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これからの「採用」はどう変わるのか?⑧~企業と個人の新しい共創の形「ふるさと副業」

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。
そんな中、企業と個人の新たな共創の形として「ふるさと副業」が注目されています。人材難に悩む地方企業と、成長の機会を求める都市部のビジネスパーソンが結びつく「ふるさと副業」とはどんなものなのか、詳しく解説したいと思います。

地方企業には、都心では得られない「挑戦のチャンス」がある

 これまでに、社会変化が労働市場に変化を及ぼし、企業と個人の関係も変化しているという事実を、いろいろな角度から解説してきました。

 今回取り上げるのは、「地方企業と都市部の人材の共創=ふるさと副業」という、企業と個人の新たな関係についてです。少し前から取り沙汰されていたキーワードではありますが、いよいよ加速してきたと感じています。

 本業だけでは得られない、長期スパンでの挑戦機会や志を共にする仲間を望む働き手が、働き方改革や副業解禁、テレワークなどテクノロジー普及の後押しによって、地方の企業と月数日もしくは週1回のペースで関わり合う。そんな新しい働き方が本格的に始まろうとしています。

 働く個人は、事業再生や新規事業の創設など、都心の企業ではなかなか得られない打席が地方の企業ならば得られることに気づき始めています。正社員としてフルコミットするのではなく副業という形で、社内コミュニケーションツールなどをうまく使いながら地元企業で活躍している例がどんどん増えているのです。

企業選びの軸は「年収・規模」から「やりがい、貢献感」に変化

 個人が「ふるさと副業」に注目するようになったのには、いくつかの背景があります。

 1つは、働き方改革による労働時間の減少。総務省の調査(※1)によると、平均年間就業時間は2013年の1970.4時間から、2018年には1906.8時間に減少、この5年間で実に63.6時間も減少しています。国土交通省の調査(※2)によると、この余剰時間を自己啓発や副業に使いたいとする人が増えているそうです。働き方改革で余った時間を、もっと自分の能力開発に使いたいと考えているのです。

 さらには、個人側の「仕事選びで重視するポイント」も変化しています。リクルートエージェントの登録者アンケート(※3)によると、転職先への「入社の決め手」の、1位は「経験やスキルが活かせる」(66.3%)、2位は「やりがいのある仕事に携われる」(57.6%)、そして3位に「新しいキャリアを身につけられる、成長が期待できる」(46.2%)が入っています。「年収が上がる」「会社・団体の規模が大きく、知名度がある」を上回っており、年収や規模よりも、貢献感や成長、やりがいを志向する人が増えていることを示しています。

 特に私が注目しているのは、3位の「新しいキャリアを身につけられる、成長が期待できる」です。人生100年時代と言われ、個人の「健康寿命」が延びている一方で、企業の寿命は20年を切っていると言われています。単純計算で、一生のうちに少なくとも3回は働く場所を変える必要があることから、個人側の「ずっと働き続けるためには、新しいキャリアを身につけないと」という危機感がより強まっていると想像されます。それに伴い、企業選びの軸も年収や企業規模などから、自身の主体的な条件、すなわち「自分の内面的な成長」にフォーカスされるようになったとみられます。

人材難に悩む地方企業による「地方×副業」の求人が増加

 個人だけでなく、企業側に起きている変化もあります。どの企業でも人材不足が大きな課題になっていますが、地方企業は軒並み深刻な人材不足に悩んでおり、「新たな事業創造や企業再生を行いたいのに、それを支える中核人材がいない」という理由で黒字倒産する企業すらあるほどです。

 そんな中、人材採用の成功を目的として、柔軟な働き方に関する施策を打つ企業が増えています。リクルートキャリアが「2019年度に新たに開始を検討したい取り組み」についてアンケート調査(※4)したところ、「テレワーク」「兼業・副業容認」が上位となりました。人材確保のため、あの手この手で柔軟な働き方を支援しようとしているのです。

