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1600社の組織開発支援から見えてきた「強い組織」の裏側  「陰のヒーロー」と「未来のヒーロー」を見逃す組織の落とし穴【後編】

2025.11.04

受注獲得やプロジェクト完遂など、大きな成果を出した人に称賛が集まりやすい傾向は、組織として仕方のないことかもしれません。しかし重要なのは、そうした成果の裏側を支えてくれている「陰のヒーロー」や、これから成果を出していく「未来のヒーロー」の存在です。

前編では、陰のヒーローや未来のヒーローの頑張りに光が当たらない理由を述べました。後編となる今回は、その課題を解決する糸口となる相互理解と感謝・称賛コミュニケーションにフォーカスして解説します。

【過去のコラムはこちら!前編

関係性構築からポジティブなサイクルを生み出す「成功循環モデル」とは

「陰のヒーロー」「未来のヒーロー」のモチベーションを高めていく方法は、組織開発の専門家であるダニエル・キム氏が提唱する成功循環モデルをベースにして考えることができます。

成功循環モデルとは、組織が継続的に成果を上げるメカニズムを示した理論です。成功循環モデルは「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」という4つの要素で構成され、これらが相互に影響し合うことで循環が生まれていくと説いています。

このモデルでは、組織がどの要素を重要視するかによって、その組織がグッドサイクルを回せるか、バッドサイクルを回すことになるかが変わってきます。

グッドサイクル(成功の循環)とは

成功の循環は「関係の質」から始まります。互いに尊重して信頼し合える良好な関係があると意見交換が活発になるため、多様な視点からの意見を聞くことで気づきや学びを得られて「思考の質」が高まります。質の高い思考は、個人の積極的なアクションや組織としての協力体制などを促すため「行動の質」を向上させます。それが「結果の質」を高め、目標達成や自己実現といった成果が生まれます。

結果の質が高まっていくと、さらなる信頼や満足感をもたらして再び「関係の質」を向上させ、次のサイクルがよりよいものになるという好循環が生まれます。

バッドサイクル(失敗の循環)とは

バッドサイクルに陥りやすい組織は、まずは「結果の質」を求めがちです。成果づくりから着手するため短期的な結果のみを優先するあまり、結果が出ないと対立や摩擦、責任のなすりつけ合いが起こり「関係の質」が悪化していきます。そのため「失敗を回避したい」「目立ちたくない」といった自己防衛的な思考に陥り「思考の質」が低下した結果、消極的で受け身の行動を取るようになります。「行動の質」が悪化すると成果も出しにくくなり、さらに関係性も悪化していくという悪循環に陥っていくでしょう。

関係の質こそが「陰のヒーロー」「未来のヒーロー」に光を当てる

成功循環モデルから、組織が持続的に成果を出すためには、目先の結果を追求するのではなく、まず土台となる「関係の質」を高めることが不可欠であるといえます。

「陰のヒーロー」「未来のヒーロー」の活躍を可視化してモチベーションを高めたい場合にも、この成功循環モデルをベースに考えることができます。

まずは部門や役割を横断して組織全体で関係の質を高めることで、今まで関係性がなかったメンバーの業務内容や仕事へのスタンスにも気づけるようになり、「陰のヒーロー」「未来のヒーロー」の頑張りに光が届くようになります。このことにより「バックオフィスやサポートの業務を頑張ろう」という考えの質が向上してパフォーマンスも高まっていき、ひいては組織としての成果も向上していくのです。

関係の質を高めるためには

成功循環モデルが示すように、組織の持続的な成長の出発点は「関係の質」にあります。結果を求めるあまり関係性を軽視してしまっては悪循環に陥りかねません。

では、すべてのサイクルの起点となる「関係の質」は、具体的にどのように高めていけばよいのでしょうか。ここでは、具体的なアプローチの方法を紹介します。

関係性構築の第一歩は相互理解

関係の質を高めるためには、まずはお互いを知る「相互理解」を深める必要があります。相互理解とは、相手の業務内容だけでなく、その人の価値観や強み、考え方のクセなどを知ることであり、関係性を築いていく第一歩です。

会議や日報などを通じて業務内容を知ることはできますが、それだけでは十分とはいえません。なぜなら、業務的なコミュニケーションだけでは人となりや仕事に対する姿勢、価値観などは見えにくいためです。会議や日報といった業務的なつながりだけでなく、非公式なコミュニケーションもまじえながら相互理解を深めていくとよいでしょう。

チームビルディングゲーム
部門や役割が異なるメンバー同士が集まり、何かを一緒に成し遂げることは相互理解に効果的です。例えば、NASAゲームのようなコンセンサス(合意形成)を目的としたチームビルディングゲームは、チームでの意思決定プロセスを通じて、個々の価値観や思考のクセ、コミュニケーションのスタイルを明らかにできます。

ランチミーティング
オフィスとは違うリラックスした空間で食事を共にすることは、雑談の中から相手の意外な一面や人柄を知ることができる機会となります。業務上の役割だけでは見えない個人的な興味や価値観に触れることで、相手への理解が深まって信頼関係の構築につながります。

