シャープがフェムテック事業に初参入 サニタリープロダクトディスペンサー「todokuto(トドクト)」を発表
2025年7月9日、シャープ株式会社(大阪府堺市堺区匠町1番地)は、生理用ナプキン(以下、ナプキン)を必要なときにすぐ取り出して使える、サニタリープロダクトディスペンサー「todokuto(トドクト)」の2機種発売に関する記者発表会を開催した。登壇したのは、シャープのSmart Appliances & Solution事業本部 プラズマクラスター・ヘルスケア事業部 事業部長の岡嶋弘昌氏、同事業部新規ヘルスケアPJ シニアデザイナーの寧 静(ねい せい)氏、同事業部副事業部長(スマート・ヘルスケア事業担当)笹岡孝佳氏、同事業部新規ヘルスケアプロジェクト 課長 谷村基樹氏。同社がフェムテック(女性特有の健康課題をテクノロジーで解決する製品やサービス)事業に参入するのは同製品が初となる。
手をかざすと、ナプキンを1枚ずつ取り出せる
シャープが2025年7月25日の法人向け発売を発表した「todokuto」は、ナプキンを収納しトイレの手洗い場や個室内に設置しておくことで、必要なときにすぐに使える環境を提供するディスペンサー。本体前面に手をかざすだけで1枚ずつナプキンを取り出せるので、手を触れることなく衛生的。利用があると任意で設定した時間は「準備中」とLEDライトが点滅し、次の取り出せないため大量の持ち出しを抑制できる。さまざまなサイズ、厚みのナプキンを格納できる。単体のディスペンサーとしても使用できるが、ネットワークにつなげばナプキンの残数減少や毎月の利用枚数、エラーの検知などをメールで管理者に通知する運用サポートも可能だ。
価格はSIM搭載で4G/無線LAN両対応の「BH-FD1A-G」が10万円前後、無線LANのみ対応の「BH-FD1A-N」が9万円前後。IoT機能の利用にはオプションサービスへの申し込みが必要(製品購入から1年間は無料、2年目以降は年間4000円程度の利用料)。
女性特有の課題を、得意のIoTサービスで解決したい
シャープは女性特有の課題を解決する健康支援を目的として、2021年からフェムテックサービスの開発を開始。以降、同じ課題意識を持つ学校や企業、地方自治体と実証実験を繰り返し、今回の商品化に至ったという。発表会に登壇した岡嶋弘昌事業部長は、シャープがフェムテック事業に参入した背景と今後の抱負について、以下のように語った。
「当社は2025年5月12日に発表した中期計画で、ヘルスケア事業に注力していくことをお話させていただきました。我々が考えるヘルスケア事業とは、さまざまな社会課題に対して独自のソリューションを通じて解決策を提案していくというものであります。大きくは『子ども・高齢者の口腔機能支援』『介護現場の負担軽減』『減塩意識の社会的浸透』『女性の生理に伴う負担の軽減』という4つのプロジェクトを進めています。本日発表する、サニタリープロダクトディスペンサーはこの4つ目であり、日常に深く関わっていながら、これまで十分な支援が届きにくかった課題に着目をしております。当社としてはそうした課題を個人の問題としてだけではなく、その背景にある社会の構造あるいは周囲の環境も含めてとらえ、課題に直面している当事者の方々との対話を重ねながら、ニーズを掘り起こして開発に取り組んできました」(岡嶋部長)
フェムテック市場は年間2桁で成長しているといわれるが、製品やサービスはまだ十分といえない状況で、特にIoTを活用したものは少ない。
「だからこそ、当社としてもまだできることが十分にあると感じており、我々がこの領域に参入する意義があると考えています。ニーズは確実に存在していますので市場からの期待に応える形で、女性の健康課題を解決する当社らしいアプローチを展開して参ります」(岡嶋部長)
シャープでは、2027年までに1000団体へ導入を目標としているという。
浜松市とシャープが共同開発
同商品開発の背景には、「およそ8割以上の女性が、勤務中や外出先で急に生理が始まってしまい、生理用品が手元になく困った経験がある」という状況に加え、新型感染症の感染拡大により経済的な困窮による生理用品の入手困難などの社会課題が顕在化したことがある。同商品の発案者であるSmart Appliances & Solutions事業本部 プラズマクラスター・ヘルスケア事業部シニアデザイナーの寧静氏は、当初、家庭用「生理用品IoT収納ケース」を提案し開発を進めていた。社会的な課題に着目したのは、浜松市の自治体職員からの相談がきっかけだったという。
浜松市では2002年、浜松市は「浜松市男女共同参画推進条例」を公布。2021年には「はままつの『生理』を学ぶプロジェクト」がスタートし、2022年には女性の健康問題、特に生理に関する理解を深め、働きやすい職場環境を目指す庁内横断の「ミモザ・プロジェクト」を立ち上げている。同プロジェクトでは、「外出先での急な生理のサポート」「推奨使用期限のある防災備蓄品の生理用ナプキンの有効活用」を目的に、ナプキンの無料配布に取り組んでいた。
だが自治体側からは「ナプキンの大量持ち出しが不安」という声が、利用者からは「窓口にナプキンをもらいに行くのには抵抗を感じる」「簡易的な容器での設置では、衛生面が不安」といった声があった。そこで「1枚ずつ配布できる」「ナプキンのメーカーやサイズが変わっても対応できる」「スマホ等での事前登録の必要がなく、誰でも使用できる」などの条件を満たす市販のディスペンサーを探したが、見つからなかった。そんなときにシャープが家庭用「生理用品IoT収納ケース」の開発に着手していることを知り、相談。シャープがその声を受けて家庭用から方針を転換し、法人向けのディスペンサーの開発を開始した。
前例が少ない取り組みのため、同じ課題意識を持つ自治体や学校、企業で実証実験を重ねた。そこから得られた声やデータが細かく反映されているという。例えば2023年の試作モデルでは、残量が分かる窓がついたデザインになっていたが、「残量が多いと減り方が早い」というデータがあったため、商品化モデルでは窓を無くした。
さらに、職種や設置する場所ごとに変わるナプキンの“ニーズ”に合わせることができるよう、収納部の仕切りを調節。これにより、こまめに取り換えることが難しい接客業やケアワークの職場では大きいサイズを、学校では運動中もズレにくいナプキンを格納する、といったナプキンの選択肢の幅が広がった。この仕様は管理側にとっても、入札などによって調達できるナプキンのメーカーが変更になるケースや、防災備蓄品や寄付品、協賛品を活用できるというメリットにもつながっている。
洗面台にも個室にも設置できる設計だが「実証実験では個室から始めました。個室なら人の目を気にせずに利用でき、急な生理に気づいたときにすぐ活用いただけます。一方、洗面台などオープンな場所に設置するメリットとしては、担当者が個室に入らなくても補充できること、1台で大勢の人が使えるので導入コストが安くて済むこと。そして一番期待しているのは、多くの人の目に触れるという啓発効果です」(寧氏)
これまで、ナプキンの設置や無償提供は、花王の「職場のロリエプロジェクト」や、「エリエール」を販売している大王製紙の「奨学ナプキン」(生理用品の入手に困っている学生に、生理用ナプキン1年分を無償で配布する活動)など、ナプキンを製造しているメーカー主導で進めているイメージが強かった。今回、シャープがIoTを活用した法人向けのナプキンディスペンサーを発売したことで、これからは企業や学校、自治体などの取り組みにできる可能性が広がった。オフィスにナプキンディスペンサーが導入されていることが「女性が安心して働ける職場づくりに注力している企業の象徴」になる日が近いかもしれない。











