「施工管理」未経験求人は2016年比16.55倍と急増|コロナ禍を経て増加した技術者派遣のニーズ
株式会社リクルート(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:北村吉弘)は、「2024年問題」が目前に迫る「建設業界」に関わる求人と転職の動向についてまとめ、発表した。
「施工管理」求人は2016年比5.04倍、転職者数は3.84倍に増加
同社によれば『リクルートエージェント』における「施工管理」求人数の推移は、2016年を1として、2023年は5.04 倍と伸長している。転職者数も2016年を1として、2023年は3.84倍と伸長しているが、その伸びは求人の伸びに追いついていない状況が続いている。
インフラ老朽化に伴うメンテナンスニーズの高まりや、民間の大規模な再開発事業に関わる工事など、建設需要が底堅く推移する中で「施工管理」のニーズは高い。一方、成長する市場ニーズに対して、建設業界全体の就業者数は減少傾向だ。同社によると、業界全体の高齢化の進行だけでなく、異業界でも施工管理経験者などの人材の採用ニーズが高まってきており、今後ますます業界内の就業者数の減少が懸念されているという。
同社は、建設業界の採用市場で、中長期的な育成やリスキリング(学び直し)を前提とした、未経験者の採用を行う企業が増え始めていることに着目。 まだ一部企業の動きではあるが、長らく経験者に絞り採用活動を進めてきた建設業界にとっては大きな変化と言える。
出典元:建設業界に迫る「2024年問題」「施工管理」求人、2016年比で5.04倍に増加(株式会社リクルート)
未経験者の採用は16.55倍に
同社は『リクルートエージェント』の「施工管理」求人のうち、仕事の名称または仕事の内容に「未経験」という単語が含まれる求人を、未経験者を採用対象とする「施工管理」求人と定義。その求人数推移を見ると、2016年を1とすると2023年は16.55倍となっており、大きく伸長していることが見てとれる。
同社によると、未経験者の採用を積極的に進めているのは、建設技術者の派遣事業を運営する技術者派遣業界。 未経験者を採用対象とする技術者派遣業界の「施工管理」求人の数は2019年を1とすると2023年は2.34倍に。コロナ禍を経て2021年から大きく増加していることが分かる。かねてから建設業界において、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)として技術者派遣を受け入れる動きはあったが、あくまでも経験者が中心だ。 しかしここ数年は、人手不足感の高まりを受けて、未経験の技術者派遣人材を受け入れようとする建設企業が増加しており、技術者派遣業界は積極的に未経験者の正社員採用を進めているのだという。
なお、同社のグループ会社である株式会社スタッフサービスで、技術者・ITエンジニアの人材派遣を展開するスタッフサービス・エンジニアリングでは、土木・建築系の派遣求人数が 2017 年と比較して 2023 年は3.76 倍、土木・建築関連業界で働く派遣エンジニア数が2.59倍となっている。
建設技術者派遣業界の働く環境
同社によると、技術者派遣業界では習熟度に応じて働く現場を選べることに加え、施工管理の資格がない未経験者でも働きながら資格取得を目指せる環境が整っていることが一般的。未経験から建設領域のスキルを積んだ後に大手ゼネコン等へ転職を果たすケースなども増えてきているという。
同社は、技術者派遣は相互の準備期間としても機能するため、業務未経験者と、未経験者を受け入れたい企業のマッチングが行われやすい構造になっていると解説。未経験で技術者派遣としてのキャリアを選択する理由には「専門性を身に付けられること」「社会貢献性の高さ」「経験や資格を身に付けることで将来的に期待できる高い給与水準」などがあるようだ。
業務負荷を軽減する動きも
また同社によると、施工管理業務の負荷軽減のために、業務の細分化、切り出しなどの工夫も生まれているのだという。これまで施工管理は「4大管理」と呼ばれる「工程管理」「品質管理」「原価管理」「安全管理」を一人で担うことが一般的であった。このうちの「品質管理」「原価管理」「安全管理」を切り出し、施工管理業務の負荷軽減、生産性の向上を実現している動きが増えている。
転職市場においては、施工管理が担っていた事務手続きや図面作成、写真管理などを担う「建設ディレクター」「施工管理補助」などの求人や、業務負荷を軽減する名目で導入されたデジタルツールの利用補助・促進を担う「BIMを活用した施工管理支援」「 BIMコーディネーター」などの職種が生まれ、前述の未経験から施工管理へ転職する場合は「建設ディレクター」「施工管理補助」のような比較的難易度の低い、施工管理関連業務から経験を積んでいくケースが一般的だ。
施工管理として働く魅力とは
同社はリクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査(JPSED)」 のデータから、施工管理として働く方々のモチベーションに影響する仕事の5要素について、状況を確認したところ、各指標とも全体の数値を上回るスコアであることがわかっている。
<各項目と全体比較の値>
「求められるスキルの多様性(技能多様性)」+16.9pt
「仕事の全体感の把握(タスク完結性)」+9.1pt
「仕事の重要性の実感(タスク重要性)」+21.6pt
「仕事の進め方の裁量(自律性)」+14.4pt
「上司や同僚からのフィードバック(フィードバック)」+6.7pt
出典元:全国就業実態パネル調査(リクルートワークス研究所)
同社は、中長期的なキャリアの観点からも、施工管理には魅力的な要素があると解説。施工管理としての専門的な知識や資格を持つ方は、年齢に関わらず雇用市場においてニーズが高く、比較的高い給与水準を維持したまま、柔軟にキャリアチェンジを行いやすい傾向にあるのだという。
ミドル・シニア(50歳~64歳)の転職先の割合(2021年度)を見ると、施工管理が属する「建設・不動産業界(11.8%)」は「総合電機・半導体・電子部品業界(21.8%)」「IT通信業界(13.1%)」に次いで3番目に高く、年齢に関わらず経験や能力を評価し、シニア採用を積極的に進めている様子がうかがえる。
同社は、業務そのものに、高いモチベーションで働くための要素が多く含まれていることや、専門的なスキルを身に付けながら年齢に関わらずキャリア構築が可能な点が、施工管理として働く魅力だとの考察を示した。
一方で労働時間や硬直的な働き方にはいまだ課題が残っているという。建設業界は長らく労働環境の改善を目指してきたが、現実にはなかなか変わり切れていない状況が続いている。「施工管理」を中心に、建設業界の人材は異業界からも採用のニーズが高まっており、労働環境の改善が進んでいない企業で働く個人は、条件も働く環境も良い企業への転職を検討する流れが自然に。
同社は、こうした状況の改善なくしては事業の継続的な成長を望むのは難しいと指摘。建設業界を取り巻く構造的な問題が労働環境に影響を及ぼしていることも見過ごしてはいけないと、警鐘を鳴らした。無理な工期での受注やコストに見合わない案件の受注、IT化への消極的な姿勢なども労働環境の改善を妨げる要因となっているという。同社は、建設業界の労働環境の改善には、このような根本的な問題に対して、業界全体として本腰を入れて解決していくという意識改革が求められているとの見方を示した。
まとめ
同社は未経験求人数全体の分析も行っており、2018年度から比較して2022年度は3.2倍と急増したことを報告し、今後のキャリア採用がより本質的な「スキル・経験や学習スタンス」での採用へと変わっていくとの予測を示している。2016年からの比較で2023年に16.55倍の未経験者求人数となった建設業界においては、その動きはより強まっていくのではないだろうか。建設業界には2024年問題も目前に迫る中、労働環境の改善に向けてどのような意識改革が行われていくか、注目したい。














