2027年4月から新リース会計基準が適応、新基準や対応方法とは? Sansan勉強会
2027年4月より上場企業を中心に「新リース会計基準」が適用になる。対象企業の経理担当者は新旧問わずあらゆる契約の確認に追われる可能性が高く、早めの対応が肝心だ。2024年11月20日、企業DXサービスを提供しているSansanが行った新リース会計基準の勉強会では、会計関連のYouTube動画や著書で活躍する公認会計士の白井敬祐氏が登壇し、新基準について解説した。
中小企業は対象外の予定だが、上場企業を親会社に持つ中小企業の子会社は、新リース会計基準を適用した上で、親会社に決算情報を報告する必要があるため、上場企業だけでなく全ての経理担当者が知っておきたい知識だ。
新リース会計基準とは?
勉強会に登壇した白井敬祐氏は、「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」や著書『経理になった君たちへ』など会計関連の実績を持つ公認会計士だ。まずはリース会計基準の概要や、今回の改正の内容について解説があった。
リース会計基準とは、企業で使用する複合機やPC、機械、社用車などのリース契約についての会計処理方法を規定したもの。初回は2007年3月に制定されたが、2024年9月13日に改正が公表された。
新基準の適用義務がある企業は、主に上場会社や大会社、および上場企業を親会社に持つ子会社だ。よって中小企業は今のところ対象外となる。ただ、上場企業を親会社に持つ中小企業の子会社は、新リース会計基準を適用した上で、親会社に決算情報を報告する必要があるので、留意が必要だ。
新リース会計基準は日本がゼロから作り上げたものではない。主にヨーロッパを中心として使われている国際的な会計基準であるIFRSが2019年に改正したことをきっかけに、日本もグローバルスタンダードに対応するため誕生したものだ。
2024年9月13日には新リース会計基準の公表があった。早期に対応できる企業にあっては、2025年4月1日から対応可能だ。そして2027年4月1日以降に開始する事業年度からは、全ての対象企業において適用が開始となる。
OL取引が廃止に、改正で変わること
このたびの法改正で生じる変更点について、白井氏は現行の制度と比較しながら解説を行った。
■「FL」と「OL」の2本立てから、全てのリースがオンバランスに
現在のリース会計基準では、2種類の会計処理方法が採られている。「解約が出来ない(ノンキャンセラブル)」「維持費を含めて借り手が負担する(フルペイアウト)」の2つの条件をクリアすれば、分割払いや借入で購入するのと同様の経済形態である「ファイナンス・リース(FL)取引」となる。条件をクリアしない取引は、ただのレンタルとみなされ、「オペレーティング・リース(OL)取引」となる。
FL取引の場合、資産と負債がそれぞれ財務諸表に計上され(オンバランス)、貸借対照表にも影響する。一方、OL取引の場合は月々のリース料を損益計算書に費用計上するだけで、貸借対照表には何も計上されない(オフバランス)。
そして改正後は、全てのリース契約がオンバランスとなる。これまでOL取引として貸借対照表に資産や負債として何も計上されなかったリース取引も、全てが貸借対照表に計上されるようになるという。
改正で、損益計算書にマイナスの影響
全てのリース取引がオンバランスになれば、損益計算書にも影響が現れる。これまでOL取引についてはリース期間を通じて定額の費用を認識するだけで良かったが、今後は資産として減価償却費が発生し、負債としては利息費用が発生することになる。減価償却費と利息費用を足し合わせると、利息の大きい契約開始期は、これまで認識していたリース費用と比較して費用が大きくなってしまう。
リース総額はこれまでと同じでも、利息計上が生じる結果、最初は費用が膨らむ。そして元本が減るにつれ利息が減り、最終面ではリースの定額よりも費用が小さくなる。
