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悩む若手に「飲み会」「1on1」は逆効果?【リモートワーク共存時代~これからの社内コミュニケーションの在り方とは? Vol.3】

第2回では、コミュニケーションチャネルの変化が及ぼす影響について考え、出社にすべきか、リモートワークにすべきか、その比率をどうすべきか?という手段を考える手前で、
・働く社員、特に新人・若手の自律促進、協働性発揮をもたらす信頼・安心感醸成
・企業の持続成長の基板・土台の醸成
という2点をポイントに、社内コミュニケーションを点検することをお勧めした。

実際、リモートワークと出社を使い分けながら、働き方の多様化、生産性向上を実現していくことは必須となっているが、では同時に上記2点を生み出していくにはどうしたらいいのか?

今回は、ある企業の実例をご紹介しながら、考えていこう。

業務はそこそこ回っているが、若手がイキイキとしていない、くすぶっている

A社は一般消費者向け商品を開発・販売する商社だ。若者に人気のある商品を多く取り扱っており、自社開発だけでなく海外商品の輸入も行っている。若手に大きな仕事を任せていくことが多く、学生も「この会社に入ったら早く仕事が任せてもらえる、成長できる」という期待をもって応募をしてくるという。

そのA社、コロナ禍をきっかけにいち早くリモートワークを導入し、対面とリモートワークを両立させて運営。しかしほどなく人事担当者が抱るようになった問題意識が「若手がくすぶっている」というものだった。

コロナ禍においては消費者の購買行動は大きく変わり、業績が厳しい状況になっていた。すると若手からは下記のような声が聞こえるようになったという。

「社内のコミュニケーションは“これでいくら儲かるんだ?”といった話ばかり」
「こういう時だからこそもっと思い切っていろんなことにチャレンジすればいいのに、スピード感がない」
一体、自分は何のためにこの会社に入ったんだろう? 何のために仕事をしているんだろう?」


問題意識は本来、上司に投げかけたり、仕事でチャレンジしたりすることで解消していくものだが、若手社員たちはそうならなかった。それどころか、同様の悩みや迷いを抱える若手社員の離職が目立ち始めたという。

対策を打つが空回り。ところが、あることがきっかけで変わり始める

当初は、リモートワークに慣れないせいなのだろうか? 社員同士のコミュニケーション量が減ったことになるのではないか? ざっくばらんに悩みを話し合う機会を設けたらいいのではないか? と思い、オンラインで悩み事を交換し、解決にむけてアドバイスをしあう機会をつくったそうだ。しかし話が弾まない。現場の仕事はそれ相応に忙しく、若手からも「何のためにやるのかわからない」という声も聞かれた。

「マネジャーがもう少し関わり方を変えなければいけないのではないか?」「1on1を導入したらどうか?」といったことも考え、スタートをさせたが、マネジャーからは「まじめに業務に取り組んでくれているよ」という返答。

まいったな……と思っていた矢先、ある「社内コミュニケーション」をきっかけに、若手に変化が見られ始めた。

1つ目の変化は、「若手社員同士の自主的な語り合いの増加」だ。同期同士で積極的に飲み会や旅行に出かけたり、仕事について語り合ったりする社員が増えていった。

2つ目の変化は、「自らのキャリアを能動的に考える若手社員の増加」だ。社内公募制度に自ら手を上げ活用したり、個別に1on1を申し出たりする社員が増えてきたそうだ。

一体、この間に何があったのか?

若手のエネルギーを引き出す社内コミュニケーションとは?

A社の若手は、もともと「若いうちから仕事を任されたい、成長したい」という強いエネルギーの持ち主だった。しかしそのモチベーションを喚起させるような交流が薄まり、いつの間にかエネルギーがなくなってしまっていた。エネルギーがないから社内でマネジャーが1on1を実施しても、人事が悩み事を解決しようとしても、その機会を積極的に生かそう、という気にならなかったのだ。

私がA社の担当者にアドバイスをさせていただいたのは、「若手が悩んでいる問題を解決するため」のコミュニケーションではなく、「若手のエネルギーを引き出すため」のコミュニケーションをとることだった。

人が元気になってエネルギーを取り戻すきっかけの一つに、「自分が過去、エネルギーを持って働いていた体験を思い出し、その中にヒントを見つける」というものがある。

A社の若手がそのエネルギーを一番有していた瞬間は? そう考えた時にいきついたのが、「この会社に入社することを決めた瞬間」、「泥臭い仕事をやり遂げたのち、得られた喜び」の2つだった。

それらを想起しながらあくまでも自然に若手同士が交流する機会をつくることを進め、エネルギーを取り戻すための行動を実践してもらうことを提示。最初は研修という形で若手に参加をしてもらった。その後マネジャーに若手の意欲をはぐくむコミュニケーションのポイントを掴んでもらい、実践支援をお願いした。

「入社1年目でガムシャラに仕事を覚え、2年目でリモートワークにも慣れて、今後を考える余裕が少し生まれていた頃でしたが、どうも日常の仕事にまみれて、自分が何をしたくてこの会社に入社したのか?を忘れかけていた」
「コロナ禍で、商品の取り扱いが減り売上が思うように上がらない中、同期が苦労をして営業をしている、という話を聞いて、悩んでいたのは自分だけじゃないんだ、ということがよく分かった。もう少し頑張ろうと思った」


若手からはそんな感想が聞こえるような交流を継続して起こしていった結果、1on1が効果を持つようになり、数カ月で変化が起きることになった。

働く中で、素朴に感じる疑問や違和感、好奇心の中に社員の自発性を引き出すヒントがある

「ざっくばらんな話をしたらいいんだ」「飲み会をやればいいんだ」「上司とメンバーの1on1を強化しよう」。A社のような問題意識を聞いたときに、手法から考えるとどうしてもそのような発想になる。しかし多くの場合、形だけをとりいれても効果が乏しい。

自社の社員が、話しながら自然と元気がみなぎっていくようなコミュニケーションテーマは何だろうか? と考えてみることをお勧めしたい。

A社のような入社動機だけに限らず、
「自社が開発した商品に携わる人たちが、どんな思い、考えをもって開発をやり遂げたのか」
「他部署からの依頼、要望が、一体どのような事情・背景の中で出されているのか」
「なぜ、あのマネジャーは、あんなに売れる営業になったのか?どんな苦労があったのか」
仕事で働く中で、ふと感じる疑問や違和感、好奇心はないだろうか? 読者の皆さんの中にもあるはずだ。その中に、人の自発性を引き出すヒントが隠されていと私は考えている。

A社は、若手同士が集う研修という場を「自発性を引き出すコミュニケーションチャネル」として機能させたが、研修以外にも、打合せ、グループ会等の一部、方針発表会等、生かせる機会は様々ある。素朴な疑問・違和感・好奇心が発露される場づくりをトライしてみることをお勧めしたい。

今回ご紹介した事例は、特に若手の自発性・協働性低下がみられていたが、問題としては比較的軽いものである。企業の中には変革期に直面し、重たい課題を推進していかなければならない状況にある企業もある。変革期に必要なコミュニケーションチャネルとはなんだろうか?
第4回で実例をもとにご紹介したい。