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元企業人社労士から見た企業を取り巻く今 ~これってマネジメント?~

2020.04.07

お見舞いを兼ねて……

 これを執筆している現在、新型コロナウィルス(COVID-19)感染拡大の影響が広がっていて、学校の休校や各種スポーツイベント(プロ野球、Jリーグ、大相撲、トップリーグ、選抜高校野球大会、他)の延期・中止、卒業式や入学式までの取り止めが決定されています。株式市場の「暴落」に限らず、現実の「働く場の喪失」が経済に与えるインパクトは、想像できないくらい大きなものとなることでしょう。弱小事務所である私の事業ですらも、予定していた研修が、出張の見合わせというお客様都合で延期(時期未定)となりましたし、打ち合わせの訪問等も「社内会議も自粛しているので、相当期間延期したい」との申し入れもあって、活動そのものが滞ってしまっています(泣)。この事態が早期に終息し、通常通りの(いや、この間の停滞を取り戻すほどの)経済活動に復することを心より願っています。

 今回の騒動は、社会(というよりも世界全体?)に大きな変化をもたらすことになるでしょう。テレワーク・在宅勤務によるワークスタイルやコミュニケーションの在り方の変化もそのひとつかもしれません。
 出社禁止や時差出勤によって、「なぁーんだ、会社に行かなくとも相当程度の仕事ができるんだ……」と感じられた方も少なくないでしょうし、「毎日満員電車に揺られて出社・出勤することにいったいどんな価値がある(あった)の?」「会社に時間を拘束されることが、働くってことなの?」と改めて考えさせられた方も多いのではないでしょうか。もちろん、余計に「Face to Faceのコミュニケーションが欠かせない!」「成果を出すことが仕事するって意味なんだ!」と感じられた場面もあったかもしれません。これを機に、仕事・業務の進め方のひとつの基準として、わざわざ同じ場所・時間に皆が寄り集まって行う必要などないものと、互いの意思疎通が不可欠な仕事との「選別」がはっきりしてくるのではないかと思います。業務の見直しを行う上で、本質的に重要なことは何なのか?(例えば、直接のコミュニケーションによってコンセンサスを得る必要の有無)を判断基準とした考え方が定着していくのだろうと考えています。

これってマネージャー?

 今回の本題に。過日、ある知己(30代中堅男性会社員)から相談を受けました。このまま会社に残るべきか、それとも外に出て可能性を追求するべきなのか? と。彼の勤務する会社は、国内では大手の部類に入る金融関連の会社。とは言え、取り巻く事業環境は厳しく、大規模な事業変革(支店網の再編と収益性の高い事業分野への経営資源の集中)が計画されました。彼はその影響で、約半年前に支店から本社部門へ異動になったとのこと。そこでの業務になかなか馴染めず、また上司たるマネージャーにある指摘を受け、上述の相談に至りました。
 数日前マネージャーと面談があり、「君は異動して半年ほどになるが、残念ながら当部門の戦力にはなりきれていない。現在従事している業務に関し、課題と今後の展望に関するレポートを作成し提出してくれないか? それを踏まえ、君の今後の処遇も考えねばならないことになるだろう。」と言い渡されたそうです。提出期限が2週間と決められたレポートを作成した上で再度面談すると、シニアマネージャーも同席して、「こうした基本的なレポートを見る限りにおいても、君が当部門で業務を行うには、少々無理があるかもしれない。(他企業への転職も含めて)自身の身の振り方を考えては如何か?」と伝えられたというのです。
 異動の背景には、① 彼は帰国子女ゆえに、会話程度の英語は可能であったこと(因みに当該部門は、TV会議等で海外部門とのミーティングが頻繁に行われるそうです)、② 支店における営業成績は人並み程度(即ち、トップセールスではない)だったため、支店にとって大きな戦力ダウンにはならないだろうという判断があったことが挙げられていたようです。
 どんな企業の事情も似たようなものかもしれませんが、本社機構の部署の一部には、配属から2~3年をかけて人財を育成していく部門があるようです。極めて専門性が高く限定された分野ゆえに、業務マニュアルのようなドキュメント化されたものは殆ど用意されておらず、OJTが中心の育成方法(というよりも「徒弟制度」に近い?)が用いられている場合が多いのでしょうか。彼に聞いてみても、案の定というべきか、育成のために用意されたマニュアルなどはなく、全ては実務に携わりながら見様見真似で習得する方式だったようです。加えて特段マネージャーとの1on1のような面談の機会など用意されておらず、言わば「放ったらかし」のような日々の業務遂行だったとのこと。今回の異動が事業変革に伴うもので、通常の配属とは異なるものだったことから、従来の「徒弟制度」に従って育成しようとすると、先輩社員(彼)を、入社年次は低いが本社部門経歴のある社員の下に付けるという、「逆転現象」がおきてしまうという事情もあり、マネージャーとしても苦慮されていたであろうことは推測できます。
 なお、彼の名誉のために付け加えておきますと、某有名私立大学を普通の成績で卒業して入社し、支店業務に数年間従事。営業成績は普通程度だったとのことですから、一応人並みの(失礼!)理解力・業務遂行力は備えていたと推測しています。

