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NAVEXが日本市場に本格参入 “遅れる日本のコンプライアンス文化”変革に挑戦

2025.12.25
大矢根翼
(左から)三ツ谷氏、ベイツCEO、Y・グラウアー氏、ベーカー&マッケンジー法律事務所の吉田武史氏

ガバナンス・リスク・コンプライアンス(GRC)に特化した統合プラットフォーム「NAVEX One」を提供するNAVEX(本社:米オレゴン州、CEO:アンドリュー・ベイツ)は、日本市場への本格参入と東京オフィス開設を記念し、12月11日に記者発表会を開催した。当日は、同社CEOのアンドリュー・ベイツ氏、NAVEX JAPAN カントリーマネージャーの三ツ谷直晃氏らが登壇。企業不祥事が後を絶たない日本において、NAVEXがどのようにコンプライアンス体制の変革に挑むのか、その戦略と問題意識が語られた。

リスク管理の統合ソリューションが日本に本格進出

冒頭でベイツ氏は35年間以上にわたり、約13000社のグローバル顧客に対してリスク管理とコンプライアンスサービスを提供してきたと説明した。同社の「NAVEX One」は「通報チャンネル、インシデント管理、ポリシー教育、第三者リスク管理、利益相反管理など、倫理・リスク・コンプライアンス(ERC)プログラムを一元化する」とベイツ氏。

重要なシグナルやデータがツール間で埋もれることなく追跡された上で適切な担当者にレポートされ、経営層はトレンドを早期に把握できるという。また、従業員に対しては過去の膨大な実績から学習したAI機能によるエンゲージメントの向上、コンプライアンス活動の支援、意思決定を支援するワークフローの自動化が提供される。

日本のトップ100企業の23社を顧客とするNAVEX。日本では約100社に導入されており、従業員のカバレッジは380万人にのぼる。ベイツ氏は「当社のベンチマークデータは、日本企業のコンプライアンスおよびリスク責任者に競争優位性をもたらし、『何が遵守されているか』だけでなく、『トップレベルの成果とは何か』を示します」と語った。

このタイミングで日本への本格進出を決定した背景には「既存のお客様へのよりきめ細やかなローカルサポートを提供すること、日本の企業がコンプライアンスやリスクマネジメントへの意識を高めている、このタイミングにしっかりと応えていくこと」と三ツ谷氏。

また、東京オフィスの開設理由は「日本企業との長期的なパートナーシップを最優先にするため」と回答。製品やサービスに日本のフィードバックを反映する体制も強化していくという。

日本企業が抱えるコンプライアンスの課題とは

続いて、日本企業が抱えるコンプライアンスの課題については三ツ谷氏が解説した。三ツ谷氏は「規制・市場の広がり」という項目で「適用されるすべての法令をマッピングしている企業はわずか10%」(※1)、「第三者リスクの評価が遅れていると回答した企業が70〜90%」というデータを引用。

内部通報の項目では「スピークアップ文化の浸透度は低く、通報窓口を設けている企業は約50%」と、公益通報者保護制度の改正によって企業がペナルティを含む対応に迫られている現状を紹介した。

また、「ツールとデータが断片化している」と三ツ谷氏。内部通報、オペレーショナルリスク管理、第三者管理、内部統制報告制度(J-SOX)対応など、システムを統合的に運用することで、リスクへのコントロールをより効かせられるという。

最後に紹介された課題は「取締役会および市場からの厳しい監視」だ。過去3年間に何らかの不正や不祥事を経験した上場企業が50%にのぼるというデータから、「企業リーダーにとってリスク管理とコンプライアンスはますます重要になっている」と語った。

※1 Japan Fraud Survey 2024-2026(Deloitte)

自発的に改善を続けるコンプライアンスが重要

三ツ谷氏は日本企業が抱えるリスク管理の諸課題への対策として「統合リスクビュー」、「プライバシー・バイ・デザイン」、「ガードレール付きAI」、「ベンチマークと継続的な改善」、「取締役会向けレポーティング」の5点を挙げた。

「統合リスクビュー」は観点として「ホットライン、ケース管理、ポリシー、トレーニング、第三者リスク管理、利益相反、分析をひとつのワークフローに統合し、効率的にコントロールを効かせることが重要」と三ツ谷氏。

「プライバシー・バイ・デザイン」は個人情報保護を遵守しながら、最小限の設計で必要な人だけが情報にアクセスできるようにすることを指す。「監査証跡」として、変更を行った人物と時間を追跡する重要性が説かれた。

「ガードレール付きAI」はAIに対してガバナンスを効かせ、企業の財務情報や機密情報を学習させないこと、AI利用に関する人間へのトレーニングを包括する概念。「ベンチマークと継続的な改善」は業界標準と比較した自社の評価と、PDCAサイクルによる改善の総称だ。
「取締役会向けレポーティング」では「ヒートマップなどのビジュアルツールを使って、リスクの高低を視覚的に伝えることが非常に有効」と三ツ谷氏は語る。

内部通報については別途資料で取り上げた。「日本の内部通報者は100人あたり0.4人という世界的に低い水準。一方で、匿名での通報率は69%と高く、自分の名前を出さずに通報している方が多い。報復を恐れている傾向がある」と三ツ谷氏は分析する。

逆に恨みからくる内部通報も存在する。真実味を迅速に判断するためにも、NAVEXが理想とする”100人あたり1件”という内部通報の数値目標に向けた改善でスピークアップ文化を促進することが有効だという。

コンプライアンスは「守り」から経営の中枢へ

社会的要請の高まりを背景に、コンプライアンスは企業活動における「守り」の枠を超え、経営そのものを支える要素へと変化してきた。単なる違反防止にとどまらず、組織文化や意思決定の質までが問われる局面が増加している。

NAVEXの日本進出は、こうした潮流を映し出す動きだ。コンプライアンスを経営基盤として捉え直す視点が、日本企業にどこまで浸透していくのか。その行方が、今後の企業価値を左右することになりそうだ。