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企業のデジタル変革を育成視点と現場起点で実践する5つのメソッド【半径5メートルから始めるDX Vol.1】

2025.03.12

「DX」という言葉が登場して久しく、生成AIをはじめとする技術進化が著しいなかで、企業の現場は依然として戸惑いや人材不足に苦しんでいます。DX(デジタルによる変革)は、経営や本社が主導するだけのものではありません。私たちは企業価値を生む最前線である現場においてどのようにデジタル変革を進めることができるのでしょうか。
「現場任せ」と嘆かずに、まずは自社のビジネスや自分たちの現場にどんなデジタルが必要で、その実現のためにどんなスキルや人材が必要なのか、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。このコラムでは、現場のリーダーや推進担当者の方へ、育成と実践のヒントをお届けします。

あなたの会社のDXは何周目? 改めて今、企業の現場が取り組むべきDXとは

皆さんの会社では、DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)についてどんな取り組みをしていますか。DXという言葉が知られるようになって数年が経ちますが、経営トップが大号令を出して全社で推進している企業、課題認識はあるもののまだ具体的な計画ができていない企業と、その実態はかなりバラつきがあるように思います。皆さんの会社でも、「DXって何から始めればいいの?」という現場の声が聞こえたりしないでしょうか。

これは、DXという言葉が非常に広義で抽象的であることも一因だと思います。それ故DXについて語られる時にはよくDXの“X”、つまりトランスフォーメーション=変革・改革であることが強調されるのですが、厄介なことにこれがまた逆にDXというものを難しくさせている原因にもなっています。

もちろん、単なるIT化やツールの導入がDXの本質ではないのですが、一方でDXを「壮大な変革」と捉え過ぎると、現場の社員にとっては「自分達には関係ない」「自分でできることはない」というマインドになってしまいがち。困ったものです。

けれども、DXにもちゃんと段階があります。日々の現場業務を、「デジタルという観点で自分達に何ができるか?」と、改めて見直すことがDXの第一歩です。例えば、顧客対応の記録をデジタル化し、過去の対応履歴を簡単に検索できるようにする、なんていう取り組みもできるかもしれません。DXを大きなプロジェクトとして捉えるのではなく、現場の小さな変化から始める。そんな現場発の「半径5メートルのDX」を目指してみてはどうでしょうか。

日本社会が抱える「DX人材不足」という課題、DXは果たして誰が進めるべきなのか?

では、どんな人材がいればDXを進めることができるのでしょうか。企業がDXを進める上で直面している最大の課題の一つが「DX人材の不足」です。経済産業省の報告(※)によれば、日本の企業の9割がIT人材不足と回答しています。皆さんの中にも、「専門的なスキルを持った人材がいないから、うちの会社ではDXは無理だ」と感じている方もいるかもしれません。

しかし、DX推進に必要なのは、必ずしも高度なITスキルを持つ専門家だけではありません。むしろ、現場の業務を深く理解し、課題を発見し、それを解決するためにデジタル技術を活用できる人材が重要な場合が多い。つまりDXは本来、「現場の人たちが主体的に取り組むべきもの」なのです。

現場が主体的にDXを進めるためには、まず「自分たちにもできる」という意識を持つことが大切です。そしてそのためには、経営層や管理職が現場を信頼し、挑戦を後押しする風土を作ることが必要になります。例えば、現場の社員が新しいツールを試したり、業務改善のアイデアを提案したりすることを奨励する仕組みを作ることも効果的ですが、現場の社員も積極的にそういった希望を声に出し、また機会を活かすことが重ねて大切になってくるのです。
※「DX動向2024」(独立行政法人情報処理推進機構)より

経営と現場の「認識のズレ」解消に必要なのは、事業や現場に落し込むための「解像度」

組織の問題は、人材スキル以外にも存在します。DXを進める上で、経営層と現場の間でよく起こる「認識のズレ」です。DXの必要性に異議を唱える人はいなくても、いざ進めようとすると経営と現場が考えている目的や手段が微妙に異なり、後になって施策が頓挫する、なんていう話はよくあります。

お気付きのとおり、これはDXに限らず企業においてよくある話で、良くも悪くも見ている景色が違う両者ですから、ある意味自然な現象だと言っても過言ではありません。「半径5メートルのDX」で重要なのは、DXの必要性を「現場の言葉」で経営に伝えつつ、具体的な行動に落とし込むことです。

こういったある意味「段取り」を、面倒に思う方もいるかもしれません。しかし、デジタル化の推進には少なからず費用や基幹システムに関わること、他部署に影響することなど、ひとつの現場だけでは完遂しない課題が付いて回ります。これらの解決のために、現場の言葉で経営に必要性を訴え、認識を合せると同時に、経営の理解と協力を取り付けることが重要だということはご理解いただけると思います。(次回のコラムで具体的にお話しします)

メンバーを巻き込み、現場で率先して「半径5メートルのDX」に取り組むために

ここまでにお話ししてきた通り、現場主導でのデジタル化、DXを進めることは企業の競争力を高めるうえで大変重要です。特に、現場主導というからには、現場で働く社員・メンバーの皆さんを巻込む必要があり、同時に経営としっかりとコミュニケーションを取る必要もあります。しかしながら、激変するビジネス環境や、社員の多様性が増すなかにあって、現場DXの推進は言うは易しであり、一筋縄ではいかない極めて「総合的な課題」とも言うことができます。

改めて皆さんの企業や現場でも、こういった「つまづき」に心当たりはないでしょうか。

・経営からトップダウンで言われても現場のモチベーションが上がらない
・現場にデジタルに強い人材がいないため何から始めればよいか分からない
・推進担当者に負担が集中して疲弊する、施策が停滞する
・壮大な計画を立てたものの実行に移せない、実行したが成果が見えない
・一部の施策はやってはみたものの、そのあとが持続しない


次回から、そんなつまづきを回避し、現場主導で「半径5メートルのDX」を進め成果を出すための5つのポイント(下図)について、より詳しく見ていきたいと思います。

おわりに ~リーダーの方へ~

皆さんの中には、現場を管轄する管理職の方や、推進のリーダーを任されている方がいらっしゃると思います。実務が忙しいなかで、DX推進の使命を託され、デジタル化の取り組みを指揮するのは大変なご苦労がおありだと推察します。特に、取り組みに参加するメンバーの方々を動機付けし、協力・貢献してもらうのは相当な大仕事です。

現場DXには、現場のEX(従業員体験)が良くなること、「現場が楽になる」「現場の仕事がやりやすくなる」という側面もあります。上手く推進してその成果をメンバーの方々とも共有して欲しいと思います。

当社では、事業部主導で組織横断的なDXプロジェクトを組成し、役員にそのプロジェクトの全体責任者(オーナー)になってもらったうえで、各部門の現場リーダーが集まり、施策を推進しました。このとき、言わずもがな現場リーダーの重要な役割は、経営のメッセージを現場に落し、現場の声を経営に届ける、中継役や通訳者となることです。リーダーである皆さんの関わり方が、その後の成果を大きく左右することは言うまでもありません。ぜひその気概を持ってプロジェクトを力強く進めていきましょう。

繰返しですが、DXは経営層だけが推進するものではなく、現場の社員一人ひとりが主体的に取り組むことで初めて成功します。そして、その第一歩は「半径5メートルの変革」から始まります。自分たちの現場で何ができるのかを考え、小さな成功体験を積み重ねることで、DXは確実に進んでいきます。

次回のコラムでは、現場DX推進メソッドの1つ目として、経営層との効果的なコミュニケーション方法や、現場を巻込むためのツールなど、現場DXの具体的な計画方法についてお話しします。