自己分析ツール
個人の強みや才能を客観的に可視化する自己分析ツールの結果を、お互いに共有し合うのも一案です。相互理解が深まれば、互いの強みを活かして弱みを補い合うような、効果的な協働が可能になります。

1on1ミーティング
上司と部下による1対1の対話の場も、相互理解には不可欠です。一般的には上司と部下の対話ですが、バックオフィスやサポートなどのメンバーと関わる機会の多い営業職やカスタマーサポート職などとの1on1ミーティングもよいでしょう。

社内SNS
各メンバーが「どの部門で、どのようなミッションを担い、どんなスキルや経験を持っているか」を共有する、いわば「組織のポートフォリオ」となります。また、相手の背景を理解した上でコミュニケーションが取れるため、より円滑な連携が期待できます。

個人間のコミュニケーションのポイント

相互理解を深める仕組みと並行して、日々のコミュニケーションにおける個人の意識も「関係の質」を大きく左右します。ポイントとなるのは、感謝・称賛の気持ちに「結果」を添えて伝えることです。

特にバックオフィスやサポートのメンバーは、日々の業務を通じて「ありがとうございます」「助かりました」といった言葉をもらう場面はあっても、それだけでは「自分の仕事が、具体的にどう役立ったのか」まで知ることはできません。結果まで伝えることで自分の仕事の価値を把握でき、組織に貢献できていると実感できます。

【例1】感謝のみのコミュニケーション
「Aさん、先日は資料を作成していただき、ありがとうございました! とても助かりました」

【例2】感謝と結果を伝えるコミュニケーション
「Aさん、先日の資料作成、ありがとうございました! あの資料のグラフが非常にわかりやすいとお客さまから褒めていただき、無事に契約につながりました。Aさんのおかげです」

例2のように伝えられると、自分が資料作成という仕事を完了しただけでなく、「価値を生み出し、チームの成功に貢献した」と実感できるでしょう。このような実感がモチベーションを高め、さらによい仕事をしようという意欲を引き出します。そして、感謝を伝えてくれた相手への信頼感も増すため、Aさんは「今度も良い資料を作成しよう」という気持ちになり、関係の質が一段と深まるのです。

日々のコミュニケーションにおいて、感謝や称賛の言葉に「あなたのおかげで、こんなよい結果が出た」という具体的な一言を添える。この小さな習慣が「陰のヒーロー」「未来のヒーロー」にポジティブな影響を与えてグッドサイクルへとつながっていきます。

感謝・称賛コミュニケーションの組織づくり

感謝・称賛のコミュニケーションは一人ひとりの意識づけや工夫のみでも実行できますが、個人の意識だけに委ねてしまうと、できる人とできない人の差が生まれて組織全体の文化として定着が困難になります。

一部の人だけでなく誰もが自然に感謝・称賛を伝え合える組織をつくるためには、その行動を後押しする仕組みが不可欠です。

トップダウンアプローチとボトムアップアプローチ
組織の文化醸成において、経営層が自発的に取り組んでいる姿は大きな影響力を持ちます。社長や役員が従業員への感謝・称賛を積極的に発信していると、「感謝・称賛は、この組織にとって公式に重要な価値観である」と伝わります。

ただし、トップダウンの推進だけでは、「やらされ感」が生まれて形骸化してしまう恐れがあります。そこで、現場が自分たちに合ったやり方を考えて実践してもらうボトムアップのアプローチを組み合わせることが鍵となります。

人事評価制度との連動
感謝・称賛の文化をより強固にするためには、人事評価制度に組み込むことも有効です。個人の成果だけでなく、「他者への貢献」や「チームワークの促進」といった項目を評価基準に加えます。また、360度評価を通じて他のメンバーから感謝のメッセージや貢献へのフィードバックを収集して評価の一部として活用すると、他者を支援する行動が正当に評価されると認識できるため、より積極的に取り組むようになります。

感謝を可視化できる制度設計
感謝の気持ちを口頭だけで伝えるのは、実はもったいないことです。他のメンバーも見ることができる場を設けると、バックオフィスやサポートメンバーの頑張りや貢献を多くの人に知ってもらえます。

たとえば、感謝・称賛の気持ちを文章にして相手に贈るサンクスカードという制度があります。「Aさんの資料のおかげで受注できました」「入社から今日までの期間で○○ができるようになりましたね」などと感謝・称賛を贈ることで、その人の存在が組織活性化につながっていると本人だけでなく全体に発信できます。

強い組織は全員が「ヒーロー」になっている

成長している組織は、特定の人の成果に依存するのではなく、組織の「関係の質」が高いからこそ全員で成果をつくりあげています。まずは関係の質を向上させるため、相互理解を深める方法を取り入れてみてはいかがでしょうか。

また、個人レベルでは感謝に結果を加えるコミュニケーションを意識し、個人の取組みを組織文化として定着させるために組織としては仕組みづくりを行う必要があります。

こうした取組みを通じて称賛文化を醸成することにより、すべてのメンバーが自分の価値を感じながら働ける組織となり、優れた成果を上げ続ける強い組織を創造できます。