給与計算とは? 業務の手順やおすすめサービスを紹介
個々の従業員の情報をもとに、その月に支払うべき給与を計算する「給与計算」。毎月行う業務でありながら月ごとに変動する項目もあるため、給与計算に必要な知識や注意すべきポイント、ミスを防ぐ方法を知りたいと考える担当者もいるのではないだろうか。
今回は、給与計算の目的や手順、気を付けるべきポイントや、ミスを防ぐための方法を紹介する。おすすめのサービスについても触れているので、参考にしてほしい。
目次
●給与計算とは
●給与計算の手順
●給与計算における注意点
●給与計算を楽に・ミスをなくす方法とおすすめサービス
●まとめ
給与計算とは
給与計算とは、従業員に支払うべき給与を計算して支払うこと。勤怠などの労働実績や個々の手当に応じて、毎月計算する必要がある。まずは基本知識として、給与計算の目的や就業規則への記載義務について知っておこう。
給与計算の目的
給与計算の目的は、主に「労働契約の履行」と「保険や税金などの公的手続き」だ。企業と労働者は労働契約で結ばれており、企業は従業員に対し、労働基準法第24条で定められた「賃金払いの5原則」に沿って給与を支払わなければならない。
「賃金払いの5原則」は以下の通りだ。
・通貨払いの原則:給与は通貨で支払わなければならない(労働者の同意のもと、金融機関に振り込む場合は例外)
・直接払いの原則:給与は従業員本人に支払わなければならない
・全額払いの原則:給与の全額を支払わなければならない
・毎月1回以上払いの原則:給与は毎月1回以上支払わなくてはならない
・一定期日払いの原則:給与は一定の期日を定めて定期的に支払わなければならない
また、社会保険の手続きや支払い、税金の源泉徴収や納付は企業が行うこととされている。企業のコンプライアンスを維持し、労働契約と法令の遵守を徹底するためにも、担当者は正しい知識をもって給与計算を行う必要がある。
給与計算の目的
「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」は、就業規則に必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」に該当する(労働基準法第89条)。
法令の遵守および給与計算のための準備として、就業規則には基本給の算出の方法の他、「遅刻・早退・欠勤を控除の対象とするか」「計算期間途中に入退社した場合の計算方法」などもきちんと記載しておこう。
給与計算の手順
ここでは、給与計算の流れを5つのステップに分けて見ていこう。
【ステップ①】各種手当・勤怠データから総支給額を算出する
まずは、雇用契約書や就業規則、賃金規程等で定めている「基本給」と各種「手当」の額を合算し、「総支給額」を算出する。
「手当」には「法律上必ず支給することが定められている手当」と「企業が独自に内容や金額を定める手当」とがある。それぞれの具体的な内容は以下の通り。
<法律上支給が定められている手当>
・残業手当
・深夜残業手当
・休日出勤手当
<企業が独自に定める手当>
・役職手当
・資格手当
・住宅手当
・通勤手当
・家族手当
・地域手当
・皆勤手当 など
【ステップ②】社会保険料・税金などの控除額を計算する
次に、社会保険料や税金など、総支給額から控除する項目を計算する。控除額に該当するものは以下の通り。
・健康保険料
・厚生年金保険料
・介護保険料(40歳以上)
・雇用保険料
・所得税
・住民税
・社宅の使用料
・組合費
・財形貯蓄
・欠勤控除 など
なお、所得税は1年間の所得額に応じて最終決定するため、月々の控除は見込み額で計算し、年末調整で差額を調整する。
また、住民税は毎年5月に市区町村から送付される納付書に記載されている額をもとに計算する。
【ステップ③】支給額(手取り額)を決定する
ステップ①で求めた「総支給額」からステップ②で計算した「控除額」を差し引き、その月の「支給額(手取り額)」を確定する。
【ステップ④】台帳作成などの事務処理を行う
支給額が決定したら、「賃金台帳」と「給与明細」の作成を行う。「賃金台帳」とは、従業員の給与の支払い状況を記載する書類のこと。労働基準法によって作成と保管が義務付けられているため、きちんと作成し、管理する必要がある。
【ステップ⑤】従業員に給与を支払い、保険料や税金を納入する
従業員に対しては、確定した給与を支給日に支払えるよう、振込などの手続きを行う。
社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料)は企業と従業員が折半、雇用保険料は企業と従業員が相互負担する。給与から従業員負担分の金額を控除し、企業負担分と合わせて労働局へ納付しよう。
所得税や住民税は、給与を支払った翌月10日に税務署に納付する。
給与計算における注意点
給与計算は計算項目の変動などによりミスの出やすいタイミングが存在する。ここでは、給与計算における注意点と、ミスをしてしまった場合の影響を紹介する。
時間外手当の割増率
