学び続ける“現場DX” ~組織学習で実現する持続的なデジタル推進~【半径5メートルから始めるDX Vol.6】
このコラムでは「半径5メートルのDX」と題して、現場起点で進めるデジタル変革の考え方やポイントについて、これまで5回にわたりお届けしてきました。最終回となる今回は、DXを持続的に進めるための「学習」について、改めて深掘りしてみたいと思います。DXは、一度やって終わりではありません。社会やビジネスの環境が変化し続けるなか、絶えず新たな課題が生まれ、デジタル技術も日々進化しています。そんな中で、現場が変革を続けていくためには、常に新しいことを学び、知識をアップデートし続ける姿勢が不可欠であり、それらの学びは個人だけでなく、組織全体の競争力にもなっていくのです。
自発的学習を促す仕掛けと、現場DXの環境づくり
DXを実現するための学びには、まずは現場で働く一人ひとりが「自分にもできる」「もっと知りたい」と思えるような学習環境を整えることが重要です。最近では、Eラーニングや社内ポータルを活用した自己学習の仕組みやサービスが整ってきていますので、少し調べればどんな企業でも検討できるいくつかの選択肢があると思います。こうした環境整備によって、業務の合間に少しずつでも学べるような工夫が求められます。
コンタクトセンターの受託運営を主業とするBPO企業の当社では、主に受託センターの現場で働く多くの従業員向けに、社内ポータルに簡単な動画形式のDX講座を設置したり、各部署で実際にデジタルツールを導入した事例や方法を紹介したりしています。内容はRPAやExcelの関数活用、比較的安価で簡単に導入できるソリューションサービスの内容など、現場業務に直結するものをピックアップして多数掲載しています。コンタクトセンターの現場従業員は常に多忙で、なかなか現場を離れて研修に参加したり、まとまった時間を取ったりすることが難しいため、こういった少しの時間で気軽にアクセスできる情報や教材はとても重宝します。
また、学習のハードルを下げるためには、身近なツールから始めるのが効果的です。例えば、Microsoft TeamsやFormsなど、日常業務で使っているツールの新機能を試してみるだけでも、立派な学習です。普段のちょっとした作業の中で、気付いた時に積極的に新しいソリューションを試してみることや、それによる効率アップなど、こうした「小さな気付き」が、着実に現場DXの芽になっていきます。
“知らず負け”はもったいない、個人やチームの知恵を流通させてDXの学びを加速させる
「半径5メートルのDX」を進めるうえでの環境づくりについて、もう少し掘り下げてみましょう。
本当は既に社内で同じ問題を解決した事例があったのに、それを知らないまま自分は悶々と悩んでいた。私はこれをよく「知らず負け」と呼んで戒めにしていますが、皆さんの会社にも同じようなことはないでしょうか?
