2026年版「働きがいのある会社」ランキング発表 人手不足解消の鍵を握る「従業員エンゲージメント」の向上
2026年2月6日、Great Place to Work® Institute Japan(以下、GPTWジャパン)は「2026年版 働きがいのある会社ランキング」の調査結果を公開した。本年度の調査には683社が参加し、うち377社が「働きがい認定企業」として選出された。 深刻化する人手不足を背景に、今年の会見では「賃上げ、効率化だけでは解決しない人手不足~働きがいが切り開く根本対策~」というテーマが掲げられた。データ分析からは、人手不足を実感している企業とそうでない企業の間に、従業員エンゲージメントに対する認識の乖離があることが明らかになった。また、9年ぶりに大規模・中規模・小規模の全3部門で日系企業が1位を獲得するなど、国内企業の組織開発における変化が顕著に表れた結果となっている。
人手不足の実感と「エンゲージメント」の相関
ランキング発表会の冒頭、GPTWジャパン代表の荒川陽子氏は、独自に実施したインターネット調査の結果から、人手不足の実態と企業の対応策について解説した。
調査データによれば、人手不足を実感している企業は、その対策として「採用の拡大」や「業務効率化」といった従来の古典的な手法を選択する傾向が強い。一方、人手不足を実感していない企業ほど、対策として「職場の人間関係の改善」や「従業員エンゲージメントの向上」といった、組織の最適化アプローチを重視している。
荒川氏は、「人手不足を実感している企業ほど、実際にはエンゲージメント向上への取り組みが進んでいないというジレンマがある」と指摘した。人手不足への対応を「人員の補充(数)」だけで捉えるのではなく、既存従業員の働きがいを高めることで「離職の防止と生産性の向上(質)」につなげる。これが構造的な人手不足に対する本質的な解決策であるという見解を示した。
「制度」による差別化の限界と「仕事を楽しむ文化」の重要性
続いて、ランキングの傾向分析から、優れた働きがいを持つ「ベスト100企業」と、一定基準を満たした「認定企業」を分ける要因が示された。
GPTWが実施した統計分析によると、休暇制度、福利厚生、多様性への配慮といった「制度面」の充実度においては、ベスト100企業と認定企業の間に有意な差は見られなかった。つまり、労働条件の整備はすでに「働きがい」を構築する上での基本要件(スタートライン)となっており、それだけで他社と差別化することは困難であることを示唆している。
では、何が決定的な差を生んでいるのか。分析の結果、最も顕著な差として現れたのは「仕事を楽しむ文化」の有無であった。 荒川氏は「ベスト企業では、適材適所の人材マネジメントと経営の一貫性が保たれており、それが『仕事を楽しむ文化』の土壌となっている。制度の有無ではなく、それらを運用する『経営の質』こそが、働きがいの源泉である」と述べ、日系企業が全部門で1位を獲得した背景には、こうした本質的な組織文化づくりが国内でも浸透しつつある現状があると分析した。
1位選出企業の規模別・業績直結型の「働きがい」醸成策は
ランキングの各部門で1位を獲得した3社は、業種も規模も異なるが、共通して「働きがい」を抽象的な概念ではなく、明確な経営戦略の柱として位置づけている。
【小規模部門1位】株式会社イベント21 代表取締役 中野愛一郎氏
イベント21では、「you happy, we happy!」という理念のもと、社会貢献を人材育成の軸に置いている。中野氏は「働きがい」を、自己の成長から地域社会、さらには未来の世代への貢献へと高めていく「4.5フェーズ」として定義している。
「人としての視座が高まらなければ、本質的な働きがいには到達できません。弊社では『地域貢献』を教育の最大化ポイントと捉え、社員が寄付先を選定する制度や、児童養護施設への訪問などを継続しています。一見、業務と直接関係のない社会貢献活動が、社員の『主体性』を育み、結果として離職率5.3%、過去最高益という数字に結びついています。働きがいは、人間本来の『成長したい、貢献したい』という力を引き出すことで醸成されるものです」
【中規模部門1位】株式会社ナハト 代表取締役 安達友基氏
SNSマーケティングを展開するナハトは、急激な組織拡大の中でも独自の文化を維持するため、人事を「経営機能」として位置づけている。50名の組織に対し5名の人事担当を配置するなど、人員比率の高さが特徴だ。
「人事はバックオフィスではなく、現場のメンバーを輝かせる『プロデュース機能』であると考えています。組織が大きくなっても主体性を損なわないよう、30名以上の部署を作らない『ユニット制』を徹底しています。また、弊社のKGI(最重要目標達成指標)の一つには『ハピネス』、つまり社内の雰囲気が置かれています。数字としてのエンゲージメントだけでなく、仲間、成長、勝利という価値観を共有し、本気で戦いたいと思える場を提供することが経営の役割です」
【大規模部門1位】株式会社ディスコ 代表執行役社長 関家一馬氏
半導体製造装置メーカーであるディスコは、独自の社内通貨制度「Will」を運用するなど、徹底した「自由と責任」に基づいた経営を行っている。関家氏は、働きがいを「無理に上げる」という発想そのものを否定する。
「弊社の基本方針は『働きがいを上げようとしない』ことです。モチベーションの高い人を採用し、そのやる気を『壊さない』ことに注力しています。不公平感は働きがいを著しく損なうため、業務命令を排除し、自らの意思で仕事を受注する仕組みを整えています。また、工場勤務の社員とオフィス勤務の社員の間で不公平感が出ないよう、繁忙期には全部門が現場支援に入る。万人受けを狙わず、『ハードに働いて成長したい』という特定の層に向けて自社の実態を誠実に伝えることが、結果としてミスマッチを防ぎ、高いエンゲージメントの維持に繋がっています」
企業規模に応じた戦略とリーダーシップの在り方
調査の総括として、荒川氏は企業規模ごとに注力すべきポイントが異なると指摘した。
・大規模(1000名以上): 部門を越えたビジョンの浸透と、組織横断的な連帯感の醸成。
中規模(100~999名): 従業員を経営のパートナーと位置づけた、意思決定への参画と透明性の確保。
小規模(25~99名): 経営者による誠実な情報提供と約束の履行、そして一人ひとりの適性を見極めた配置。
人手不足という構造的課題に対し、採用や効率化といった対症療法だけでは限界がある。自社の価値観を明確にし、社員が仕事そのものに意味を見出す文化を醸成すること。こうした経営の地道な取り組みこそが、結果として人材を引き寄せ、組織の生産性を支える土台となることが今回の調査から改めて示唆された。









