中堅リーダーをもっと伸ばす関わり方とは? 人材育成の今【中小企業の組織づくり~いまこそ階層別育成の時代 Vol.7】

皆さんの組織にはどのような役職の方がいらっしゃるでしょうか。最近は「係長、主任といった役職がない」あるいは「部長も課長もない」というケースもあるでしょう。スタートアップ企業だと、階層が全社で3階層程度……ということも珍しくありません。そもそもピラミット構造ではなく、フラット化している企業もあり、それが肯とされるような気運があります。ところが、いざ組織運営をしてみるとフラットな組織の運営は非常に難しく、あらためて階層別組織の良さが見直されているように感じています。そこで本連載では中小企業の組織づくりをテーマに、階層別育成の考え方について解説していきます。ぜひ、自社の組織づくりに生かしていただければ幸いです。第7回は、中堅社員の中でもリーダークラスとして期待される層の役割と実践へのつなげ方のヒントをお伝えします。
目次
(1)ケース① 「一匹狼になっている」ときの関わり方
(2)ケース② 「率先垂範が過度なとき」の関わり方
(3)関わり方のヒント
ケース① 中堅社員が「一匹狼になっている」ときの関わり方
第6回では以下のケースをご提示しました。「うちにもこんな中堅リーダーがいるな……」「うちの中堅リーダーとは少し違うな……」など感じていただいたのではないでしょうか。改めてそれぞれのケースについて考えてみたいと思います。
ケース①
直属上司Aさんに、中堅社員(リーディングプレイヤー)Bさんに対する印象を聞きました。
Bさんは、さすが、リーディングプレイヤーなだけあって、業績は圧倒的です。今期我が営業1課は目標の120%の売上を達成することができましたが、これはひとえにBさんが業績を作ってくれたおかげです。なので、業績という側面でとても感謝しています。①結果、目標が達成できるので、まあ、いいかな、と思いつつ、気になっていることもあります。実は先日後輩のCさんが、Bさんに、業績の作り方を教えて欲しい、とお願いしてみたそうなのです。
すると、Bさんからは「私は自分でたくさん失敗したし、つらい思いや、経験を乗り越えて、今業績をつくれるようになったんだ。あなたも②経験を積めば売れるようになるよ。それに、後輩といってもライバルだし、そう簡単にノウハウは教えられないな」と言われたそうなのです。
それに、Bさんはいつも、営業先に直行・直帰してしまうので、正直、どんな風に営業しているのか、私もよくわからないのです。マネジャーの私としてはBさんの他にも売れるメンバーが増え、1課全体で営業力がつくといいなと思っているのですが……。
ケース内でお伝えしたかった点に下線をつけてみました。
下線① 期待役割が伝わっているか
リーディングプレイヤーには高い組織貢献が期待されます。では、期待される“組織貢献”とは、どのようなものでしょうか。
ケース①のBさん、さすがリーディングプレイヤーなだけあって、自ら組織をけん引する業績を作ってくれているようです。これも組織貢献と言えるでしょう。しかし、リーディングプレイヤーへの期待は業績成果のみにとどまりません。自分だけでなく同じ組織の後輩も同様に業績をつくっていけるような動きが期待されます。下線①を見てみると、期待をかける側の上司が「業績さえ出ていれば……」と捉えているようにも見えますが、本来Bさんにはマネジャーとともに組織全体がパワーアップするような動きが求められるはずです。具体的には、自分のやり方を後輩に見せてヒントを与える、後輩の動きにアドバイスをする、皆が動きやすいような仕組みづくりをマネジャーとともに考える、上司に進言する、といった動きです。
業績が出ているとつい、組織がうまくまわっているように感じてしまいますが、上司はBさんへのリーディングプレイヤーとしての期待を意識し、その水準で活躍しているのか、その観点で確認、助言するということを忘れてはいけません。
