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「静かな退職」は怠慢か、新たな選択か? 職場の実態と企業の対応策

2026.03.05
桑原 恵美子

近年、「静かな退職(Quiet Quitting)」という言葉が広がっている。会社を辞めずに最低限の仕事だけをこなすこの働き方は、怠慢なのか、それとも新しい選択肢なのか。世代意識や働き方の変化をまとめたレポート「働く人の本音調査2025」をもとに、その実像や対処法を株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(以下「リクルートMS」)の大庭りり子氏、黒瀬裕之氏、森本伊織氏に聞いた。

静かな退職とは、仕事を辞めずに「頑張りすぎない」働き方

「静かな退職(Quiet Quitting)」とは、「会社を辞めるわけではなく、与えられた業務を最低限こなし、それ以上の努力や貢献をあえて行わない働き方」を指す言葉。2022年、アメリカのキャリアコーチがTikTokで使ったことをきっかけに広まり、日本でも注目されるようになった。ただし、確立した定義はまだなく、職場や個人の認識によって意味合いは異なる。本人は通常通り働いているつもりでも、周囲から「消極的」と見られ、静かな退職と捉えられるケースも少なくない。

静かな退職と混同されやすい概念に、バーンアウト(燃え尽き症候群)がある。バーンアウトは1970年代から研究されてきた概念で、WHO(世界保健機関)は「慢性的な職場ストレスが適切に管理されなかった結果として生じる症候群」と定義している。

主な症状は3つ。

①強い疲労感や消耗感
②他者への無関心や距離を取る脱人格化
③個人的達成感の低下


両者の大きな違いは、静かな退職が意図的・自発的な選択であるのに対し、バーンアウトは限界まで頑張った結果として陥る状態である点にある。

「両者は異なる概念でありながら、現実には要因や行動には重なり合う場面も多く、無関係ではありません。また、因果関係を指摘する先行研究もあり、バーンアウトを防ぐための自衛策として静かな退職を選ぶ場合もあれば、バーンアウト状態のまま働き続けざるを得ず、結果的に静かな退職のような働き方になる場合もあります」(技術開発統括部研究本部 組織行動研究所 研究員 大庭りり子氏)

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 研究員 大庭りり子氏

「静かな退職」が広がっている要因のひとつに、「コロナ禍による働き方の変化」があると考えられている。

「アメリカではロックダウンを経て、家族や私生活の重要性を再認識した人が多くいたことが、静かな退職の拡大につながったと見られています。日本でもコロナ禍を契機に、リモートワークが増加しました。そして静かな退職の要因としては、疎外感や評価に対する不公平感などが指摘されています。それを踏まえると、働き方の変化により、上司や同僚とのさまざまなコミュニケーションや得られる情報が減少した結果、組織への帰属意識や仕事への主体性が低下する人が増えたのではないでしょうか」(大庭氏)

静かな退職の実態

リクルートMSが行った調査「働く人の本音調査2025」では、4人に1人の回答者が「職場に静かな退職者がいる」と捉えていることがわかった。つまり自分は「静かな退職」をしなかったとしても、そうした状態にある人と関わる可能性は大いにあるということだ。

※データ&図表提供:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ

また同調査では、「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいることで、不利益を被ったと感じたことがある」という人は55.1%。「逆に恩恵を受けたと感じたことがある」という人は15.1%。半数以上の人は不利益を感じたことがあるものの、恩恵を受けたと感じたことがある人も一定数いることがわかった。

(「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいる」に「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した人のみ)「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいることで、不利益を被ったと感じたことがある」「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいることで、恩恵を受けたと感じたことがある」の回答結果

年代ごとに比較すると、30・40代では不利益を感じた人が相対的に多く、20代では恩恵を感じた人が相対的に多いという結果が出た。特に、周囲に「静かな退職」をしている人がいると捉えている20代のうち、5人に1人が恩恵を感じたことがあると答えている。

(「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいる」に「あてはまる」「どちらかといえばあてはまる」と回答した人のみ)「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいることで、不利益を被ったと感じたことがある」「自分の同僚や上司に『静かな退職』をしている人がいることで、恩恵を受けたと感じたことがある」の年代別の回答結果

