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現場DXに失敗は許されるのか? ~アジャイルやトライ&エラーを現場で実践するには~【半径5メートルから始めるDX Vol.5】

2025.07.14

変革やイノベーションを語るとき、「失敗を恐れずに」「失敗を許容しよう」といったことがよく言われます。しかし実際のところ、現場では「失敗してもいいからやってみよう」とか「ミスしても大丈夫」とはなかなか言いにくいのも事実です。前例の無いソリューションを導入したい場合など、リスクを承知でDXに取り組む際に、どのように会社や上司の合意、そして協力を取り付ければいいのか。今回は、皆さんのデジタル導入の取り組みをひとつのプロジェクトと捉えて、上司や同僚(ステークホルダー)を巻き込みながら効率的に施策を進める現場DX流のプロジェクトマネジメントの考え方をお話しします。

【過去のコラムはこちら!第1回第2回第3回第4回

不確実性の高いDXの取り組みを、「とりあえずやってみる」からちょっとだけ進化させるには?

不確実性の高いDXの取り組みを、「とりあえずやってみる」からちょっとだけ進化させるには?

このコラムでは「半径5メートルのDX」と題して、オフィスワークでありながら企業の“現場”で働く皆さんが、DXを身近なものと捉え、デジタルで現場の問題や困り事を解決し、仕事のやり方を変えるための参考になる考え方やヒントを紹介しています。5回目の今回は、前例の無いデジタルの導入や推進におけるリスク管理や周囲の巻き込みについて考えます。

世の中ではDXに限らず、企業やビジネスの変革を期待する声が高まる中、「変化の激しい時代、失敗を恐れずにチャレンジしよう」「リスクをとって新しいことに積極的に挑戦しよう」といったことがよく謳われます。しかし実際に日々現場で働く皆さんには、こんな葛藤を抱えている方が多いはずです。

・デジタル導入が理由で事務処理に不具合が起きて取引先に迷惑をかけたらどうしよう…
・上手くいくかどうかわからないのに、同僚に協力を求めるのは気が引ける…
・そもそも上司に「失敗するかもしれないけどやらせてください」とは言いづらい…

本来DXを進めるうえでは、トップがしっかりと方針を打ち出し、社内外に周知してその責任を負ったうえで、現場担当者が安心して挑戦できる環境があって然るべき、というのが正論です。メンバーがフットワーク軽く新しいことに取り組めるのは、理想的な姿と言っていいでしょう。

ですが一方で、企業や現場を取り巻く様々なステークホルダーや関係性のなかで、「とりあえずやってみよう」だけでは、なかなか前に進まないのもまた現実ではないでしょうか?

見方を変えれば、DX推進で推奨されるアジャイルやトライ&エラーといった考え方は、当然ながら「当てずっぽうでやってみよう」「失敗しても関係ない」ということを言っているわけではありません。

そこで、まず「半径5メートルのDX」を進めようとする皆さんは、下記3点のポイントを押さえてください。

急がば回れ、ステップ&マイルストーンを刻んでリスクも労力も小分けにする

“アジャイル”(変化に迅速に対応し、素早く柔軟に開発等を進めていく手法)と言われる本質も、“トライ&エラー”を可能にするのも、シンプルに言うと「小さく試す」ということに尽きます。逆を考えると簡単ですが、例えば壮大な基幹システムの構築などのビッグプロジェクトを、アジャイルにトライ&エラーで進めるのは一般的に難しいのです。

「半径5メートルのDX」は、言わば現場発の小さなデジタル変革です。業務の概要だけでなく細部に至るまで熟知した皆さんだからこそ、「小さく試す」ことが可能です。

例えばRPAや作業自動化を試みる際にも、いきなり全業務を対象にする必要はありません。現場の勘所で、この部分の作業が一番試しやすそうだ、効果がはっきり確認できそうだ、というポイントに絞って計画する。このとき、対象作業が小さければ小さいほど、上手くいった時の効果がそこまででもない代わりに、取り組む過程や失敗した際のリスクを小さくすることができます。

そして、取り組む対象の全体像を最終ゴールとし、まず最初に試す部分、そこが上手くいったら次に試す部分といったように、進めるためのステップ(シナリオ)を考え、次ステップに進む区切りとなるマイルストーン(各ステップ毎の目標地点)を置いて、簡単な全体計画を描いておくと、これまたありがちな「『小さく試す』の場当たり」も避けることができます。