下線② 「組織成果」を意識できているか
下線②は期待役割が伝わっていないときに起こりがちな典型的な症状ともいえるでしょう。Bさんはすっかり「一匹狼」になっています。このようなとき、Bさんは「業績は出してくれるけれど、普段どのように動いているのか周囲から全く見えない」といったことが起きます。いわゆるブラックボックス化してしまっている状態です。Bさんはきっと、誰にも負けないぐらい努力をしたからこそ今の業績を作れるようになったのでしょうから、おいそれとノウハウを伝えたくない、と思う気持ちもわからなくはありません。ただ、先にも書きましたがBさんには組織全体のパワーアップに対しての期待があり、今の動きはその期待と異なっています。Bさんだけが結果を出したとしても、それは期待に叶っていないということをしっかり伝える必要があります。また、例えばミーティングでBさんが営業の方法を積極的に開示し周囲にヒントを与えるような機会をつくる、リーディングプレイヤー皆で、誰もが業績をあげられるようノウハウを言語化するプロジェクト組織をつくるなど、期待役割が実践できるような機会を場面としてつくってしまうのも1つの方法です。また、動きがブラックボックス化している場合、ルールを逸脱するような動き、コンプライアンスに違反するような動きが起きてはいないか、も気になるところです。後々取り返しのつかないことにならないようにするためにも、普段から状況の共有機会をつくるなど、そもそもブラックボックス化しない仕組みづくりを心掛けると良いと思います。
ケース② 中堅社員の「率先垂範が過度なとき」の関わり方
ケース②
直属上司Dさんに中堅社員Eさんに対する印象を聞きました。
Eさんは私の右腕です。課の運営にも協力的で、大変助かっています。①課運営や業績づくりについても、いろいろなアイデアを出してくれます。まわりのことも良く見えていて、細かな仕事まで巻き取ってくれて、有難い存在だなと思っています。後輩との関係もとてもよさそうで、安心していたのですが……。
先日課会で後輩FさんにそれとなくEさんのことを聞いてみました。「Eさんは本当に頼れる先輩です。Eさんとは同じプロジェクトで動いています。先日企画ミーティングがあったのですが、Eさんは事前にアイデアをまとめて持ってきてくれていたのでミーティングが短時間でスムーズに進みました。なので、私はEさんに従おうと思います」と言っていました。
実はEさんに、「Fさんはメインプレイヤーなので、企画案づくりもどんどん②Fさんに任せて主体的にやらせてみてあげて欲しい」と、企画ミーティングの前にお願いをしていました。プロジェクトは前に進んでいるようですが、私の期待とは少し違うなと感じています。
ケース内でお伝えしたかった点に下線をつけてみました。
下線① 滞っている仕事はないか
ケース①のBさんに比べ、Eさんは期待役割がわかっているかのような動きです。周囲も良く見えていて、組織の役に立ちたいという意欲を持ちながら動いてくれているように見えます。これも、一見うまくいっているように見えますが、そうとは言えない場合もあります。リーディングプレイヤーは経験も豊富で様々な仕事に幅広く対応できる状態です。それ故、あらゆる仕事を多重に抱えていることがままあります。まさに「仕事ができる人のところに仕事が集まる」といった状態です。しかし、期待に応えてくれるからこそ、リーディングプレイヤー本人の時間の範囲を超えて仕事が集まってしまい、実は重要な仕事が後回しになっている、もっと時間をかけて取り組んでほしい仕事が “こなし”て終わっているといったことが起きている可能性があります。
なかなか見えにくい落とし穴ですが、組織として重視したい取り組みや本人の成長に影響の大きい仕事にしっかり時間をとれているかはチェックしておきたいポイントです。仕事が集中しがちな場合、状況によっては仕事を他の人に振り分けるなど整理をする必要があるかもしれません。
下線② 仕事の巻き取りすぎに要注意