よくあるミスは、「残業手当」「休日手当」「深夜手当」の対象期間や、法定時間内残業と法定時間外労働の計算だ。「含めるべき時間を計算に入れていない」「割増率の値が違う」などの理由で、本来の時間外手当の金額と異なることのないよう注意しよう。法律で定められている時間外手当は、次の計算式で求められる。
時間外手当=時間外労働の時間数×1時間あたりの賃金×割増率
また、各割増率は以下の通り。複数に該当する場合は、足し合わせとなる。
中小企業の月60時間を超える残業に対する割増賃金は、猶予期間中のため現行「25%以上」となっている。2023年4月1日からは「50%以上」が適用となることにも注意が必要だ。
参考:東京労働局「しっかりマスター 労働基準法ー割増賃金編ー」
通勤手当
通勤手当は基本的に非課税扱いのため、所得税を計算する際に所得として計算してしまうと、従業員が過剰に税金を払うことになる。通勤手当は交通手段や距離によって非課税限度額が定められているため、勤務地の変更や転居などがあった場合には、その情報がきちんと反映されているかも確認しよう。
参考:国税庁「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」
労働時間や割増賃金の端数
日の労働時間の集計や割増賃金の計算については、原則、端数の「切り上げ」は可能だが、「切り捨て」は行えない。そのため、従業員の実働時間に基づき、きちんと給与計算をする必要がある。ただし、例外として、1カ月の労働時間を通算して30分未満の端数を切り捨てること、30分以上の端数を1時間に切り上げて計算することは認められている。
なお、割増賃金の計算過程で以下に該当する場合は、就業規則等に定めたうえで「50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げる」ことができる。
・1時間あたりの賃金額および割増賃金金額に1円未満の端数が生じた場合
・1カ月間の時間外労働、休日労働、深夜労働について、それぞれの割増賃金に1円未満の端数が生じた場合
ミスをしてしまった場合の影響
誤った給与計算をしてしまうと、以下の影響があると考えられる。
・正しい金額の再計算・支払われた給与との調整などの手間が発生する
・関係機関への届け出が発生する
・従業員との信頼関係が崩れる
・企業のコンプライアンス遵守に傷がつく
納めるべき税金を納付していない場合は、追徴課税となる可能性もある。
また、「支払われるべき給与額が支払われない」「計算が間に合わず給与の支払いが遅れた」などの理由で「賃金払いの5原則」を満たしてない場合、労働基準法違反となり30万円以下の罰金が課せられる。
そのような事態を避けるためにも、ミスなく給与計算を行う方法を構築していくことが重要だ。
給与計算を楽に・ミスをなくす方法とおすすめサービス
給与計算をミスなく簡単に行うためには、給与計算に特化した外部機関に依頼する「アウトソーシング化」と、従業員データと給与計算ソフトを用いる「自動化」の2つの方法がある。それぞれのおすすめのサービスを紹介する。
【アウトソーシング】NOC総務アウトソーシング 給与計算サービス
NOC総務アウトソーシング 給与計算サービスは、NOCアウトソーシング&コンサルティング株式会社が提供している、バックオフィス業務代行サービスの一部だ。給与計算サービスでは給与計算の他、必要に応じて勤怠や人事業務にも対応。年末調整や住民税特別徴収も年次スポットサービスとして利用できるため、自社の状況に応じたオプションを選択し、コストを最小限に抑えることが可能だ。
【アウトソーシング】ジョブカンBPO
ジョブカンBPOは、ジョブカンシリーズのうち給与計算代行を行うサービス。クラウドシステムやRPAなどのテクノロジーを駆使したプロセスで、効率化・スピード化を図っている。専門家との連携に加え就業管理や入退社手続き、社会保険などの相談にも対応。
【自動化】freee人事労務
freee人事労務は、従業員にまつわる情報を一元化するクラウドサービスだ。入力された勤怠データをもとに残業代や社会保険料、所得税の計算を含めた給与計算を自動で行うため、ヒューマンエラーやミスを防止しながら効率的に給与計算ができる。他社サービスとの連携にも長けており、集計したデータを同期して給与計算や年末調整を行うことも可能だ。
【自動化】マネーフォワードクラウド給与
マネーフォワードクラウド給与は、給与計算から明細発行・振込までを初心者でも簡単に行うことのできるクラウドサービス。保険料率や税率は自動的に無料でアップデートされるため、法令改正による計算ミスを防ぐことが可能だ。関連サービス「マネーフォワード勤怠」と連携させれば、自動集計したデータをもとにワンクリックで給与計算を行うことができる。
参照:「給与計算のサービス比較・無料資料ダウンロード」
まとめ
給与計算をミスしてしまうと、従業員の企業への信頼が大きく失われるだけでなく、労働基準法違反となってしまう可能性がある。複雑な業務をミスなく効率的に行うためには、専門家へのアウトソーシング化や給与ソフトを用いて自動化を検討するのも1つの方法だろう。紹介したフローや注意すべきポイントをおさえ、きちんと給与計算が行えるようにしよう。