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なぜ優秀な人ほど離職してしまう? 中堅層の離職について考える【中小企業の人材育成~「働き続けたい」組織と人づくりVol.2】

労働力不足が深刻化する中、このところよく耳にするのが「離職防止」に関するお悩みです。労働力の需給バランスが「売り手市場」に転換する中、中小企業において、人材確保は喫緊の課題なのではないでしょうか。そこでこのコラムでは1000社以上を担当し、中小企業の人材育成、組織づくりに深くかかわってきた株式会社リクルートマネジメントソリューションズの佐藤修美氏に、中小企業の人材育成をテーマに、バックオフィス担当者に必要なノウハウを伝授していただきます。第2回は中堅層の離職について。

中堅層の特徴

今後、組織を担っていくことを期待する優秀な中堅社員が、これから、というときに辞めてしまい、ほとほと困っている…というお声を最近よく伺います。期待の中堅社員を離職させないためにはどのような手立てを打つのがよいのでしょうか。

まず、この中堅と呼ばれる層の特徴を整理してみたいと思います。

1つ目は「幅の広さ」です。中堅層といったときに対象となる社員は、新入社員を1年目とすると、2年目から管理職(マネジャー)層の手前まであるので、年齢にすると20代前半から40代、場合によっては50代ぐらいまでが含まれてきます。対象となる年齢層の幅がとても広いということが中堅層の特徴の1つです。

もう1つの特徴として「二極化」を挙げることができます。何が二極化するのか、というと「成長の度合い」や「スピード」です。勢いに乗って、組織で目を見張る活躍をする人材が出てくる一方で、なんとなくくすぶり成長が鈍化してしまう社員がでてくるのもこの中堅のタイミングです。

なぜ二極化してしまうのか…①中堅社員に期待される役割とは

幅の広さは当然のこととして、なぜ中堅層は二極化してしまうのでしょうか。この点について考えてみましょう。

そもそも、中堅社員が「成長する」とはどういうことなのでしょうか。何ができるようになると成長した、と目されるのでしょうか。ここからは、組織風土や業務内容によっても差異はあると思いますのであくまで一般的には、というイメージで読んでいただければと思います。

例えば1年目の新入社員であれば、「まずは自分に任された仕事が一人でできるようになる」ということが期待されます。社会・組織のマナーやルール、業務、すべてが初めてでわからないことだらけのため、入社したての頃は、周囲の力を借りながら仕事を進めていきますが、やがて進め方を覚えていき、周囲の手を借りなくても自分でできるようになっていく。このあたりが1年目の新入社員に期待される成長かと思います。

では中堅社員となるとどうでしょうか。2年目になると「自分に任された仕事が一人でできる」は「できて当たり前」とみなされるようになります。そのうえで、中堅社員としての新たな期待役割が課せられます。その新しい期待役割とは「職場に良い影響力を与えること」です。具体的な行動で言うと

・上司や先輩の補佐をする


・後輩の面倒を見る


・仕事上で関わる部署と良好な関係を保ちながら仕事を進める


といったことが挙げられます。

1つ、ポイントとして言えることは「この行動さえとっていれば良いという訳ではない」という点です。中堅社員になってくると、中にはなんだか斜に構える人、反抗的な人、批判的な人…なども現れてくることがありますが、いくら期待や役割に合った行動をとったとしても、こういった態度が目立つようであれば、周囲は「成長した」と評価はしないかもしれません。

「率先してやる」「気持ちよくやる」「周囲に配慮しながらやる」といったスタンスが伴っていることも期待に含まれているわけです。

なぜ二極化してしまうのか…②置かれている現状の把握不足

まずは中堅社員に期待される役割を整理しましたが、今度は置かれている現状に目を向けていきましょう。

皆様も入社されたタイミングで新入社員向けの研修を受けられた記憶はないでしょうか。入社式の後、入社時の手続きや社史について人事から説明を受けたり、マナー研修を受けたり、業務の基礎的なスキルについて学んだり…といったことは経験があると思います。

新入社員は身に着けて欲しい知識・スキル・成長目標が明確で一律であることがほとんどです。受け入れ側は教える内容を決めやすいですし、「右も左もわからないだろう…」ということは想像しやすいので、OJT(On the Job Training)リーダーをつけて、OJT、Off-JT(Off-the-Job Training:職場を離れた場所での教育・学習)ともに手厚く支援体制を組みます。周囲の関心も高く、褒めるにしろ叱るにしろ、周囲からのフィードバックがたくさん得られるのも新入社員の時期ならではです。

