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営業秘密を守る3つのポイント【弁護士が解説!企業の守り方 vol.1】

ビジネスには、リスクがつきものです。
そのため企業の法務担当者は、企業の事業活動のどこに、どのようなリスクがあるのかを把握し、リスクへの対策を講じる必要があります。

このコラムでは、AI契約審査プラットフォーム「LegalForce」、AI契約管理システム「LegalForceキャビネ」を提供するLegalOn Technologiesの柄澤愛子弁護士が、企業が直面しやすいリスクとその対策を解説します。

第1回は「営業秘密を守る3つのポイント」です。
「営業秘密」は企業にとって重要な財産の一つです。その営業秘密が漏えいすることは、企業の存続にも関わるような、深刻な被害を企業にもたらしかねません 。

企業における営業秘密の漏えいリスクとその対策を解説します。

営業秘密漏えいの事例

① 食品データのライバル社への持ち出し
飲食チェーンの部長が、ライバル会社への転職が決定した。部長は在職中に、部下に指示して食材の仕入れ先に関するデータを複製。ライバル社への移籍後、そのデータを持ち出し、商品部長に共有。両社の原価を比較する資料を作成させた 。

② 取引情報の他社への持ち出し
総合商社に勤めていた社員が、別の商社へ転職。転職直後、元同僚だった派遣社員から、サーバーIDとパスワードを聞き出し、元の就職先のサーバーにアクセス。自分が従事していた、自動車部品に関連する海外メーカーとの取引情報などが入ったファイルをダウンロードした。

営業秘密漏えいは企業にとってに身近なリスク

冒頭に紹介した2つの事例は、当社調べで2022年から23年にかけて実際に発生した事例で、どちらも刑事事件に発展し、持ち出しを行った人物は有罪判決を受けています。

企業にとって、営業秘密の漏えいは、SNSの普及などもありこれまでになく身近なリスクとなっています。また、「メールの誤送信」「転職活動中に面接などで所属企業の情報をうっかり話してしまう」といったケースもあり、1人1人のビジネスパーソンにとっても決して他人事ではありません。

独立行政法人・情報処理推進機構が実施した調査によると、営業秘密の漏えいルートで最も多いのは「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」で、近年の活発な転職市場を背景に、その比率が高まっています。

「企業における営業秘密管理に関する実態調査2020」(独立行政法人情報処理推進機構)より

営業秘密を保護する法律「不正競争防止法」

営業秘密の漏えいがあった場合、漏えいした人は企業との雇用契約上の義務などに違反したとして損害賠償請求を受ける可能性があります。

また、それとは別に、不正競争防止法の定める「営業秘密」を漏えいした場合は、不正競争防止法に基づく民事上、刑事上の責任が発生します。

つまり、漏えいした人は、不正競争防止法に基づいて、企業から損害賠償請求を受けたり、また刑事罰を課されたりする可能性があります。

「不正競争防止法」とは、事業者間の公正な競争とそれによる経済の発展の阻害になるような行為を規制しています。

具体的には、以下のような行為を規制しています。

不正競争防止法は、営業秘密の侵害も規制しています。

ただし、不正競争防止法において保護される営業秘密は限定されています。
不正競争防止法の営業秘密として保護されるためには、「秘密管理性」「非公知性」「有用性」という3つの要件を満たしている必要があります(不正競争防止法2条6項)。この3つの要件は、それぞれ以下の通り定義されています。

企業としては、漏えいさせたくない情報は、しっかりとこの3つの要件を満たすようにしておく、特に①秘密管理性の要件を満たすために、管理体制を整えておくことが重要です。

営業秘密を漏えいした際のペナルティ

前述したように、従業員などが営業秘密を漏えいした場合、企業は従業員などに対して損害賠償請求をすることができます。また、漏えいした従業員などは、刑事罰が課される可能性があります。

営業秘密の漏えいがあった場合、企業としては、まず漏えいした従業員などに対して、営業秘密の漏えいにより生じた損害の賠償請求をする、営業秘密の不正開示や不正利用の停止を請求(差止請求)する、といった請求をすることが考えられます。

刑事罰については、例えば営業秘密が記録された持ち出し禁止のファイルを無断で外部へ持ち出す、無断で外部に持ち出した営業秘密をライバル会社へ開示する、といった行為をした場合、10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、又はその双方を課される可能性があります。

