成功事例に学ぶ!女性活躍推進により組織をアップデートする実践アプローチ【女性の管理職志向を高めるには? Vol.3】
2026年4月から、常時雇用する労働者が101人以上の事業主に対して、女性管理職比率の公表と、男女の賃金差異の公表が義務化されます。女性活躍のさらなる推進が掲げられるなか、女性管理職比率の向上を喫緊の課題と捉える企業も少なくありませんが、単なる義務と捉えては少々もったいないかもしれません。投資家は企業のESGを重視し、求職者はダイバーシティを尊重する企業を選ぶ時代。女性活躍推進の取り組みは、もはや企業価値と採用競争力に直結する経営戦略なのです。
これまでの記事では、女性活躍を阻む要因の一つでもある女性本人の管理職志向に関する実態や女性活躍が進みにくい企業に共通する7つの構造的な課題をご紹介いたしました。本記事では先行して取り組み、着実に成果をあげている5社の事例から、どのような壁にぶつかり、どう乗り越えてきたのか、自社に応用できる実践的なアプローチを読み解いていきたいと思います。
なぜ進まないのか?企業別にみる「女性活躍」を阻む壁
女性活躍が進まない背景は、業界や企業の文化によって千差万別です。そこでまずは、今回取り上げる5社が弊社にお声がけくださった際に直面していた課題をまとめてみました。
【BtoC形態】
●A社(自動車販売・500名以上1000名未満規模)
全管理職100名強のうち女性の管理職は2名。現場は男性中心の文化が根強く、女性社員からは「仕事とプライベートを両立して管理職を務めるイメージが全く持てない」という声が上がっている 。
●B社(カード会社・100名以上500名未満規模)
採用時の女性比率は6割と高いものの、管理職に占める女性は極めて少ない状態。社内アンケートの結果、女性社員の8割が「管理職を目指したい」という意欲を持ちながら、そのうちの7割が「自分には能力が足りない」という不安を抱えていた。
【BtoB形態】
●C社(専門商社・500名以上1000名未満規模)
「働きやすさ」は提供できているものの、「働きがい」に欠けるという課題を抱える。長年「女性はサポートや定型業務を担うもの」という固定観念が社内全体に浸透しており、女性自身の視座が上がりにくい構造になっていた 。
●D社(医療系卸売り・500名以上1000名未満規模)
慢性的な人員不足により、性別を問わず次世代のリーダー候補が枯渇。数年後にはポストに対して管理職が足りなくなることが明白であり、生き残りのための「トップダウンによる断行」が必要な状況。
●E社(システム開発・500名以上1000名未満規模)
親会社からの「5年後に女性管理職比率30%」という高い目標設定に対し、現場のロールモデルが圧倒的に不足 。エンジニアという専門職集団の中で、「マネジメント=管理業務」というネガティブなイメージが先行していた。
成功企業に共通する施策設計の特徴
これら5社はそれぞれ異なるスタート地点から、施策を企画・導入するに至りました。その施策設計における特徴を詳しく見ていきましょう。
●特徴1:数年スパンでの「段階的・継続的」なアプローチ
当時、女性管理職が少なく、女性から「管理職を務めるイメージができない」という声が挙がっていたA社では、単発の研修を行って終わらせるのではなく、数年かけたステップアップの仕組みを構築しています。例えば以下のように本人の意識を醸成することをとっかかりとして、管理職としてのスキル獲得の道を描いているのです。
1年目:「この会社でキャリアを築けるかも」という意識を醸成する(マインドセット)
2年目:周囲に対してどう影響力を発揮していくべきかを考える
3年目:効率的にマネジメントを進めるためのスキルを高める
いきなり「管理職になろう」と背中を押すのではなく、段階的に経験を積み上げていくことによって、本人の心理的なハードルを下げてスタートできる施策になっていると言えます。
●特徴2:WILL CAN MUSTの全方位へのアプローチ
「管理職になりたくない」という拒絶反応の裏には、WILL(やりたいこと)・CAN(マネジメント知識)・MUST(会社からの期待)の3つの欠如があります 。
MUST(会社からの期待): 「なぜあなたに期待しているのか」を明確に伝えることで、動機を形成する
CAN(マネジメント知識): 知識を学ぶことで「自分にもやれそうだ」という自信を持てるようにする
WILL(やりたいこと): 自身の価値観とキャリアを接続し、納得感を引き出す
B社やE社は、この3つの視点すべてにアプローチするプログラムを組んでいました。実際に、女性管理職のロールモデル不足に悩んでいたE社は、社員がMUST→CAN→WILLの順番で自分のキャリアを考えられる機会をつくるかたちで施策を設計。具体的には、管理職候補者となる社員に自身のMUSTを理解してもらうために社内でサーベイを実施し、周囲の期待の現状認識ができる状態をつくる。CANへのアプローチとして、できることを増やすという意味で、マネジメントに必要な知識やスタンスを研修などを通して吸収してもらう。そのうえで、今後のキャリア=WILLを考える機会を設計する、というような流れで「管理職になりたくない」という漠然とした想いの裏側の、社員が自身のキャリアへの考えを整理する支援を行っているのです。
●特徴3:本人と上司を同時に変える「両輪」のアプローチ
管理職候補者本人の意識が変わっても、受け皿となる職場の土壌が変わらなければ、学びは定着せず、実践に結びつきません。将来的な管理職不足が懸念されるD社は、本人向け研修と並行して「上司向けガイダンス」を実施し、職場全体の意識の見直しをはかりました 。