しかし、2年目になるとどうでしょう。それまで手厚かったOff-JT、OJTが一気になくなったと感じる人が多いです。

「自分の仕事が一人でできる」は「できて当たり前」ゾーンに突入したので、「さあ一人でできるでしょう」と放たれるわけです。

それまで手取り足取り教わってきたのに、いざ自分で何でも主体的にと急に言われても器用にできない中堅社員もたくさんいます。放たれた先では自分で主体的に学んでいくことが求められることに加え、配属先によって経験できることや開発できる能力が異なっていたり、同じような職種でも配属された先のマネジメントが異なっていたりします。これらが複合的に重なって影響し、個々の成長に差がでてくることによって二極化につながっていくのです。

二極化の結果を2年目社員自身のせいだけにするのは酷

これはマネジメントの差に含まれることではありますが、私は特に「中堅社員としての具体的な期待を周囲が明確に伝えたか否か」という点は二極化に対して影響が大きいと感じています。

例えば、「なかなか成長しないなあ…」と思われている人はどんな人でしょうか。任された自分の仕事をただただ黙々と進めていたり、周囲への影響度合いが弱い人だったりするのかもしれません。これは、周囲の期待と本人がすべきと思っていることに認識のズレがあると起こる可能性があります。「1年目の時、自分の仕事を一人でやり遂げたら先輩は褒めてくれた。今私は自分の任された仕事を、一人できっちりやっています。それで何がいけないんですか?」という具合です。本人は疑いなく、本気で思っていたりします。

自分で周囲の期待をうまく察して対応できた人はどんどん成長していく一方で、察せられず1年目に与えられた期待のままに黙々と仕事を進める…こうして二極化に拍車がかかっていくわけですが、それを2年目社員自身のせいだけにするのは酷ではないでしょうか。

引いて考えると「期待を伝えていないんだから、そりゃあ、そうなってしまうよな…」と思いますが、中堅社員に差し掛かる時、「これからは自分の仕事を一人でやり遂げるだけでは不十分、周囲に影響を与えて欲しい」という期待をちゃんと伝えることを、皆さんの会社では行っていらっしゃるでしょうか。

優秀層が抜けると他の人の離職に影響大

優秀層とくすぶってしまう層、二極化してしまうのが中堅社員層ですが、将来有望と目していた優秀層から離職をしてしまう…というのが企業から最近よく聞くお悩みです。

優秀と目されている方は市場に高く評価してもらえるという自信もあるのでしょう。売り手市場の昨今であれば流動性は一層高まります。

優秀層が抜けると「あんなに活躍できている人が辞めていく。自分はこの会社に残っていていいのだろうか」と、それまで会社に不満ももたず、安定して働いていこうと思っていた他の社員の不安要素となり、連鎖的に離職を引き起こすこともあります。

活躍の幅や影響も広く、抜けた穴を埋めるのは非常に大変で、残った社員の負担も大きいものです。次代を担う社員と目していたなら、企業の未来にとっても大打撃です。

一方、くすぶっている人が離職をするとどうなるでしょうか。周囲から見て「うちの会社には合わなかったのだ」などと理由がついて、そのまま静観されることも多いかと思います。しかし、「本来自社で活躍できたかもしれない人材」が「気が付いたらくすぶっていて、辞めていく…」ということですから、この損失を引き起こしている要因を特定し手を打つ必要があるはずです。これこそ、看過できない問題なのではないでしょうか。

優秀層を離職させない、くすぶった人を放っておかない

優秀層を離職させないためにはどのような手立てをとるのがよいのでしょうか。また、くすぶっている社員に活躍してもらうにはどうしたらよいのでしょうか。
いずれの問題も私はやはり期待役割を伝えていくことが大切なのではないかと考えています。

特に優秀層はもっと成長したいという意欲や向上心も旺盛だったりします。中堅社員としての今の期待を伝えることに加えて、マネジメント候補や次代を担う候補として目されているといったことに該当するのであれば、もう1つ先の期待まで伝えていくということもこと大切なのではないでしょうか。
本人がこの会社でも更に活躍できる、成長機会があると感じられることが肝要です。

期待をかける/日常での活躍できる場面をつくる/プレマネジメントの意識を持たせる/フィードバックを行う、こういった機会づくりやマネジメントの場面でできることがたくさんあるような気がします。

また、二極化を放っておかず、底上げしていくことも組織づくりには欠かせません。先ずは期待役割を伝える、加えて将来のキャリアと結びつけて考えさせる、達成段階を明確化するなどして、企業側が継続して成長をサポートしていくことも不可欠なのではないでしょうか。