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これからの「採用」はどう変わるのか?⑩~大きく変化する「兼業・副業」の位置づけ

急激な少子高齢化、労働人口の減少、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。その中で、我々が働く環境も変化を遂げつつあり、個人の「働く意識」が問われ始めています。
そして、ここに来て社員の兼業・副業に対する企業の意識が大きく変化しつつあります。リクルートキャリアが企業の人事担当者3514人に実施した調査結果(2019年9月実施調査)*1 をもとに、詳しく解説したいと思います。

本業への還元を狙い、兼業・副業を認める企業が増加している

 政府が副業推進の方針を打ち出したことで、大企業中心に兼業・副業を解禁する企業が増えつつあります。そして社会変化や労働環境の変化に伴い、兼業・副業に対する企業の意識も大きく変化しつつあります。

 リクルートキャリアが実施している「兼業・副業に対する企業の意識調査(2019)」によると、社員の兼業・副業を認めている企業(推進している、容認していると答えた企業の合計)は30.9%と、2018年度調査に比べて2.1ポイント上昇しました。

 「兼業・副業を推進、もしくは容認している理由」を見ると、伸び率が最も高いものは「人材育成・本人のスキル向上につながるため」(+6.2ポイントの30.4%))で、次いで「社員の離職防止(定着率の向上、継続雇用)につながるため」(+5.3 ポイントの27.6%)という順でした。

 この背景には、「個人の能力を伸ばしたいが、社内教育だけではコスト面でも、教育研修メニューの専門性や多様性の面でも対応し切れない」という企業側の課題があります。業務内容の多様化に伴い、個々の社員が「身に着けたい」と考える知識やスキルも高度化・多様化しています。例えば、新しいマーケティング手法を身に着けたい人もいれば、国際会計システムに関する知識を深めたい人も、またSaaSモデルにおけるカスタマーサクセスのサービス手法を学びたい人もいる…そんな多岐にわたる要望を兼業・副業で叶え、自社では獲得できなかった視座や実践知を自社に還元してほしいと考える企業が増えているのです。

社員のモチベーションアップ、スキル向上に期待

 実際、兼業・副業を認めている企業の中には、その効果を実感し始めているところも多いようです。

 「兼業・副業をした社員が、その経験を本業に還元できていると思うか」という質問に対して、34.0%の企業が「感じている」と回答しています。なお、「それをいつ頃から感じ始めたか」という質問に対しては64.5%が「1年以内」と答えており、兼業・副業は本業に対して比較的即効性があると考えられます。

 このような状況を受け、これまで以上に社員の兼業・副業に本腰を入れようとする企業も増えつつあります。

 兼業・副業を「容認」している企業のうち、今後「推奨」レベルまで引き上げていく可能性があると回答している企業は42.2%と、2018年度調査に比べ8.1ポイント上昇。兼業・副業による社員のモチベーション向上やスキルアップを期待する企業が多いようです。いくつかの声を、ご紹介しましょう。

●「社会の流れがそうなっているから。また会社も自分の会社だけに社員を縛り付けておくのではなく、広い視野を持ってもらいたいから」(卸売業・小売業業/従業員数 1000 人以上)
●「本業への好影響が期待していた以上に出ているので」(金融・保険・不動産業/従業員数 50~99 人)
●「働き方の多様化に対応し、さらなる業務の効率化とスキルアップを進めるため」(サービス業/従業員数 300~499 人)
●「モチベーションの強化につながるから」(金融・保険・不動産業/従業員数 1000 人以上)

 あるIT企業では、非常に優秀ではあるものの、周りの意見にあまり耳を貸さないという、コミュニケーションにやや難があるエンジニアがいました。しかし、そんな彼がオンラインを通じて他社で副業を始めたところ、社風も文化も、仕事の進め方も全く異なる環境の中で、自分の立ち位置を客観的に見られるようになったそうです。自社がいかに素晴らしい環境か、自分に期待し貴重な経験を積ませてくれていたのか、改めて理解したのだとか。その結果、仕事や周囲の人に対する姿勢がガラリと変化し、コミュニケーションスキルも向上。現在ではマネジメントサイドへの昇格を目指しているとのことです。

副業が「個の力」を高め、企業の成長を支える可能性

 「兼業・副業の容認、推奨」の動きは、今後も高まると考えられます。本業への還元を実感している企業が増加しているほか、今まで兼業・副業解禁に消極的とされていた業界が前向きに転じつつあるからです。

 「兼業・副業を推奨する可能性あり」と答えた企業を業界別に見ると、建設業、サービス業の割合が高く、それぞれ46.9%、50.0%という高い水準になっています。これらの業界は、建築現場や店舗など一定の場所に出向く必要があり、勤務時間も不規則かつ拘束時間が長いという特徴があるため、働き方改革で後れを取っている業界とされています。そんな建設業、サービス業の兼業・副業容認・推奨の動きは、他の業界にも大いに影響を与えると予想されます。

 ただ一方で、現状ではまだ7割の企業が、兼業・副業を禁止している状態にあります。その理由として「副業する時間があるならば、本業に充てるべき」との意見が多く聞かれます。

 もちろん本業に最大限コミットし、成果を上げることに最注力するのは大前提です。ただ、企業寿命が短命化する中、事業継続のために重要な「個の力」を高めるには兼業・副業が有益であるとも考えられます。

 ビジネスパーソンとして成長するには、「見立てる」「仕立てる」「巻き込む」の3つのスキルが必要と言われていますが、社外での業務を経験すると、この3つのスキルが圧倒的に磨かれます。自社とは異なるモノの見方を学び、自社のやり方とは違う企画やプロジェクトの立て方、進め方を体感し、自分とは立ち位置の違う相手を巻き込む難しさを痛感する…このような経験を経て、スキルがより強固なものになるのです。

 昨今、企業において外部から知識やアイディアを取り入れる「オープンイノベーション」の動きが高まっていますが、これからは働く個人においても「オープンイノベーション」が必要。社員一人ひとりが「個の力」を磨くことで、企業の力はさらに強まり、コモディティ化の波を乗り越えることも可能になるはずです。兼業・副業という言葉が収入補てんではなく「個人のスキルを高め、本業にプラスの影響を与えるもの」として再定義される日も、そう遠くはないでしょう。

*1出典:株式会社リクルートキャリア「兼業・副業に対する企業の意識調査(2019)」
https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2020/200324-01/