リスクはきちんと説明しよう、リスクには「やらなかったらどうなるか?」も含まれる

デジタル化をいくら小さい対象から始めると言っても、必ず成功するという確証がある訳ではありません。もしかしたら、試したものの何らかの理由で上手くいかない可能性も考えられます。取り組みにあたって何らかの不確定要素がある場合は、上司や周囲に事前に説明が必要でしょう。リスクは隠すのではなく明確にして合意しておくべきものです。リスクはボラティリティ(変動要素)と言い換えることもできます。

ここでもプロジェクトマネジメントの考え方が参考になります。プロジェクトの構成要素は大きく分けてスコープ、スケジュール、コストの3つです。特にスケジュールとコストにはリスク、あるいは不確定要素が含まれる場合が多いので、その観点で確認し、説明しましょう。これに「やってみた結果」の品質、すなわちクオリティを含めれば最低限必要な観点は網羅できます。

加えて、もしこの取り組みを実施しなかったらどうなるか、つまり「やらなかった場合」のリスクも伝えておくべきです。デジタル化を取り組みたいのは、その対象業務に現在何らかの不具合や非効率があると感じているからに他なりません。それによって不良品が発生している、担当者の残業時間が伸長しているなど、いま起きている不具合がそのまま放置され続けると、時間や金額など定量的にどれだけの損失が発生するかを説明できると、取り組みの必要性への理解がぐっと高まります。

伝家の宝刀「費用対効果」、とにかく成果確認にはこだわろう

ここまでに説明してきた考え方は、いわゆる現場の業務改善でも同様であり、過去経験された方も多いのではないでしょうか(現場DXも基本は同じということです)。そして、何は無くとも業務での取り組みの是非についてまわるのが、いわゆる費用対効果です。組織として皆さんの貴重な時間を投入して取り組みを行う以上、「元が取れるのかどうか」は不可欠な判断要素になります。

もちろん前例の無いDXの取り組みですから、本当のところはやってみないと分からないとしても、先ほどのリスク同様、周囲を巻き込むうえではできるだけ納得感のある費用対効果を示したいものです。

これまでに述べたポイントを含めて、現場DXの費用対効果を考えるうえでの手順を整理してみましょう。将来的に対象業務を拡大すれば更にこんな効果が期待できるといったように、「5」まで実施することができれば理想的です

1. 着手する対象業務を小さく選定する
2. 想定されるリスク・工数とやらなかった場合の損失を示す
3. DXを実行・成功した際の期待効果を算出する
4. 費用対効果(2を上回る3が期待できること)を示す
5. 対象業務を更に広げた場合の効果を示す

また、効果やリスクの算出にあたっては、その「確からしさ」もひとつの論点になります。詳述は割愛しますが、「仮説」である以上100%の確証は無いのは止む無しとして、他業務での実績や、公開されている他社や一般事例などから数値や計数などを引用するのも工夫のひとつです。逆に言えば、そういった工夫でしっかりと「仮説を立てる」ことが重要になります。

リーダーの牽引と現場の知恵で実現する「半径5メートルのDX」

「半径5メートルのDX」を推進しようとするリーダーは、常にこの「上手くいくかどうか保証の無いプロジェクト」の責任を担います。その難局を乗り越える一つのポイントは冒頭に述べた「山を小さくする」ということなわけですが、リーダーはもうひとつ、ある意味「結果が出るまでやる」「結果をつくる」という胆力も求められます。結果が出るまでやりきれば、失敗は存在しないわけですね(もちろん、“引き際”の決断が必要な時もあります)

同時に、目先の小さな山を目指すあまり、最終目標である大きな頂上を見失わないこと、つまり近視眼や部分最適に陥らないようにすることもリーダーの重要な役目になります。ぜひ短期・中期の複眼的な視点を持って現場DXを実現してください。

本コラムで一貫してお伝えしている「半径5メートルのDX」のメソッドとは、言ってみれば現場が下を向かずに前向きに変革に取り組む知恵でもあります。ぜひ上を向いて変革を進めましょう。

次回、本テーマの最終回となるコラムでは、持続的に学び続けるDXの組織学習についてお伝えします。