ただし、そもそも情報の漏えいは一度起こってしまうと、元に戻すことは不可能です。漏えいしたデータを回収しても、複製されている可能性もありますし、人の記憶を消すことはできません。

そもそも、営業秘密が漏えいしないような体制をつくることが、第一に重要となります。

営業秘密を守る3つのポイント

営業秘密の漏えいとして営業秘密の漏えいとして最もよく見られる、退職した従業員による漏えいを中心に、漏えいを防ぐための3つのポイントを解説します。

秘密保持誓約書を提出させる
入社時に、従業員に秘密保持誓約書を提出してもらうことがまずは考えられます。これによって、従業員が企業に対して営業秘密を漏えいしない義務を負うと同時に、従業員に対する意識づけとなります。

退職時にも誓約書を提出してもらうという企業も多いと思いますが、退職時には企業ともめているケースもあり、入社時点で、「退職後も含めて営業秘密を漏えいしない」という内容の誓約書を提出してもらうことが有効です。

また、秘密保持誓約書によって守秘義務を明らかにすることで、不正競争防止法で保護される営業秘密の要件の1つである「秘密管理性」が認められやすくなります。

営業秘密の管理体制を整備する
企業内における営業秘密の管理体制を整備することも当たり前のようですが、重要です。

・社外秘情報についてはアクセス制限をし、必要な従業員のみがアクセスできるようにする
・データのコピーを制限する
・不自然なアクセスを検知するシステムを導入する
・ファイル名・フォルダ名に「社外秘」表示をする
・ファイルにパスワードを設定する
・社外秘情報のリストを作成する

といったことで、そもそも重要な情報にはアクセスできる従業員を限定した上で、営業秘密であることを分かりやすくするのが有効です。

また、誓約書と同じく、例に挙げたような措置を取ることで、不正競争防止法で保護される営業秘密の要件の1つである「秘密管理性」が認められやすくなります。

研修の実施
営業秘密の管理体制をしっかりと整備することはもちろん重要ですが、例えばスマートフォンでPCの画面を撮影されるといった、防ぐのがなかなか難しい事案もあります。

そこで、従業員による情報漏えいを防ぐためには、従業員の意識づけが何よりも重要です。
そのためには、定期的な注意喚起などに加えて、情報管理研修を行うことが考えられます。

研修では、情報漏えいによる、漏えい本人へのリスクや、誰でも情報漏えいをしてしまう可能性があることをしっかりと周知したいところです。

情報漏えいをした従業員本人も、企業から損害賠償を請求される、刑事罰を受けるといった大きなリスクがあり、また近年営業秘密の漏えいにより逮捕される事案も増えています。こういった情報漏えいによるリスクを明確に伝えるようにしてください。

また、情報を利用する目的をもって不正に持ち出す、といった事案でなくても、メールの誤送信、プライベートの飲み会で話してしまう、家庭内で情報を漏えいしてしまうなどのように、誰でも情報漏えいをする可能性があるということを周知する必要があります。

研修で大切なのは、実施するだけではなくて、従業員全員が受講するような仕組みをつくることです。これがなかなか難しいのですが、従業員数が多くないのであればオフラインで研修を行い、全員に受講してもらうことで確実性が高まります。

オンラインの研修やオンデマンドの研修の場合は、従業員が聞いているかどうかの確認は難しくなりますが、研修後にテストを行い、理解度をチェックすることで確度を上げることが考えられます。

まずは3つの取り組みから

営業秘密の漏えいリスクへの対策は、安定したビジネスを継続して行うためにはなくてはならない必須の取り組みです。

まずは「営業秘密を守る3つのポイント」で挙げた3つの取り組みから始めてみてはいかがでしょうか。ただ、これらの対策はあくまで主要なものであり、実施してもなおリスクはゼロになるとはいえません。

実効性を持たせるためには、主要な対策の上に、企業の特性を踏まえたさらに具体的な対策を講じる必要があります。

法務担当のみなさんは、どのような対策ができるかを洗い出し、優先度をつけながら実行していきましょう。

「弁護士が解説!企業の守り方」第2回は、「個人(顧客)情報の守り方」について解説する予定です。