掲載希望の方 オフィスのミカタとは
従業員の働きがい向上に務める皆様のための完全無料で使える
総務・人事・経理・管理部/バックオフィス業界専門メディア「オフィスのミカタ」

カスハラ対策は何からやればいい? あなたの会社が最初に始めるべきポイント【今なら間に合う、現場で始めるカスハラ対策 Vol.2】

カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)はすでに社会問題であり、同時に国や自治体から企業に対して対策の法的義務化が進んでいますが、多くの現場では具体的に何から手を付けたらいいか分からず困っているケースも多いのではないでしょうか。今回は、各種法令やガイドラインが求めているカスハラ対策のポイントを解説しながら、カスハラ対策の1丁目1番地、企業はどこから着手したらよいのかをお伝えします。

【過去のコラムはこちら!第1回

いま企業に何が求められているのか、制度やガイドラインの要求事項を理解しよう

カスハラという問題が顕在化し、社会で取り沙汰されるようになってから久しく、業種や業態による違いこそあれ、皆さんの会社でもその問題意識は多くの方がお持ちだと思います。

社会的な問題意識の高まりを受け、2022年に厚生労働省が『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』を発表し、企業が取るべき対策の基本的な枠組みを示しました。また各自治体や業界団体の動きも活発になり、代表的な例では2025年4月に東京都が『東京都カスタマーハラスメント防止条例』を施行しています。

そしてこの2025年6月には、『改正労働施策総合推進法』が成立し、予定ではおよそ1年後の2026年10月には施行されることになっています。この大きなポイントは、これまでのいわゆるガイドライン等とは異なり、カスハラ対策が企業の「雇用管理上の措置義務」とされた点にあります。つまり、企業にカスハラ対策を義務付けたという点で、端的に言えばいよいよ強制力を持って企業に対応を迫っているとも言えます。

下図に改正労働施策総合推進法の概要を記していますが、その他の各種ガイドライン等、自社が所属する業界や自治体の発出物についても、まだの方は一度目を通しておいてください。

まずはココから始めよう、カスハラ対策に重要な4つの手順とポイント

次に対策を進めるうえでのポイントを、順を追って説明します。ここでは前述の改正労働施策総合推進法を中心に、共通して求められる内容を前提に解説していますが、別途自治体や業界によって特徴的な個別の要求事項もありますので、詳細は各ホームページなどで必ず確認してください。

要求事項のひとつに「方針の明確化と周知」というのがありますが、実はこれを行うためには自社にとって「何がカスハラか」を定義しておく必要があります。従ってまずは自社としてどういった事象をカスハラとして扱うかから検討し、定義付けしましょう。

次にその定義したカスハラに対して企業としてどのように対応するかの対策を検討・策定します。このとき、対応というのはカスハラを行った顧客に対するものだけでなく、社内の従業員に向けた対策も求められている点に注意が必要です。そしてこれらの対策を文書化しておくことが、次のステップに続いていきます。

こうしてカスハラの定義と顧客や従業員に向けた対策が準備できたら、自社が企業としてカスハラにどのように向き合うかという方針と合わせて、その内容を社内外に周知します。社内の周知は企業の規模などによってもそれぞれの方法があると思いますが、社外、すなわち顧客や社会全体に向けた周知については企業のホームページやパンフレットなどで行われることが多いようです。

そしてこれら策定・周知した内容に従い、その対応を行うための体制を整備します。これも企業によって異なりますが、一般的には二次対応の体制づくりや社員向けの相談窓口の設置などが挙げられます。

現場や個人にシワ寄せが来ていないか、よくある“つまずきポイント”を乗り越えよう

カスハラ対策を行ううえで、注意すべきポイントをいくつか見てみましょう。あらゆる実行策と同様、「仏作って魂入れず」とならないようにすることが肝要です。

自社のカスハラを定義することは前述のとおりですが、そもそもあなたの会社では実際にどのような“カスハラ”(あるいはそれに準ずるもの)が起きているか、きちんと把握できているでしょうか。エスカレートしたケースは社内でも把握されているかもしれませんが、従業員がある意味“耐えて”終わっているケースも少なくありませんので、まずはその実態をきちんと把握しましょう。

次に、“誰が”カスハラ対策を推進するか、という問題です。明確に顧客対応部門(店舗やコールセンター)がある企業の場合、ともするとカスハラ対策もその部門だけが四苦八苦することになりかねませんが、前述のとおり法令は「企業としての姿勢」を要求しています。カスハラ対策の推進には、経営を含め全社をあげた体制で取り組むことが望ましいでしょう。

最後に、且つこの点が最も難しいのですが、策定した方針や対策をどのように浸透させるかという点と、定期的に状況を把握したうえで見直しを行うという点が、忘れてはいけないポイントです。社員には直接説明する場を設け、自社として「カスハラを許容しない」「従業員を保護する」という姿勢をきちんと理解してもらう必要があります。また対策を策定して終わりではなく、その後も継続的に運用や見直しを行うための部署や担当を明確にしておくことも大切です。

以上のポイントをしっかりおさえ、実効性のあるカスハラ対策を策定しましょう。

Q&A 企業のカスハラ対策においてよくある質問

ひとつの正解があるわけではないカスハラ対策、どの企業も悩みながら対応されています。ここではそんな企業の現場の皆さんからよくある質問について、当社のインストラクターで多くの企業へカスハラ対策の支援を行っている阿部がお答えします。

Q:「小さな会社なので相談窓口などの体制が準備できません。どうしたらいいですか?」

A:2026年10月施行予定の改正労働施策総合推進法により、カスハラ対策は企業の義務になり、義務内容には「相談体制の整備」が含まれ、窓口設置や相談対応が求められます。出来ることとして、厚生労働省や自治体の無料相談窓口を案内することも可能です。また、弁護士事務所のような外部の相談窓口を利用することもできます。また、軽度の相談は社内で受け、専門的判断が必要な場合は外部窓口へ相談するというハイブリッドで実施している企業もあります。カスハラの相談は誰に(どこに)するのか、相談を受けた人の必要な行動は何か、等をまとめておくといいでしょう。

Q:「当社はBtoBの事業を行っています。取引先からのカスハラにどのように対策を取ればよいですか?」

A:カスハラは「お得意様だから仕方ない」ではなく、企業の安全配慮義務に直結する問題です。取引先との力関係を背景にした過剰要求は、独占禁止法や下請法違反にもなり得ます。基本方針に顧客や取引先であっても、不当な要求は許容しないという企業姿勢を明示しましょう。また、契約書にも明文化するなどして、お互いの認識を合せることもできます。(例:契約外業務の強要禁止、深夜・休日対応の制限など)

次回は、より具体的に効果的なカスハラ対策のポイントや特に注意すべき点について解説します。

※本記事に掲載されている図表は全て(株)TMJの研修テキストより抜粋しています