職場で何が問題になるのか

静かな退職そのものは、必ずしも怠慢や不正行為ではない。しかし、職場で問題になりやすいのは、その影響が周囲に及ぶ点である。静かな退職をしている人が業務を最低限しか担わない場合、その分の仕事が他の社員に回り、「しわ寄せ」が生じる。同調査でも、周囲に静かな退職者がいる場合の最大の不満は、「その人がやらない仕事を自分が引き受けること」にあることがわかっている。不公平感が高まると、職場全体の士気や信頼関係が損なわれ、結果として離職につながる可能性もある。また、静かな退職が受け入れられている状況を見て、仕事に対するモチベーションが低下してしまったという人も1/4程度、そして「組織の連帯感が低下した」と言う人も、一定数いる。

さらに静かな退職モードで働いている人は退職のハードルが他の社員よりも低い傾向がある。つまり、静かな退職が、本人と周囲、両者の離職リスクを高める場合があるのだ。静かな退職のような働き方自体は以前から存在していたものと考えられるが、昨今は労働人口の減少から新規採用の難度が上昇していることもあり、こういった離職リスクを重く見る企業が多いのではないか。

企業と管理職に求められる対応

大庭氏によると、静かな退職者の存在による同僚の意欲低下を防ぐために重要なのが、評価システムだという。

「企業側には、頑張っている社員を正当に評価し、貢献を可視化する工夫が求められます。給与や昇進だけでなく、『あなたの仕事をきちんと見ている』という言葉による承認も、不満の緩和に効果があると見られています」(大庭氏)

また世代間の価値観の違いを受け入れる柔軟性も、企業に求められることのひとつ。サービス統括部HRMサービス推進部 サービス開発グループの黒瀬裕之氏は、Z世代と呼ばれる若い世代の中には働き方にもコストパフォーマンスを重視する価値観を持つ人が一定数いると指摘する。

「その結果、仕事はあくまでお金を稼ぐための手段と割り切り、プライベートと仕事を明確に分けて考える人も少なくありません。中には、入社した時点から『静かな退職』に近い考え方を持っている人もいます。こうした価値観の異なる世代が入ってきたとき、現在の会社の人事制度のままで受け入れられるのかという点は、大きな課題だと感じています。

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ サービス統括部HRMサービス推進部 サービス開発グループ 黒瀬裕之氏

経営側はそうした価値観を持つ人たちが入社してくることを前提に、エンゲージメントサーベイ(従業員が会社や仕事にどれだけ愛着や貢献意欲を持っているかを可視化する調査)を重ねるなどして、どうすれば会社の仕事に当事者意識をもって取り組んでもらえるのかを考える必要があります」(黒瀬氏)

リクルートMSでは組織診断のサーベイサービスを行っており、「仕事」「職場」「会社」という3つのエンゲージメントを測定している。管理職がその結果を見ることでも、静かな退職モードにあるかどうかのアンテナを張ることができるという。

静かな退職の理由が仕事の内容や環境への不満ではなく、プライベートを充実させたいという理由であれば、よりプライベートに踏み込んで話を聞くことでその理由が特定できる場合もある。ただ踏み込み過ぎは個々人の理由や状況にもよるので、メンバー個人の状況に配慮したコミュニケーションが求められるとのこと。

静かな退職を、多様な働き方のひとつとして受容することも必要

技術開発統括部 コンサルティング部 シニアコンサルタント 森本伊織氏は「仕事の意味づけや裁量の付与、本人が大切にしていることとの接点を探ることが、エンゲージメント向上につながる」としながらも、企業側が静かな退職を単なる「問題行動」として排除することは警戒すべきだと指摘する。

「企業が最終的に目指すべきは、静かな退職を多様な働き方の一つとして理解した上で、組織としてどう共存するかを考えることではないでしょうか。誰もが生涯を通じて、常に高い意欲で働けるわけではなく、人生の局面によって仕事への関わり方は変化します。その前提に立ち、離職や不満が連鎖しない職場環境を整えることが、これからの組織運営に求められているのでは」(森本氏)

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 技術開発統括部 コンサルティング部 シニアコンサルタント 森本伊織氏

「静かな退職を選ぶ人の背景には、さまざまな理由があります。たとえば、副業に力を入れたいという思いから、本業では最低限の業務にとどめている人もいます。また、副業に限らず、ボランティア活動など社外の活動に時間やエネルギーを注いでいるケースもあります。こうした社外での経験や知識は、将来的に本業にも生かされる可能性があります。さらに、事業の方向性が変わった際には、その人が他の場所で培ったスキルや知見が役立つ場面が出てくるかもしれません」(大庭氏)

静かな退職の背景にはさまざまな要素があり、上記の提案だけですべての課題が解決するわけではないだろう。だが短期的に評価するのではなく、こうした働き方を許容し、共存しながら中長期的な視点で関係を築いていくことが重要であることに間違いはなさそうだ。