上司が「部下の本当の悩み」に気づき、キャリア面談や仕事の割り振り方を変えることで、初めて組織に変化が生まれます。また、女性はサポートや定型業務を担う、という固定観念が定着していたC社でも、新任管理職研修を導入し、人材育成の意識付けを組み込むことで、女性活躍を「女性だけの問題」にしない意識の醸成や、組織全体の管理職育成力の底上げに寄与しました。
また、その翌年からは上司、風土(全社員)、制度・仕組みの変革にも取り組む方針を掲げています。
●特徴4:学びを職場で定着させる「Off-JTとOJT」の連動
研修での学びを現場で即実践し、再び振り返るサイクルを作るため、C社では約10カ月で「研修→職場実践→振り返り→変革課題の提言」というサイクルの繰り返しを会社主導で実践。これにより、このサイクルのもと学んだ社員のうち3名が管理職に昇格し、女性管理職比率も施策実施の初年度に8%から10%へ引き上げる結果となったそうです。
●特徴5:固定観念を壊す多様な管理職像を提示
管理職に対する固定的なイメージを崩すため、特定の理想像を押しつけるのではなく、「こういう管理職もあり得る」という多様な管理職像を意図的につくり、発信するという事例もあります。具体的には、以下のようなアプローチが見られました。
時短勤務者の管理職化推進(B社):時短勤務者を積極的に管理職研修に受け入れ、「働き方に制約があっても、管理職として成長・キャリアアップできる」というメッセージを社内に明確に発信。
ベテラン層の活躍推進(D社):40代以上の社員を主な対象として「管理職へのチャレンジは今からでも遅くない」と意味づけ、自社の管理職像を再定義。
女性活躍推進に重要なのは、自社に合った施策設計
ご紹介したA社からE社は女性活躍推進のねらいは様々ですが、自社で実現したい状態にフィットする施策を設計しているということが共通点にあります。
A社では、店舗運営や顧客接点において女性の強みを生かすことで自社の戦略を推進していきたいというねらいがありました。そのため、研修の締めくくりとして、研修参加者全員が経営層の前で、自分なりの学びと今後への提案を発表し、研修を経て得た気づきを、具体的な店舗運営の改善につなげて考える機会としました。
数年間の取り組みを振り返る場では、上司だけでなく女性社員本人が、「スタッフ同士がコミュニケーションをとり、笑顔で明るくたのしい職場になることが、お客様からの支持に繋がる」「前向きな気持ちになれば行動できる」と、学びを通じて影響力を発揮するなかで思いがけず得た、考えの変化や研修をとおした成果を発表。発表を聞く経営層が驚くほどの変化がみられていたようです。
B社では、より複雑化・高度化する顧客の要望に対して複合的な価値提供を行うため、女性にも事業戦略を加速させる存在として周囲をリードしてほしい、という期待がありました。
「サポート業務中心」という現状の認識から脱却するため、全社的な意識醸成、視野の拡大、女性社員のスキル獲得と積み上げ、学びの総括としての会社や事業の変革に向けた課題の検討・提言、という一連の流れで段階的に施策を設計していたのがポイントです。
C社は、ビジョン実現のために女性の能力も生かされる職場づくりは不可欠と考え、様々な価値観を持つ人材がポテンシャルを最大限に発揮できる土壌をつくることに重きを置いていました。そのため、階層としてはリーダークラス、リーダー手前の中堅層、そしてその上司に値する管理職全体への「人材育成」の意識づけなど、数年に渡り幅広い階層にアプローチすることで組織風土の醸成を目指し、取り組んでいるという特徴があります。
D社は、今後の事業のグローバル展開や新規事業の拡大を見据え、管理職を増やし現場と経営をつなぐ中核人材を育成することをねらいとしていました。そのため特に管理職候補となる女性への支援だけでなく、その育成を直接的に担う上司に対しての支援に力を入れていたのがポイントです。
女性部下に対して遠慮がちだった上司に対し、今までの自身の言動を振り返りながら、働きがいのある職場づくりや部下の支援の仕方を学んでもらう機会を設計。その結果、「部下のことを分かっていなかった。日々の会話の積みかさねや個々にあった方法で成長を促していきたい」「将来の目標や期待を一方的に伝えるのではなく、お互いの想いをふまえて納得できるものを作っていきたい」などの前向きな変化が見られ、女性管理職を育成する側の意識変革が進んでいます。
E社は、転職市場が活況な中、良い人材を今後も採用し続けるためにも業界内のポジション向上、社会要請への対応が重要であると考え、女性管理職育成を通して、一人ひとりが自社でのキャリアを力強く描けること、上司がその支援を行い両者が成長し会社に変革をもたらすこと、をねらいとしていました。
そのため、職場における「キャリア観のすり合わせ」「一歩を踏み出すための目標設定」「事業上重要度が高い役割や仕事へのアサイン」などの動きの推奨と、その実現のために上司側がどうすると良いかを支援する研修とを連動させ、管理職候補者本人の「やってみたい」「これならできるかも」という気持ちを引き出す設計で、女性活躍を推進しています。
結びに
これまで全3回に渡り、女性活躍推進の現状、課題、施策内容について、ご紹介させていただきました。私自身もこのコラムをきっかけに、日本企業が女性活躍を推進していくうえで様々な障壁や課題があることに改めて気づかされました。
今回ご紹介した5社のように、段階的にでも変化の兆しや成果に繋げている企業が増加すると、管理職=罰ゲームという風潮や社会の在り方そのものも、また変わっていくのかもしれません。
先行きの不透明な変化激しい現代だからこそ、どんな荒波にも負けない個人と組織の力が問われるではないでしょうか。今回ご紹介した内容が貴社の個人と組織を生かす施策として、お役に立てば幸いです。