 これらの動きを背景に、「地方×副業」の求人を出す地方企業が増え、興味を示す個人も増えています。リクルートの副業人材向けジョブマッチングサービス「BizGrowth」掲載件数を見ると、2018年10月から2019年10月の1年間で、地方の副業求人数は13.38倍に急増しています。一方で、リクルートキャリアの社会人インターンシップサービス、『サンカク』が主催する「ふるさと副業イベント」への累計参加希望者数は、2018年9月から2019年11月の1年間で5.24倍に拡大しています。

 新たな事業創造のヒントとなる知見やノウハウが不足している地方企業と、経営視点が身につくような仕事や挑戦的なテーマの経験が不足している都市部の個人。それに労働時間の減少や副業・兼業の容認、テレワークを可能にするツールや環境の整備が後押しとなり、地方企業と個人をつなぐ新たなマッチング「ふるさと副業」が俄然注目を集めているのです。安倍政権においても、「週末の地方での兼業・副業による関係人口の創出」を後押しするという姿勢を打ち出しており、ふるさと副業の動きは今後も高まっていくとみられます。

報酬=成長機会や貢献実感と捉える個人も増加

 ここで「ふるさと副業」のマッチング例を、いくつかご紹介しましょう。

 岐阜県大垣市にある木枡の専門メーカーでは、枡の内装材としての可能性に注目。BtoB向けのブランディングを担ってくれる人材を探していました。そんな同社のサポートに名乗りを上げたのは、東京のブランドコンサルティング会社に勤める女性でした。彼女がふるさと副業に注目したのは、出身地である福島県に恩返ししたいという思いから。同社は岐阜の企業ですが、「将来的に出身地へ恩返しする際に活かせる経験ができるのではないか」と考え、対企業へのブランディング経験を提供しました。

 石川県のある宿泊施設では、外国人観光客の宿泊体験を高めるため、長期滞在型の宿泊プランを作りたいとの思いを持っていました。そんな同社に注目したのは、米カリフォルニアにある日系IT企業のプロダクトマネージャー。一時帰国時にこの施設に宿泊し、3日間の滞在で感じた強みと改善点をレポートにまとめ提出、部屋の調度品やアクティビティなど、海外居住者視点のリアルな声を幅広くサービスに反映しました。この方は、米国内で旅行会社に転職したいとの希望を持っていましたが、現地では経験がないと採用されないのが現状。「ふるさと副業」で、次のステージに移るために必要な経験を得ることができました。

 これらの事例のように、自分の能力と貢献する姿勢を企業に提供することで、企業からは成長機会をもらうことができるのが「ふるさと副業」。しかも正社員としてフルコミットするのではなく、遠隔かつプロジェクト単位で、「能力・貢献」と「機会」を交換することが可能です。さらには「地域への恩返し」という思いも込めることができる点が、今の時代ならではだと感じています。ここ数年の間で個人の中で「報酬革命」が起こっていて、報酬=必ずしもお金ではなく、成長機会や貢献実感も大きな報酬と捉えている人が増えているのです。

 以前は「副業」というと企業が眉をひそめ、個人は「お金のため」という印象を持っていましたが、地方企業の思いと個人の思いがいいバランスを取り始めたことで、副業に対する意識がガラリと変わり始めています。さらにテクノロジーが進めば、地方企業と都心の個人との垣根はさらに低くなり、「職住近接」という概念自体が壊れる可能性もあると思っています。

[脚注]
※1:総務省統計局 「労働力調査2019年11月」の非農林業従事者の平均月間就業時間から算出
※年間総労働時間の算出にあたっては平均月間就業時間を12倍し、小数点以下第1位を表示。
※2:国土交通省 「平成29年度国土交通白書」内のライフスタイルに対する国民の意識と求められるすがたより算出
※3:株式会社リクルートキャリア「リクルートエージェント登録者アンケート調査(2017年11月)」
※4:株式会社リクルートキャリア「2019年度中途採用の計画調査(2018年12月)」

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