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調達・購買のリーダーが牽引するAI時代の企業改革【Amazonビジネスのベストプラクティス】

2025.08.20
大矢根翼

アマゾンジャパン合同会社は、企業経営や法人購買を対象に、業務改善・改革を実現するための知見を披露するビジネスカンファレンス「Amazon Business Exchange」を開催した(2025年7月24日)。

本カンファレンスは、「調達・購買のリーダーが企業成長に寄与する戦略構築をどのように進めればよいか」という問いに対し、「Amazonビジネス」の戦略を披露するものである。Amazon自らの調達・購買戦略を筆頭に、パナソニックなどの大手企業から中小事業者までの調達・購買を担う間接部門が、現場で使用される間接材の購入にメスを入れた成果とともに、コストと調達の最適化、導入から定着までの仕組みづくり、そこで得たリーダーの学び、さらに業務効率化を超えて顧客・企業価値向上の“立役者”となったケーススタディが紹介された。

「購買の最適化」が導くガバナンス強化と間接費適正化

基調講演は、Amazon.com, Inc. Amazonビジネス バイスプレジデント トッド・ハイメス氏とアマゾンジャパン合同会社 グローバル調達事業部 アジアパシフィック調達本部 統括本部長 内山一郎氏による「Smart Business Buying」提言からスタート。AIの発展などで事業環境が目まぐるしく変化する中で競争力を高めるために、Amazonビジネスを通じた「コーポレート主導の全社最適型購買戦略への転換」「包括的なコスト最適化の重要性」などが提言された。Amazonビジネスはこれらを可能にする戦略的ビジネスモデルを備えている。ただし、その土台となるのは、人材開発、組織開発であるという。

(左)アマゾンジャパン合同会社 グローバル調達事業部 アジアパシフィック調達本部 統括本部長 内山一郎氏、(右)Amazon.com, Inc. Amazonビジネス バイスプレジデント トッド・ハイメス氏

この提言を受けて紹介されたベストプラクティスが、パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社である。同社グローバル調達本部 シニアアドバイザー(前 執行役員調達担当兼グローバル調達本部長) 三好満氏が登壇すると、アマゾン合同会社 Amazonビジネス事業本部 事業本部長の石橋憲人氏が購買改革のプロセスや成果などについて質問した。

パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社は、7つの事業会社を配下に置くパナソニックグループの間接業務を統括する。同社の主要ミッションは、グループ全体の調達・購買マネジメントである。三好氏は縦割り文化の強い事業会社が連携を敬遠する問題を、共通プラットフォームなどを活用して改革したという。

「部品表などから調達額が明確な直接材と異なり、間接材に関しては全社で5000億円使われているのか、1兆円使われているのかも不明でした。現場の社員が立替払いで購入するためコンプライアンス上の問題なども明らかになりました。経営陣は、これら数々の問題は仕組みを整えなかった経営の責任であると受け止め、購買戦略の構築に注力しました」と三好氏。

こうしてパナソニックグループは、見積、検収、発注、支払いを最適化するシステムを3年がかりで構築。三好氏は、仕組みを整えた上でなお運営上困難な課題について、人事、経理、法務の同意と協力を取り付けた。改革の方向性はガバナンス強化であり、三好氏は常に、部門間調整と従業員のモチベーションに配慮したと語った。

(左)パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社 グローバル調達本部 シニアアドバイザー三好満氏、(右)アマゾンジャパン合同会社 Amazonビジネス事業本部 事業本部長 石橋憲人氏

「現場任せ」から「総務主導」への転換が企業変革の“フック”になる

Amazonビジネスはパナソニック以外にも多くのベストプラクティスがある。以下に本カンファレンスでの講演から2例を紹介したい。

1つ目は、「間接購買の可視化がもたらす戦略的コスト削減」というテーマの事例である。登壇者は、ケアパートナー株式会社 総務部 総務課 課長 市川真弓氏、シスメックス株式会社 総務部 総務課 シニアプランナー 杉本修一氏。両社はAmazonビジネスの活用によって間接コストを見える化し、購入費用とオペレーションを軽減した経緯を語った。

