になる前は敬遠されていた経営参画、裁量権の拡大に対してもポジティブな変化があったことが読み取れます。

また自分にとっての成長や、部下育成の醍醐味を味わうことができた、という観点についても以下のような声があがりました。

「部下の強みやキャリアのことを考える経験が増えた。人間的な成長につながった気がする」
「部下から『●●さんのおかげで』と言ってもらえるとこんなにうれしいものなんだと気づいた」
「仕事の成果と部下の強みがつながったときほど、嬉しいことはなかった。新しい一面を発見できた」

このように、女性にとっても魅力的なキャリアの選択肢として、管理職が挙がるためにも、管理職の本当の魅力や醍醐味を広く伝えること、そしてそのように本人が感じられるための環境づくりが重要だと考えます。

明日から始める実践アプローチ

ここまでで女性の管理職志向の傾向と実態についてご紹介しました。ここからは女性社員の管理職志向の向上を目指す企業で明日から取り組んでいただけそうな3つのアプローチをご紹介いたします。

1. 女性社員との対話の機会を増やす
ある企業で実施した研修で、参加者の女性が「本音を言ってもいいですか?」と手を挙げ、こう話してくれたことがあります。

「私は働きながら小学生の娘を育て、介護もしています。こうして研修に参加できるのはチャンスが巡ってきたようでとても嬉しいですが、これ以上頑張る余力がありません。どうしたらいいのでしょうか」

周囲が「管理職として期待したい」と思うなか、本人は今の仕事状況をどう受け止め、どのように考えているでしょうか。知らぬ間に上記のような状況に陥ってはいないでしょうか。こうした状況を把握できていないまま、突然「期待しています」と投げかけても、本人は負担やプレッシャーを感じ、管理職になることを“背負うべき荷物”として受け止めてしまうだけかもしれません。まずは本人との対話の機会を増やし、個人のペースを尊重しつつ、段階的に期待を伝えるようにしていきましょう。

2. 昇格前後のギャップを埋める
前述の通り、現在は「管理職=罰ゲーム」のような世の中の風潮があることも相まって、「管理職」に対して偏りのある捉え方をしている可能性があります。周囲は能力があると評価していても、もし本人が「不向きだ」と感じている様子なら、まずは段階的に責任のある役割を任せ、その役割における成功体験を積み重ねてもらうというような、プレマネジメント期間を設けることが有用です。

例えば、今の業務の延長線上として社内プロジェクトのリーダーとしての経験を積んでもらうところからスタートし、小さなチームを運営する中での成功体験を積む。複数の後輩の育成に関わる。課長の補佐役として、課長の代わりに判断してもらう機会を増やすなどが挙げられます。

3. 社内の人脈、接点を増やしやすい仕組みづくり
社内で活躍する管理職としての「等身大の姿」に触れる機会があると、「自分にもできるかもしれない」「自分もこうなりたい」という感覚が生まれ、管理職志向の醸成につながる可能性が高まります。

自分の将来像を描くうえでロールモデルの存在は重要ですが、価値観や働き方が多様化する昨今、自分に合うロールモデル的な存在がなかなか見つからないということもあるでしょう。

そこで、まずは活躍している管理職を身近な存在として感じられる環境づくりが有効です。直属の上司以外とも1on1で話せる機会をつくるなど、社内で自然に人脈が広がる仕組みを整えることで、相談先の選択肢や情報の幅が広がります。紹介する相手は、いわゆる「完璧なロールモデル」である必要はありません。成果を出すために試行錯誤している方や、仕事と生活のバランスを模索している方など、「いまの状況に前向きに取り組んでいる姿」を見せてくれる存在がリアルに共感しやすく、キャリアへの前向きな気づきを与えてくれます。

また、相談先の選択肢を複数もつことにつながるため、管理職になってからも社員が一人で抱え込まない体制作りにも寄与します。女性に限らず、人は身近に相談できる相手がいないと悩みを一人で抱えこみ、心理的な負担が大きくなりやすいものです。

おわりに

女性の管理職志向を高めることは、個人の意識改革だけでは実現できません。まずは本人との対話を通じて今後のキャリアについてすり合わせ、段階的な成長機会を提供していく、そのような継続的な取り組みが必要です。

2026年の女性管理職比率の公表義務化は、単なる義務と捉えることもできますが、優秀な人材を生かすことで企業の持続可能性を高める機会として捉えることも可能です。上述した施策例はできることの一部ですが、そこから小さな一歩が生まれ、組織の未来を変える大きな力になるようなヒントとなれば幸いです。


パーソル総合研究所「グローバル就業実態・成長意識調査※」