 さて、長々と状況説明をしてしまいましたが、皆さんはこのマネージャーのマネジメント・言動について、如何お考えになるでしょうか?
 前回・前々回とマネジメントの在り方・あるべき姿について、「3つのミッション」としてお話しさせていただきました。私には、このマネージャーは一番目のミッションである「業績達成」については優秀なのかもしれませんが、二番目の「部下の育成」については、放棄しているとしか見えません。
 確かに、特定業務に従事する要員を育成している時間的な余裕がなく、外部の労働市場から調達するようなケースもあり得るでしょう。意に沿わない(または、要求仕様に合致しない)要員と他部署の人員との入れ替えを図ったり、全くの社外から充足させることも、短期的業績が求められるケースでは止むを得ない方法かもしれません。時に応じて、最も重視すべきポイントを見極め、適切に判断するのもマネージャーの力量です。しかし、組織として継続的な成長を目指すならば、その要員をどう育成するのかということを考え、それができる環境を整えることこそ、マネージャーに求められる仕事だと考えるのですが……。
 
 相談いただいた彼には、これまで勤務してきた「会社に対する愛着」と、彼自身の将来を見据えた「能力・キャリア開発」を秤に掛け、どちらが自身にとって大切な価値を持つのかということを十分考えて、判断するべきことをアドバイスさせていただきました。加えて……会社の他のマネージャーの多くが、この上司と同じような考え方の下、人財育成や自身の育成・指導方法を顧みないのだとするならば、5年後10年後はともかく、その先を考えて早目に次のキャリア形成に勤しむべきことを伝えました。

時は正に

3〜4月は、会社員の皆さんにとっては少し、いや大いにソワソワする季節かもしれませんね。多くの企業において、組織・人員配置の見直しがあり、異動の内示・発令が行われ、新しい業務が開始される時期だからです。余談になりますが、私の会社員時代(1980年代半ば頃)を思い起こしますと、異動で転勤してきた方を迎えての歓迎会と称して、桜の名所で「花見」をする(そのための場所取りは、組織の若手の重要な仕事のひとつでした!)というのが恒例行事だったように記憶しています。今年は既に観測史上最速の開花宣言が出されましたので、温暖化に伴ってもはや季節行事でもなくなってしまったということですね。更に言えば、昨年末の「忘年会スルー事件(?)」に代表される通り、部門のコミュニケーションを取る方法も、一昔前のように飲み会をやれば良い、という時代でもなくなって来ているようです。
 
 私自身、会社勤務時代には多くの異動を経験しています。新しいミッションに心躍るもの、責任の重大さに身震いするもの、また必ずしも意に沿わないものもない訳ではありませんでした。今振り返れば、どんな異動の辞令にせよ、その時々の組織の事情や組織デザインを行った方々の期待や意図(中には報復も?)があったものと思います。当時のサラリーマンの常識として、異動・転勤は避けては通れないものという暗黙の了解もあったがゆえか、私自身は断ったり忌避したりするものはありませんでした(と記憶しています)。また、組織変更や人事異動を考える立場になったときも、部門の目標を達成するための最適解を求めて異動案を策定していたはずで、決して自身の好き嫌いで人員配置を建議・発案したことはありませんでした。ただ、「この人と一緒に仕事してみたい!」と思ったことや、人と人の新しい組み合わせから生じる「化学変化」を期待して、異動案を発案したことは何度かありましたが。
 人事異動を通して本人の成長を促し、組織にとって実りあるものにするか、それともやる気を失わせてしまい、悪影響を組織にもたらすものにするか、とても重要な役割を果たすのは、何と言っても上司たるマネージャーでしょう。本人に異動を告げるマネージャーは、異動先の組織の位置付けや業務の重要性はもちろんのこと、何故本人でなければならないのか? という、その異動に込められた意図や期待を正確に伝えることが求められますし、受け入れ側のマネージャーも同様でしょう。本人にどういう意識付け・動機付けを与えて新たな業務に挑戦させるのかということは、マネージャーに課せられた大切なミッションだと思います。
 如何にきちんと事実を伝えられようと、どうしても意に沿わぬ、不本意な異動もあり得ます。長い企業勤務生活の中では、いつも「希望に燃えて」着任するような異動に恵まれるとは限りません。しかし、それをネガティブに捉えるか、新しい業務の意義を考えやり甲斐を求めて前向きに捉えるかが、会社員生活に限らず本人の人生にとって、大きな岐路になるかもしれません。逆境に置かれた時こそ、その人の真価が問われるのです。