【前編】押さえておきたいハラスメント対策【弁護士が解説!企業の守り方 vol.3】
ビジネスには、リスクがつきものです。そのため企業の法務担当者は、企業のどこに、どのようなリスクがあるのかを把握し、取り除くための対策を講じる必要があります。
このコラムでは、AI法務プラットフォーム「LegalOn Cloud」を提供するLegalOn Technologiesの柄澤愛子弁護士が、企業が直面しやすいリスクとその対策を解説します。
第3回(前後編)、第4回は「押さえておきたいハラスメント対策」について解説します。
コンプライアンス遵守の社会的要求が強まるなか、企業の人事、法務、コンプライアンス等の担当者が必ず押さえておかなければならないテーマです。
今回は第3回の前編として、ハラスメントの種類や内容まで、お伝えします。
ハラスメントの種類や内容
ハラスメントにはさまざまな種類のものがありますが、職場で主に問題となるハラスメントのうち、特に重要であり、法令に定義が定められているものを解説します。
パワーハラスメント
パワーハラスメントは、労働施策総合推進法30条の2第1項において定義がされています。パワーハラスメントとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動」であり、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」であり、それにより「労働者の就業環境が害される」ものです。
つまり、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えた言動を行い、それによって相手の職場環境を悪化させる行為を指します。
厚生労働省が、パワーハラスメントに該当する類型として、具体的に以下の6類型を示しています。
① 精神的な攻撃
(例)
・「やめてしまえ」「いる価値がない」など社員の地位を脅かす発言。
・「無能」「分かっていない」「使えない」「給料泥棒」などの人格を否定するような侮辱。
・「バカ」「アホ」といった暴言。
・他人が見ている前で、侮辱する、暴言を吐く。
・必要以上に長時間、繰り返し叱責する。
② 身体的な攻撃
(例)
・叩く、殴る、蹴るなどの暴力。
・物で殴る、叩く。
・物を投げつける。
③ 過大な要求
(例)
・長時間労働、時間外労働を命じて、連日1人だけ遅くまで残業させる。
・休職の申出、有給申請を取り下げさせる。
・違法な業務をすることを命ずる。
・退職を強要する。
④ 過小な要求
(例)
・合理的な理由もなく自宅待機を命じる。
・「もう仕事をするな」と言い、放置する。
・シュレッダー係を命じて一日中シュレッダーをさせる。
・草むしりといった作業のみを長期間行うことを命じる。
⑤ 人間関係からの切り離し
(例)
・必要な資料を配布しない。
・話しかけても無視するなどコミュニケーションを取らない。
・1人だけ別室に席を離して孤立させる。
・忘年会や送別会などの飲み会、イベントに誘わない。
⑥ 個の侵害
(例)
・合理的な理由なく身分証などの提出を求める。
・仕事がうまくいかないのは彼氏がいないせいだ、などと言う。
・出身校や家庭の事情、恋人の有無などをしつこく聞く。
この類型はパワ―ハラスメントの典型的な6類型として示されています。ただし、この6類型はパワーハラスメントの全てを網羅したものではなく、これら以外の行為はパワハラにあたらないというわけではありません。
企業は、パワーハラスメントを防止するために必要な措置を講じる義務があります。
具体的には、厚生労働省が出している「パワーハラスメント防止指針」(「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して 雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号))などを参照して必要な措置を検討する必要があります。
パワハラ6類型(厚生労働省のパンフレットより)
セクシャルハラスメント
セクシャルハラスメントは、男女雇用機会均等法第11条第1項において定義がされています。
セクシャルハラスメントとは、以下に示すように2つの類型があります。
① 対価型セクシャルハラスメント
対価型セクシャルハラスメントとは、労働者の意に反するような性的な言動に対して、労働者が対応(拒否や抵抗など)することで、その労働者が解雇、降格、減給、労働契約の更新拒否、昇進又は昇格の対象からの除外、客観的に見て不利益な配置転換、といった不利益を受けることです。
(例)
・上司が労働者に対して性的な関係を要求したが拒否されたため、その労働者を解雇する。
・上司が労働者の腰や胸に触ったが抵抗されたため、その労働者に対して不利益な配置転換をする。
・事業所内で、上司が日頃から、性的な発言を繰り返していたところ、抗議されたため、その労働者を降格する。
② 環境型セクシュアルハラスメント
環境型セクシャルハラスメントとは、労働者の意に反するような性的な言動により、労働者の就業環境が不快なものとなり能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。
(例)
・事業所内で上司が労働者の腰、胸などにたびたび触っている。
・同僚が、労働者の性的な内容の噂を社内に意図的に繰り返し流す。
・上司が、労働者が嫌がっているにもかかわらず、繰り返し2人で飲みに行こうなどとデートに誘う。
・「最近彼氏と夜はどうなの」と言うなど、性的な事実関係を聞く。
・「胸が大きいね」と言うなど、性的な冗談やからかいを言う。
セクシャルハラスメントが起こる状況はさまざまなものが考えられます。特に環境型セクシャルハラスメントの判断は難しいことも多く、最終的には事案ごとの判断となります。
また、役員、上司、同僚などに限らず、取引先、顧客などもセクシュアルハラスメントの行為者になり得ます。例えば、病院に勤務している労働者が、患者からセクシャルハラスメントを受けるといったこともあり得ます。
そして、セクシャルハラスメントは、男性から女性に対して行われることが多いものの、女性から男性に対して行われることもあり得ます。かつ、異性間だけではなく、同性間であってもセクシャルハラスメントは成立します。
企業は、セクシャルハラスメントを防止するために必要な措置を講じる義務があります。
具体的には、厚生労働省が出している「セクシャルハラスメント防止指針」(「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号))などを参照して必要な措置を検討する必要があります。
マタニティハラスメント、パタニティハラスメント
マタニティハラスメント、パタニティハラスメントは男女雇用機会均等法第11条の3第1項及び育児介護休業法25条1項において定義がされています。
マタニティハラスメント、パタニティハラスメントとは、職場において行われる、妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業や育児休業を取得したことなどに関する上司・同僚からの言動によって、妊娠、出産した「女性労働者」や育児休業を取得した「男女労働者」の就業環境が害されるものです。
また、そもそも、妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業や育児休業を取得したことなどを理由として、企業が労働者に対して、解雇する、降格させるなどの不利益な取扱いをすること自体が法律で禁止されています(男女雇用機会均等法9条)。
解雇するなどの不利益な取扱いまでしなくとも、妊娠したこと、出産したこと、育児休業を取得したことに関して嫌がらせなどを行うと、それはマタニティハラスメント、パタニティハラスメントに当たります。
(例)
・上司に妊娠を報告したところ「迷惑なので早めに辞めてもらいたい」と言われた。
・妊娠に伴う時間外労働の免除について上司に相談したところ「次の昇進はないと思った方がいい」と言われた。
・上司が「妊婦はいつ休むか分からないので重要な仕事は任せられない」「忙しい時期に妊娠するとは迷惑だ」などと繰り返し言う。
・育児休業の取得について上司に相談したところ「男なのに育児休業を取るのか」「奥さんは何をしているんだ」などと言われて取得をあきらめるような状況に追い込まれている。
企業は、マタニティハラスメント、パタニティハラスメントを防止するために必要な措置を講じる義務があります。
具体的には、厚生労働省が出している「マタハラ(パタハラ)防止指針」(事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 28 年厚生労働省告示第 312 号))などを参照して必要な措置を検討する必要があります。
※後編は5月7日に公開!