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Why Japanese pepole?なんで日本人はPDCAばかり言うの?

 日本でよく「PDCA」というキーワードを聞きます。しかし、米国のビジネスの現場で「PDCA」といってもほとんど通じないでしょう。

 以前に、私が日本の友人から「ピーディーシーエーって知ってる?」と聞かれたことがあって、「いや、食べたこと無いよ」と答えたら笑われたことがありました。その時まで、「ピーディーシーエー」は日本のお菓子の名前だと思っていました。(笑)これは本当の話です。

 「PDCA」は日本独特のキーワードのようです。今回は、この「PDCA」を通して私の目から見た日本の現状について書いてみました。

 「PDCA」は、私と同じ故郷のアイオワ州出身のウィリアム・エドワーズ・デミング博士によって1950年代に提唱されました。日本人には最早説明不要と思いますが、PDCAとは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)と定義されています。

 米国ではほとんど「PDCA」が通じないくらいですから、米国の大学の経営学でこれは現在に通用する管理手法として教えられていません。生産性向上の取り組みの歴史や古典として類似の概念が触れられるだけです。しかし、今から70年近く前に提唱された考え方を、今でも日本で使い続けられていることに驚きます。

 私が、日本で実際に「PDCA」を実践している幾つかの企業の現場を見て感じたのは、Plan(計画)とCheck(評価)を管理者や事務方が行い、Do(実行)とAct(改善)を部下や現場が担うという、二極化というか分断が発生しているように感じました。どうやら現場を知らない人達(そこの社内ではエリート?)が、これまた1980年代にMBAで教えられていた時代遅れの経営管理方法で、Plan(計画)とCheck(評価)を行い、現場はそれに従って素直にDo(実行)とAct(改善)を繰り返しているように見えました。

 米国では1950年代頃から、製造業などで生産性向上としてPDCAのようなサイクルモデルを実際に使っていましたが、1980年代からは米国の製造業が弱くなってきたので、新たな産業へのシフトとそこでの生産性向上の手法を生み出しどんどん進化させてきました。

 一方、日本では1990年代頃まで製造業を中心として経済発展をしてきましたが、1990年以降から現在まで成長のスピードが鈍くなっていることは、米国人である私にも何となくそれを感じることが多々あります。私の目から、その原因が70年前の製造業で多用されていた生産性向上の手法を今でも使い続けていることではないかと思っています。

 「PDCA」は正しく運用出来れば大変効果があると思います。例えば、自分自身のダイエットの目標達成。今の私には非常に大事なライフテーマです。(笑)これは極めてシンプルな目標設定と管理とフィードバックのサイクルです。自分自身の頭の中とライフサイクルで「PDCA」をきちんと実行すれば、ほぼ必ず効果は得られるでしょう。おかげで私は少しばかりダイエットに成功しました。

 日本のビジネス環境では、1990年代までの製造業の工程ラインなどでの運用で大きな成功をしています。米国でも「カイゼン」という言葉はそのまま通じるくらいですから、問題解決と生産性向上のサイクルモデルの実践の成功事例としては世界的に有名です。日本ではこういった成功体験があるので、今でも「PDCA」を大事にしているのかもしれません。

 しかし、現在はどうでしょうか?ダイバーシティと言われるように多様化したライフスタイルや価値観が当たり前となり、それに合わせて少品種大量生産から多品種少量生産へのシフト、企業に集まる人材も多種多様となり、昔に比べて組織の意思決定を初め様々な業務プロセスが複雑になっています。また、外部環境の変化も早く、常に当初の計画の見直しや修正なども行わなくてはならない状況になっています。

 日本では1990年代までの成功体験から「PDCA」は普遍的に正しい手法として定着し、それを信じて疑わない。それが提唱された時代と今とは大きく変わっているけど、その手法を使い続けようとする。しかし、環境変化からシンプルな手法にもかかわらず、なぜかなかなか上手くそのサイクルをコントロールできない。だから、日本では「PDCA」に関する本が多く出版されているのだと思います。私は日本語を完全に読むことはできないですけど、本屋の棚に「PDCA」がタイトルになっている本が多くて、とても面白いと思っています。

 確かに「PDCA」のプロセスを有機的に機能させながら動かすには、相当な時間と労力がかかると思います。しかし、全体を意識しないで、各プロセスをバラバラにして自身やチームのミッションだけを優先して結果を出そうとすればスムースに進むでしょう。
そうすると、例えば、現場をよく知らなくても、実態に合わない管理手法の導入やと目標を一方的に決めるとか、80年代から変わらない人的資源管理理論で評価制度を制定し、実態に合わせるより制度を優先するチェックを行うなどの問題が起きるかもしれません。

 個人やチームのミッションを優先し過ぎると、必ず歪みが生じるはずです。しかし、歪みが生じても続けるのは本当に生産性を向上させるのではなく、「PDCA」を動かすことが目的となってしまっているからでしょう。
そのためPlan(計画)とCheck(評価)を行うのが管理者。Do(実行)とAct(改善)を行うのが現場、という階層構造が出来ると思います。こういった階層構造はかえって生産性を悪化させる原因になります。

 私は、「PDCA」を信望している組織や管理者はもう時代遅れだと思います。「PDCA」が絶対と思うのであれば、そこで設定されたPlan(計画)も絶対的なものと考えるでしょう、だって、Plan(計画)がコロコロ変わってしまったら「PDCA」サイクルは機能しませんからね。しかし、現代はあっという間に経営環境が変わる可能性があります、そういった時代にPlan(計画)がズレてしまっても、それを見直すことなく「PDCA」サイクル運営を頑なに努めたらどうなるでしょうか?それが今の日本の成長が鈍くなっている原因ではないかと私は思っています。

 では「PDCA」ではなく今の時代に合った手法は何かと言えば、最近は「OODA」などが注目されているようですが、これも使い方を誤れば「PDCA」と同じような問題が生じる恐れがあると思います。
※OODAとは、 Observe (観察)、Orient (状況判断、方向づけ)、 Decide(意思決定)、Act (行動)のサイクルモデル。

 重要なのは個人や組織が、現状を正確に見極める視点を持ち、イノベーションの源泉となる利他的行為が生じること、自発的に問題を発見してそれを合理的に速やかに解決していこうとすること、その解決を実践する場合はプロセスをなるべく小さい規模で動かすことです。多様化した時代に大きな規模で問題解決のプロセスを動かす「PDCA」は現代にマッチしていないわけです。臨機応変な思考と行動が「PDCA」に代わるものでしょう。

 臨機応変に対応できる人材と組織は、心理的安全性が担保された職場で、相互の信頼やそれぞれの仕事の意義などが理解されている環境で形成されることは研究で解っています。Googleが自社内を対象に理想的なチームビルディングを行う際に必要な要素であったことを公表したことで一般の人にも知られるようになりました。

 Googleが公表した分析結果はあくまでもGoogle社内の中だけで行われたものなので、全ての企業に当てはまるものではないと思いますが、私の研究では先進各国での状況をメタ分析して、Googleが分析した以上のものを、どんな企業や組織でも現状や課題が可視化出来るようにしました。性格分析や仕事の没頭や熱意などを表面的に調査するエンゲージメント調査や従業員満足度調査では絶対に解らないものです。

 さて、この分析を実際に幾つかの日本の企業で行ったところ、心理的安全性と表面的な相互の信頼は高いのですが、機能的な集団としては不十分なケースが多いようです。どうやら「寄らば大樹の陰」的な心理的安全性と、生産性向上に必ずしも貢献しない「しがらみ」のようなものがあるようです。これについては、またコラムの中で説明するかもしれません。今回は以上です。