福祉事業を展開するケアパートナーは、効率化の進んでいなかった現場の購買業務に関して、Amazon ビジネスから「経費と工数の削減による経営課題の解決」提案を受けたという。「購入都度の相見積もりを省略することで工数を削減し、Amazon ビジネスの品揃えと価格でコストを削減できました」と市川氏。

現在は、「現場に発注させない」を合言葉に、消耗品を定期購入で事業所に送っている。現場では受け取りと検品だけが購買業務になっており、労務コストも削減された。市川氏は「タオルだけでも年間数百万円を削減できています。煩わしいことが一切なく物品が届くので現場からも好評で、リクエストも来るようになりました」と購買改革に自信を見せた。

間接材の詳細な購買分析をしていなかった医療用機器メーカーのシスメックスでは、杉本氏が半年かけて製造現場を回りながら購入品目と購入元を洗い出した。全社で何を、いつ、どのような承認ルートで購入しているかを特定したことでAmazon ビジネスのコストメリットが明確になり、購買先を一元化したという。

シスメックスは、現場の担当者が独自に購入していた従来の購買フローを、会社承認によるガバナンスが行き届くスキームに変更した。杉本氏は、「製造現場では、価格だけでなく、供給の安定性が重要です。今後は現場が安心してAmazon ビジネスに間接材の発注をすべて任せられる状態になることを期待します」と述べた。

(左)ケアパートナー株式会社 総務部 総務課 課長 市川真弓氏、(右)シスメックス株式会社 総務部 総務課 シニアプランナー 杉本修一氏

購買改革は現場のニーズとルーティン化が重要

2つ目は「デジタル購買改革:顧客価値創造への転換」である。登壇者は株式会社元気な介護 管理部長 菅原真路氏とヤマト住建株式会社 専務取締役 三谷佳裕氏。

住宅メーカーのヤマト住建は、各営業所の大きな裁量が成長のドライバーになっていた一方で、営業所単位で間接材の購買に工数とコストがかかっていたという。そこで、「スケールメリットを生むために、2022年から商品の品ぞろえが豊富なAmazon ビジネスの利用を開始した」と三谷氏は振り返る。

苦労したのは、現場にAmazon ビジネスを浸透させるプロセスだ。「店舗の店長へ『お客様に喜んでもらうためのビジネスパートナーだ』と説明しました。さらにAmazon全体と協業している実感を持たせるため、モデルハウスに設置する見守りカメラ『Ring』の勉強会などを開きました」。今後は新規出店時の購買効率化や、Amazon ビジネスから提供される購買データを駆使した使用率の改善に加え、住宅メーカーとして調達コストの大部分を占める直接材購買での連携を見据えているという。

札幌発の介護事業者、元気な介護は、本業である介護以外の業務に人手不足が深刻な職員の時間を割いていることに課題を感じていた。菅原氏は「立替精算や外出などの時間を削減することで介護に注力できるようにしたい」と職員に説明した。地道なコミュニケーションの積み重ねで現場への浸透を進め、わずか5カ月の間に200拠点での運用を実現した。

元気な介護では領収書の精算などの業務が簡略化され、札幌本部では月間200時間の工数削減を実現。現場では近隣店舗で購入できない物品の調達も進んでおり、三谷氏は「会社としてなるべく安価に同品質の商品を購入するように統制を進めたい。Amazonビジネスには日本企業向けの最適化を今後も進めてほしい」と期待を語った。

(左)株式会社元気な介護 管理部長 菅原真路氏、(右)ヤマト住建株式会社 専務取締役 三谷佳裕氏

フィナーレでは、購買ネットワーク会 代表 梅原広行氏が、人口動態と技術革新を鑑みて不可逆に広まる購買業務におけるAIの活用と購買・調達部門のあり方を説いた。

人間はAIによって自動化された業務よりも上流の『バリューチェーン』視点で力を発揮する必要があります」(梅原氏)

購買・調達部門は「コストセンター」から経営に定量、定性のインパクトを与える「プロフィットセンター」へと意識を転換する必要がある。Amazonビジネスのベストプラクティスから明らかなように、購買・調達部門が主導する改革には、全社的なコンプライアンス向上やDXの起点となりうる、あるいはバリューチェーンをマネジメントしうるといったポテンシャルがある。改革の浸透を根強く説き、効果を立証することが「バックオフィスの本質的な価値」の見える化になるだろう。