多忙になりがちなリーディングプレイヤーですが、仕事の巻き取りすぎには要注意です。下線①の例にあったように、時間を割くべき仕事ができなくなっている原因の1つに仕事の巻き取りすぎの可能性が考えられます。Eさんが「自分ができるからやってしまう」ことが、本来時間を重視すべき仕事に時間を割けない、後輩Fさんの成長機会を奪うという良くない影響を引き起こしている可能性があります。
もしくは、EさんもFさんにやってもらった方がいいとわかってはいるものの、「自分がやってしまった方が早い」と考えて片づけてしまった、ということもあるかもしれません。期待と異なる動きが起きている場合は本人にヒアリングし、引き起こしている原因は仕事の量なのか、はたまた意識の問題なのか、整理し、本人とともに問題を解消する方法を考えてみるのが良いと思います。
日々数多の仕事が進み、また、一見うまく進んでいそうに見えるが故に見落としがちな観点ですが、期が変わるタイミングをめがけて仕事を見直すなど、意識しておくと良いのではないでしょうか。
まとめ
リーディングプレイヤーは、職場において「仕事が出来る」と目されている層です。出来るということは何がしかの成果が出ているということでしょうが、その成果が期待と照らして合致しているかについて、持っている実力が高いが故に特に注意深く確認する必要がありそうです。順調に進んでいるように見えるからこそ、よくよく観察してみる、成果を出せているからこそ、期待役割からはずれないよう、周囲のサポートが必要なのではないでしょうか。
関わり方のヒント
第6回でご説明した通り、弊社では中堅リーダーの成長をトランジションモデルで(Leading Player=リーディングプレイヤー)として、整理しています。具体的には、個々の社員に対して周囲が関わって「抑える行動」、「伸ばす行動」を決め、うまく成長が進んでいないときの様子を「トランジションを乗り越えられていない」、成長がうまくいっているときに見える行動を「出口のサイン」などに棲み分けて言語化し、状況を整理しています。
中堅リーダーの皆さんとの関わりにおいては以下を目安にしてみてはいかがでしょうか。
抑える行動
☐他のメンバーや組織に対して関心をもたず、自分の担当業務に没頭する
☐他のメンバーを動かすよりも、自分で直接手を動かすことで仕事をこなす
☐仕事や組織に対する不平不満、愚痴を他のメンバーの前であらわにする
伸ばす行動
☐所属組織やチームが最大の成果をあげるために、いま自分が最もやるべきことは何かを考える
☐自分でなくても他のメンバーができるように指導する
☐上司や目上の相手にも、現場の目線から率直に意見を主張する
☐メンバーの持ち味や状況をつかみ、メンバー同士の関係性をつくる
トランジションを乗り越えられないと…
●個人業績の達成には熱心だが、周囲への貢献や組織活動に関心をもたない
●あれもこれも自分で抱え込み、結局どれも前に進まない
●目先の作業に追われ、他の重要な仕事が遅れる、雑になる
●考える仕事をすべて自分で行い、後輩が育たない
●自分のやり方が最適だと思い込み、後輩の意見や個性を潰してしまう
●情報共有を怠り、周りからは何の仕事をしているのかが見えない(一匹狼化する)
トランジションの出口のサイン
☐自分のことよりも他のメンバーや組織の業績に関心が向く
☐関係者の多い仕事でも、仕事が滞らない
☐他のメンバーからは言いにくいことを、メンバーを代表する意識で上司に伝えられる
☐上司の方針とメンバーの言い分の溝を何とか解決しようとする自分に気づく
☐職場のことについて、上司の考えをふまえて自分で判断したり指示を出せるようになる
☐メンバーの状況について上司よりも自分のほうが詳しいと思えるようになる
☐後輩への指示の出し方をいろいろ試しているうちに、思い描いた通り動くようになる
☐指導している後輩の成長を感じたり、後輩がよい評価をされたことをうれしく思う
☐責任を負うことへの抵抗感が薄れてくる