そもそも、私たちが世の中のまだ誰も知らないような新たな問題にぶち当たることはそう多くないはずで、類似の問題をどこかの誰かが工夫し解決した事例はたいていの場合、既に存在するはずです。これは社内も同じことで、現代の、特に大きな企業では機能別に部署が存在することで部門間の情報の流通が分断されてしまっていることも多いですが、隣の人、隣のチーム、隣の部署で、同じような問題やその解決手段を持っていないかどうか、そしてそこから学べないか(真似できないか)どうか、ふと冷静になって確認するようにしたいものです。
これは見方を変えると、自身が取り組んでいる問題や課題も、他の人にとって有益である可能性があり、そのためには誰でもアクセスできるように情報を発信したり、展開したりしておくことが重要だということに他なりません。現場DXにおける「ナレッジマネジメント」の重要性、とも言えるでしょう。
現場には、DXに限らず日々の業務の中で得られた知恵や工夫がたくさんあるはずなのですが、往々にしてそれが個人の中に留まってしまっているという、非常にもったいない状態が散見されます。ナレッジマネジメントの考え方を取り入れ、知識や経験をチーム内で共有する仕組みをぜひ作っていきましょう。
例えば、ある現場社員がExcelマクロを使って作業時間を短縮した事例を、社内SNSで共有したところ、他部署でも同様の改善が進み、全社的な業務効率化につながる。こうした「知恵の流通」が、DXの推進力になります。
ナレッジ共有の仕組みとしては、以下のような工夫が有効です。
• 成功事例を「社内ニュース」として定期配信
• 改善提案を表彰する制度の導入
• 社内勉強会やライトニングトークの開催
こうした仕掛けがあることで、現場の知恵が組織全体に広がり、次の改善のヒントにもつながっていきます。
“学習する組織”の第一歩、ラーニングコミュニティを創ろう
個人の学びを組織の力に変えるためには、「ラーニングコミュニティ」の存在が欠かせません。これは、部署や役職を超えて、共通のテーマで学び合う仲間の集まりです。
例えば当社では、ソリューション導入の研修を受けた受講生同士が社内コミュニティに参加し、研修後もそれぞれが現場で実践した導入事例を紹介しあったり、次の導入をするうえでの疑問点を相談しあったりするなど、その他の学習機会と組み合わせる工夫をして、コミュニティ自体の活性化を図っています。
こういった一見するとある意味「趣味的な」集まりは、もともと技術系が得意な人材だけで構成されがちですが、上記のとおり様々な工夫を図ることで、今では現場リーダーやマネジャー層も巻き込む形で広がっています。こうしたコミュニティがあることによって、学びが文化として根付き、DXの推進力が持続するのです。
また、既にお気付きかもしれませんが、少し前まではこういった取組みには、専用の社内Webサイトを立ち上げたり、告知のためのメルマガを用意したりなど、初動や運営にそれなりに工数がかかってしまうことがひとつのハードルでした。ところが現在は、多くの企業でTeamsをはじめとするコラボレーションツールが比較的カジュアルに使われるようになっていますので、バーチャルに人を集めたり、情報を発信・共有したりといったことが以前に比べて格段にやりやすくなっていることも追い風です。
ラーニングコミュニティの運営には、以下のようなポイントがあります。
• テーマは「現場の課題」に即したものにする(例:RPA活用、Teamsの業務連携)
• 参加は自由・気軽に、敷居を下げる
• 成果や気付きを社内にフィードバックする仕組みを作る
こうしたコミュニティが育つことで、学びが「一人で頑張るもの」ではなく、「みんなで取り組むもの」になり、自然と実践にもつながっていきます。
現場DXとは、組織が強くなるということ
ここまで「半径5メートルのDX」として、現場起点のデジタル変革を進めるための様々なヒントをお伝えしてきました。最終回のテーマである「学習」は、これらすべての土台となるものです。
学び続けることで、現場の社員一人ひとりが変化に対応できる力を身につけ、チームとしての対応力も高まります。これは単なるスキルアップではなく、組織としての「強さ」を育てることに他なりません。
DXは、技術だけでなく、人の力によって進みます。そしてその力は、学びによって育まれます。現場が学び続けることで、企業全体が変革に強くなり、持続的な成長へとつながっていくのです。
またリーダーの皆さんには、ぜひ「学びの旗振り役」として、率先して新しいことに触れ、メンバーと一緒に学ぶ姿勢を示していただきたいと思います。学びは強制されるものではなく、共感と興味から始まるものです。
「半径5メートルのDX」は、現場の小さな変化から始まり、やがて組織全体を動かす力になり、変革のカルチャーとなっていきます。その原動力となるのが、学び続ける姿勢です。ぜひ皆さんの現場でも、学びを通じたDXの推進を続けてください。半径5メートルから、もっと大きなビジネス成果につながることを期待しています。
これまで6回にわたってお届けしてきたコラムが、皆さんの現場DXの一助となれば幸いです。変革の旅はまだ続きます。これからも、共に学び、共に進んでいきましょう。









