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メンタリングの基本とメンターの魅力【人的資本経営を加速させる「社外メンター」活用術 Vol.1】

2026.02.24

「人的資本経営」という言葉が、もはや経営の共通言語となった今。企業にとって最大の課題は、いかにして「個の力」を引き出し、持続可能な組織へと進化させるかにあります。その強力な処方箋として、現在日本でも急速に注目を集めているのが「メンタリング」です。

Mentor Forの代表として多くの企業の組織変革に伴走してきた経験から断言できるのは、メンタリングは単なる「悩み相談」ではなく、経営・事業成長に直結する、戦略的な人材育成の柱であるということです。連載第1回目となる今回は、メンタリングの定義や歴史、そしてなぜ今「社外メンター」という選択肢が求められているのか、まずは基本を紐解いていきます。

メンタリングとは何か ― 信頼関係から生まれる「気づき」の対話

メンタリング(Mentoring)とは、一言で言えば「経験豊かな人(メンター)が、経験の浅い人(メンティ)に対し、対話を通じて中長期的なキャリア形成や人間的な成長を支援すること」です。

メンタリングの起源と世界的な普及
その語源は、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場する賢者「メントール」に由来します。王オデュッセウスが遠征に出る際、息子の教育を託されたのがメントールでした。この物語が示す通り、メンタリングは単なるスキルの伝達ではなく、「全人格的な信頼関係」に基づいた伴走を意味しています。

現代のビジネス界において、この手法はすでにスタンダードです。米国では、フォーチュン500企業の実に92%がメンタリング制度を導入しているというデータもあり、アップルのスティーブ・ジョブズがフェイスブック(現Meta)のマーク・ザッカーバーグのメンターを務めていたことは有名な話です。

OJTやコーチングと何が違うのか?
よく混同される手法との違いを整理しておきましょう。

●OJT(On-the-Job Training)との違い:OJTは「実務スキル」の習得を目的とし、短期間での成果(Doing)を求めます。対してメンタリングは、本人のキャリア観やマインドセットといった「あり方」や、更には「経験者からの助言・知見シェア」に焦点を当て、中長期的な視点で支援します。

●コーチングとの違い:コーチングは、特定の目標達成(例:プレゼン成功、目標数値達成)に向けて、問いかけによって答えを引き出す手法です。一方、メンタリングは「自身の経験談の共有(自己開示)」も交える点が特徴です。メンターが歩んできた道、失敗した経験を「ギフト」として手渡すことで、メンティは「自分にもできるかもしれない」という心理的安全性と具体的なロールモデルを得ることができます。

つまり、メンタリングは、ティーチング(教える)とコーチング(引き出す)の要素を内包しつつ、「ロールモデルとしての影響力」を最大化させる手法なのです。

なぜ今、「社外メンター」が注目されるのか

これまで日本の多くの企業では、先輩社員が後輩を指導する「社内メンター制度」が一般的でした。しかし、昨今の激しい環境変化(VUCA)や、働き方の多様化、そして「女性活躍推進」の文脈において、社内制度だけでは限界が見え始めています。

社内メンター制度が直面する「3つの壁」

1.利害関係の壁: 同じ社内の人間に弱音を吐くと「評価に響くのではないか」という不安が生じます。特に野心的な若手や、周囲の期待を背負う女性候補者ほど、この傾向は顕著です。

2.同質性の壁: 社内のロールモデルが画一的(例:長時間労働を前提とした男性リーダー像など)な場合、多様なキャリアを望む若手や女性にとって、社内メンターのアドバイスが「時代遅れ」や「自分には無理」と感じられてしまうことがあります。

3.スキルの壁:「相性の良いベテラン」をアサインするだけでは不十分です。メンタリングには高度な傾聴力や、相手のバイアスを取り除くスキルが必要ですが、多忙な社内メンターがそのスキルを習得する余裕がないのが実情です。

「第三者の視点」がもたらすブレイクスルー

そこで今、多くの先進企業が取り入れているのが「社外メンター」です。組織の外にいるプロフェッショナルなメンターが介入することで、以下のような独自の価値が生まれます。

