そもそもカスハラとは何か? 企業としても個人としても認識をアップデートしよう!【今なら間に合う、現場で始めるカスハラ対策 Vol.1】
カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)という言葉が社会的に注目されるようになって久しく、国・自治体や行政が企業にも対策を求めるようになっています。とは言え、まだまだカスハラ対策をどのように進めればいいか模索中の企業も多いのではないでしょうか。その対策にあたってまずは、自社にとってどこからがカスハラでどこまではカスハラではないのか、その定義について考える必要があります。よくある質問への回答と合わせて、あらためてカスハラの定義についてお話しします。
「カスハラ」は「クレーム」と何が違う? その線引きの難しさも含めて理解しよう
現在、国・行政や各自治体、業界団体などが相次いでカスハラに関する指針やガイドラインを公表しており、多くの企業がカスハラ対策について課題認識を持っています。しかし、企業の中にはその対策が追い付いていない、あるいは着手すらできていないという場合も多いのではないでしょうか?
対策が難しい要因はいくつか考えられますが、まず最初に「何がカスハラにあたるのか」という大前提の定義の部分で悩んでいる企業もまだまだ多いように思われますし、「クレームと何が違うのか?」といった戸惑いの声もよく聞かれます。
厚生労働省の『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』によれば、その定義はこう記されています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの。
業界や業種、業務形態によっても事情や解釈が分かれるところもありますが、総じてクレームとの見極めや線引きがひとつのポイントになりそうだ、ということは、上記の定義をみてもお分かりいただけるかと思います。
下図のように、正当なクレームまでカスハラとして排除しないことや、実質的な脅迫・誹謗中傷や身体的暴力など“完全にアウト”な部分の判断をしっかり行えるようにしておくことに加え、場合によってはどちらとも捉えることのできるいわゆる“グレーゾーン”を、事前に企業として定めておくことが重要になります。自社・顧客の特性も踏まえ企業毎に検討することが重要ですが、一般的には著しく妥当性や合理性を欠いた要求、社会通念上不相当な要求、といった表現がよく用いられるようです。
なぜいまカスハラがクローズアップされるようになったのか、カスハラにまつわる経緯と背景
ところで、カスハラがなぜ問題かということは社会通念上、言うまでもないことのように思われますが、とりわけ昨今取り沙汰される背景や、日本社会における特徴的な要因はあるのでしょうか?
よく言われることは、「お客様は神様である」という昔からの商慣習上の(やや曲解された)価値観から、顧客側の要求が過剰に認められてしまいがちな傾向や、中高年世代が過去の経験上、相手のために厳しく指導するべきであるという旧来の価値観や擦り込みから、行き過ぎた表現や手段を取る結果、企業よりも顧客(自分)の方が上であるという認識や過剰な正義感となって、さらにエスカレートしていくことが多いと考えられています。
特に後者の背景はカスハラに限らずパワハラなど他のハラスメントにも共通した要因と言えますが、前述の定義や分別も含め、カスハラという問題がいかに複雑な要素を孕んだ難しいテーマであるかということが、あらためてお分かりいただけるのではないでしょうか?
ある意味、企業視点だけでなく顧客・消費者視点としても、私たち全員がカスハラを起こしうるという前提に立つことも大切だと考えられます。
企業にも顧客にも言い分がある「グレーゾーン」の難しさと対応のポイント
話をカスハラの定義と対応に戻しましょう。前述のとおり社会背景的に顧客の要求や企業の過剰な対応をエスカレートさせてしまう要因はあるとは言え、ほとんどの場合そもそも顧客にも顧客なりの言い分があるはずです。
まずはその言い分が何なのか、冷静に見極める必要があります。先に言うと、仮に言い分が無い場合、つまり行為そのものを面白がっていたり楽しんでいたりするいわゆる愉快犯や嫌がらせといったケースは即カスハラに準ずる対応にシフトするべきでしょう。
顧客の言い分が明確であった場合、次に2つの判断軸が必要になります。ひとつは、その要求内容が企業として許容できる範囲で応えられるものかそうでないかという判断。もうひとつは、その言い分というよりは言い方、つまり表現方法や手段が妥当であるか否かという判断です。
よくある怒っているからとか、間違いを強く叱責されたというケースは、それだけではカスハラとは言えません。度を越した金品や土下座の要求や、近隣にまで怒鳴り散らす、胸ぐらを掴むなどの行為など、そのいずれかあるいは複数が当てはまる場合は、カスハラと考えることができるでしょう。
【Q&A】企業のカスハラ対策においてよくある質問
ひとつの正解があるわけではないカスハラ対策、どの企業も悩みながら対応されています。ここではそんな企業の現場の皆さんからよくある質問について、当社のインストラクターで多くの企業へカスハラ対策の支援を行っている阿部がお答えします。
Q:「サービス上、どうしても普段から一定の苦情は発生します。カスハラとクレームの区別が難しいのですがどうしたらいいですか?」
A:大声で怒られると「カスハラ」と思いがちですが、判断は難しいですよね。まずは、感情ではなく内容に注目してみましょう。提供する商品やサービスに対する指摘であればクレームと言えますが、「お前が無能だからこうなった」などの人格否定や、「土下座しろ」など商品やサービスに関係のない要求を執拗にしてくる場合はカスハラと言えます。
Q:「当社の業界(あるいは自治体)からはまだカスハラ対策のガイドラインが出されていません。どうしたらいいでしょうか?」
A:企業には安全配慮義務や職場環境配慮義務などが課せられているため、従業員を守る対策を講じておかなければいけません。対策として、以下を参考にしてください。
① 「何がカスハラに該当するか」を明確にし従業員への周知と顧客にも周知をしましょう。
② カスハラに直面したときの対応ルールを整備しておきましょう。例えば、初期対応のルール、エスカレーションの基準、対応終了の条件や記録の徹底などです。
③ 対応ルール通りに動けるように、従業員への教育・研修を定期的実施します。
④ カスハラを受けた従業員の相談窓口を儲けましょう。
⑤ 従業員の安全を最優先にするための安全対策を検討しておきましょう。
ガイドラインがなくても、他社や類似業界の事例を参考にすることで、適切な対策を検討することができます。同業他社の公開資料やニュース記事、カスハラに関する裁判例や法的な解釈、外部セミナー等も活用されるといいでしょう。
次回は、皆さんが頭を悩ませるカスハラ対策の具体的な手順とポイントについて解説します。
※本記事に掲載されている図表は全て(株)TMJの研修テキストより抜粋しています。