従来、販売費及び一般管理費に計上されていたリース料が減価償却費に置き換えられるため、損益計算書における営業利益はアップするが、支払利息が計上されるため最終利益はダウンする。総合的には、損益計算書にマイナスの影響が現れてしまうのだ。
損益計算書に資産・負債が大きく増加し財務指標に影響する
これまでOL取引をしていた資産の例として、オフィスや社宅、駐車場、社用車、機械などがある。つまり賃貸借契約もリース契約に含まれることになる。「隠れリース」「実質リース」の取引も、要件を満たせばリース取引とみなされる可能性がある。
これらが全てオンバランスとして財務諸表に計上されることになれば、複数の財務指標に影響が現れる。とくに取引の多い大企業では、使用権(リース)資産とリース負債が大幅に増加するため、ROAや自己資本比率が低下するのだ。
ROAが低下すれば、実態は何も変わっていないのに、数字だけで見れば収益性が低下したとみなされてしまう。また、自己資本比率が低下すれば、財務健全性の低下が疑われてしまうことになるだろう。「企業のIR担当者は会計基準が変わっただけで実態は何も変わっていないことをしっかり説明する必要がある」と、白井氏は警鐘を鳴らした。
過去契約書も必要に?経理担当者の対応
リース会計基準改正により、経理業務にも多大な影響がある。現状ではリースの取引先から発行される請求書に基づいて会計システムに入力するだけで済んでいるが、改正に対処するためには、いくつかのステップを踏まなければならない。
まずはリース取引の管理表を作るなど、リース資産を管理する仕組みを作り上げなければならない。そのためには、請求書を見ただけでは分かりづらいリース期間などの情報を把握することが大事だ。詳細情報にあたるため、過去の契約書を参照する必要がある。ときには総務部や事業部に問い合わせ、古い契約書も掘り起こして契約の詳細を洗い出し、リスト化しなければならない。
場合によっては社員総出の大仕事となる。適用までの2年半でシステムを作り上げなければならず、「2年半もあるから」と対応を後伸ばしにすれば手遅れになる可能性が高い。
膨大な数の契約書確認が必要となる会社は多いだろう。「ぜひ今から準備を始めていただいて、入念な準備により2027年を迎えてほしい」と白井氏は締めた。
新リース会計基準への対応プロセス
勉強会では、Sansan株式会社の尾花政篤氏も登壇し、経理担当者が行うべき新リース会計基準への対応プロセスを解説した。尾花氏の解説をまとめると、対応プロセスは次の通りだ。
① 契約の収集
もれなく全ての契約を収集することが最初の重要なステップ。会計監査時には、「これで契約書は全てですか」と聞かれることになるため、まずはここから始める必要がある。
② 契約形態の識別
集めた契約書を見て、新基準のリースにあたるのかを識別する。例えば機械を借りて、その機械を使って自動車を製造する場合、機械が特定されており、借りた機械の用途に制限がなく、利益を借り手が受けられることが分かればリースとして識別できる。一方で、機械の用途制限があったり、利益を貸主に分配しなければならないなどの制約があったりすればリースには該当しない。
③ 財務諸表への反映
リース契約にあたると判断した場合は、借りたものを使用する権利を資産とし、リース料の支払義務を負債として、財務諸表に反映させる。財務諸表への影響額を試算する必要があるため、過去契約についても収集が必要だ。
紙で保管している契約書が多いと、新基準への対応が困難になりがちだ。Sansanでは、契約データベース「Contract One」を提供。紙・PDF・電子など全ての契約書を高い精度でデータ化し、新リース会計基準対応のために必要な項目を抽出、そして抽出した契約データをエクスポートして会計処理へのサポートを行うという。また、新規リース契約の検索やリース契約終了時の通知ができるため、新リース基準適用以降に発生する新規リース契約やリース契約終了時の会計処理負担も軽減するとした。
マンパワーでは対応が難しいこのたびの改正。新旧あらゆる契約書のデジタル化、会計処理のDXを進める契機になるかもしれない。