●本音の引き出し: 利害関係が一切ない第三者だからこそ、メンティは鎧を脱ぎ、本音で向き合うことができます。「実は今のキャリアに迷っている」「リーダーになる自信がない」といった内発的な葛藤を言語化できる場所が、社外メンターとの対話です。

●越境学習の効果: 社内の常識(暗黙の了解)に染まっていない社外メンターの視点は、メンティにとって大きな刺激になります。「その課題は、他社ではこう解決されていますよ」という客観的なアドバイスが、視野を広げるきっかけとなります。

●管理職・ベテラン層への有効性: 実は、社外メンターが最も効果を発揮するのは「孤独」になりやすい管理職層です。周囲に相談しにくい経営層やミドルマネジャーにとって、社外メンターは「戦略を練るための壁打ち相手」であり、精神的な「安全地帯」となります。

メンタリングが組織にもたらす「4つの果実」と注意点

メンタリングの導入は、メンティ個人だけでなく、組織全体に多大なインパクトをもたらします。

1. 心理的安全性の確保とエンゲージメント向上
「自分のことを心から応援し、聴いてくれる存在がいる」という感覚は、強い心理的安全性をもたらします。これにより離職率が低下し、組織へのエンゲージメントが向上します。特にキャリアに迷いが生じやすい若手や、ライフイベントを控えた層にとって、メンタリングは「孤立」を防ぐ最強の防波堤です。

2. 自律型人材の育成
メンターは答えを教えるのではなく、メンティが自ら答えを見つけるプロセスを支援します。対話を繰り返す中で、メンティは「自分はどうしたいのか?」という内発的な動機に気づき、主体的にキャリアを切り拓く「自律型人材」へと成長していきます。

3. メンター自身の成長(リバース・メンタリング的効果)
メンタリングは双方向の学びです。メンターは、自分とは異なる世代や価値観を持つメンティの視点に触れることで、自身のマネジメントスタイルをアップデートできます。相手を育成する経験そのものが、メンター側のリーダーシップ開発に直結するのです。

4. 組織内のネットワークとDE&Iの加速
メンタリングが浸透している組織では、部門を超えた知の共有が活発化します。特に女性活躍の文脈では、社外のロールモデルと接することで、「自分らしいリーダー像」を描ける女性が増え、結果としてダイバーシティ&インクルージョンが文化として定着していきます。

ただし、ここで注意すべきは、「外部の人と話せれば、誰でも・どんな形でもいい」わけではないということです。最近では、定額で様々な相手と気軽にマッチングできるスポット型の対話をメンターと呼ぶことも見受けられます。しかし、私の経験から申し上げれば、毎回相手が変わる単発の「おしゃべり」では、人的資本経営に資するような深い成長は期待できません。

メンタリングの真価は、時間をかけて育まれる「継続的な信頼関係」の中にあります。

●文脈の共有:メンティが置かれている組織特有の課題や、個人の過去の葛藤をメンターが深く理解しているからこそ、本質的なアドバイスが可能になります。

●変容の観測:継続的に伴走することで、「前回のセッションからどう行動が変わったか」という変化のプロセスを共に振り返ることができます。

単発のサービスは、一時的な「スッキリ感」は得られるかもしれません。しかし、それは「情報のつまみ食い」に過ぎず、自己のOSをアップデートするような本質的な変容には至らないのです。プロフェッショナルな社外メンターには、メンティの成長に責任を持ち、一定期間伴走し続ける姿勢が不可欠です。

変化の激しい時代にこそ「対話」を

これからの人的資本経営において、社員一人ひとりのエネルギーを最大化するためには、単なる「研修」だけでは足りません。個別の文脈に寄り添い、可能性を信じて伴走する「メンタリング」こそが、組織を根本から変える鍵となります。

「メンターを持つことは、人生のショートカットを手に入れること」とも言われます。 次回の第2回では、「誰がメンタリングを活用すべきか」に焦点を当て、特に変化を求められる女性管理職候補や、次世代リーダーたちが直面する壁を、メンタリングでどう突破できるのかを具体的に解説します。