業種・業態でここまで違う? 中小企業が押さえるべき「自社の特性に合ったカスハラ対策」【今なら間に合う、現場で始めるカスハラ対策 Vol.4】
第1回から第3回では、カスタマーハラスメント対策における基本的な考え方や、企業として最低限整えておくべきフレームを確認してきました。しかし実際の現場では、「理屈は分かるが、自社の業種ではどう考えればよいのか分からない」と感じる方も多いのではないでしょうか。カスハラの発生のしかたや有効な対策は、業種や業態、顧客との関係性によって大きく異なります。今回は、そうした違いに着目し、中小企業が自社の特性に合ったカスハラ対策を考えるための視点とポイントを整理します。
カスハラは一律では語れない~業種・業態によって“起こり方”が異なる理由~
第1回から第3回で、カスハラ対策の基本的な考え方や共通フレームを確認してきましたが、実際にはその“発生のしかた”は業種や業態によって大きく異なります。まずは、なぜ業種別に考える必要があるのか、その背景を整理してみましょう。
これまでに紹介した考え方は「共通の土台」であり、そこから自社に即した対策に落とし込むためには、まず今一度自社で発生するカスハラの特性を確認する必要があります。
カスハラは、顧客との関係性、接点の持ち方(対面/非対面/オンラインなど)、発生頻度や即時性の有無など、企業やサービス提供のあり方によっても内容や影響度が変わってきます。また、仮に同じようなカスハラに類する言動や事象が発生した場合でも、企業によって現場の受け止め方、企業としてのリスク、取るべき対応は異なってくるでしょう。
これが、線引きやグレーゾーンを企業ごとに設計しなければならないということと、カスハラ対応そのものの難易度の要因になっているとも言えます。いずれにしても、まずは改めて自社のカスハラ発生がどのような特性と意味を持っているか、上記の観点で俯瞰し、整理することをお薦めします。
そしてここまででお分かりのように、他社や過去の事例などを一律、そのまま自社に適用して無理にカスハラを抑えようとする行為は非常にリスクがありますので注意しましょう。
自社はどのタイプ? 代表的な業種別に見るカスハラ対策の考え方
業種や業態ごとの特徴を踏まえると、重視すべきカスハラ対策のポイントにも違いが見えてきます。ここでは代表的な業種タイプごとに、考え方と注意点を整理します。業種特有の細かい内容を職人的に深堀りすればよいということではなく、必要な切り口を押さえておくことが重要です。
ここでは代表的な業態、具体的には顧客接点の種別によって見てみましょう。
まずは店舗や窓口で発生するケース。多い業種としては小売や飲食、医療、自治体などでしょうか。特徴は言うまでもなく即時性・対面性が高いことであり、従って現場での初期対応ルールとエスカレーションが最重要になります。対策主管部門としては現場で使いやすい簡潔なルール提供や、ワンオペや少人数体制を前提にしたフォロー体制の提供が肝心です。
次に非対面型、具体的にはコールセンターやカスタマーサポートで発生するケースです。非対面で声・言葉だけであるためエスカレートしやすいという特徴があります。一方、電話やメール・チャットといった特性を活かし、記録・ログが残せるという強みを軸にルールや対策を考えることができます。
もうひとつ、BtoB型、企業間での継続的な取引き関係のようなケースです。これは業種問わず、無理な要求等でも「取引先だから言い返せない」という構造があります。しかし、ビジネスであるからこそ社員の安全配慮義務を根拠に毅然とした態度を表明するため、契約書や取引条件に落とし込むことや、判断を現場任せにしないフローやフォロー体制などが重要になってきます。
一般的な方法論だけで終わらせないために~中小企業が自社仕様に落とし込む視点~
前述した業種別の考え方はあくまでヒントであり、そのまま当てはめればよいわけではありません。最後に、中小企業のバックオフィス部門が中心となって、自社に合った対策へ落とし込むための視点を整理します。
繰り返しになりますが、いきなり業種・業界に特化した分厚いマニュアルが(仮に作れたとしても)あればいいというわけではありません。
まず大前提として、すべては自社の「顧客接点」と「発生しているカスハラ事例」を洗い出すところから始まります。次に、その洗い出した内容から、自社で起きやすいカスハラを類型化します。
そのうえで、第2回のコラムでもお伝えした対策の基本手順に則り、①自社としてのカスハラの定義、②対策の作成と文書化、③社内外への周知(教育)、④フォロー体制の準備・構築を進めていきましょう。
読者の皆さんが、仮に人事や総務などの役割を少人数で担当しているチーム、すなわちカスハラ対策の推進部門だとすると、特に期待されるのは「現場の声を構造化し、それに応えること」だと言えます。現場を孤立させず、その声に耳を傾け、客観的な視点も交えたサポートをぜひ提供してあげてください。
皆さん自身がその工数や負担に悩むこともあると思います。法令への対策は急ぐ必要はありますが、まずは要点を押さえたうえで、カスハラ対策は小さく始めて、見直し続けるものであるという前提に立って着手しましょう。
Q&A 企業のカスハラ対策においてよくある質問
ひとつの正解があるわけではないカスハラ対策、どの企業も悩みながら対応されています。ここではそんな企業の現場の皆さんからよくある質問について、当社のインストラクターで多くの企業へカスハラ対策の支援を行っている阿部がお答えします。
Q:「他社事例や業界ガイドラインは、そのまま使っても問題ありませんか?」
A:そうですね、参考にすることはとても有効です。しかし、「そのまま自社に当てはめる」ことはお勧めできません。業種・業態、顧客との関係性、現場体制が異なれば、同じ言動でもリスクや影響は変わります。他社事例はあくまでヒントとして捉え、自社の顧客接点や現場の実情に照らして「どこが共通で、どこが違うのか」を考える視点を持つことが重要です。
Q:「BtoBの取引先からの無理な要求に対して、関係悪化が怖くて踏み込めません。どこまで対応を見直してよいのでしょうか?」
A:BtoBの場合「取引先だから我慢するしかない」となりがちですが、従業員の安全配慮義務を優先すべき点は忘れてはいけません。
まず見直すべきは、対応の判断を現場任せにしている状態です。無理な要求があった場合に、どこまで対応し、どの時点で上長や主管部門に判断を委ねるのかといった線引きを、組織として整理しておくことが重要です。
また、こうした問題は「起きてからの対応」だけでなく、取引開始時や関係構築の初期段階で、対等なビジネスパートナーとしての姿勢を共有しておくことも有効です。初期に対応範囲や判断の考え方を整理しておくことで、無理な要求や関係悪化を未然に防ぎやすくなります。
次回は、カスハラ対策のもうひとつの重要な側面、従業員を守る姿勢とその実践について解説します。
※本記事に掲載されている図表は全て(株)TMJの研修テキストより抜粋しています










