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これからの「採用」はどう変わるのか?~検索ワードの変化から見る、個人の「働く」に対する本音とは?

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。その中で、我々が働く環境も変化を遂げつつあり、個人の「働く意識」が問われ始めています。
 求人情報サイト『リクナビNEXT』の検索ワードを分析したところ、働く環境に対する求職者の本音が見えてきました。今回はその調査結果について詳しく解説したいと思います。

■検索ワードの裏にある、ライフフィット志向と生涯成長への思い

 これまで社会構造の変化が、労働市場や、企業と個人の関係に及ぼす変化を、いろいろな角度から解説してきました。そして前回は、「ふるさと副業」という、地方企業と都市部人材の新しい結びつき、共創の形をご紹介しました。

 今回は、転職情報サイト『リクナビNEXT』の検索ワードの変化から、求職者が求人検索の際に重要視しているポイント、そしてその裏にある本音について解説したいと思います。

 『リクナビNEXT』内で検索された「検索ワード」ランキング上位について、2014年と2019年の検索ワードの変化を調べたところ、「働き方」に関するワード(以下、「働き方ワード」)が増えていることがわかりました。2019年に100位以内にランクインした「働き方ワード」は11ワードで、2014年の3ワードと比較して約4倍に増加しています。

 上位となった「働き方ワード」は、「在宅勤務」「土日休み」「転勤なし」「有休消化率」「ワークライフバランス」「完全週休2日」「残業なし」「在宅ワーク」「在宅」など。これらの「働き方ワード」の大半は、2014年には100位圏外であり、この5年間で多様な「働き方」を求めるワードが求職者間で浸透したことがわかります。

 象徴的なのは、「在宅」に関する検索が増えていること。場所の制約を解き放ち、介護中でも子育て中でも働きたいという人が検索していると見られます。なお、「在宅勤務」(2019年ランキング9位)「在宅ワーク」(同45位)「在宅」(同49位)とも5年前は100位圏外で、一気に注目度が上がった格好です。

 また、「土日休み」「有休消化率」「残業なし」などの検索ワードからは、場所の制約だけでなく「時間の制約」とも向き合いながら働きたい人が増えている、と判断できます。働き方改革が社会的に注目されるテーマとなる中、仕事一本やりではなく、仕事と生活の高次のバランスに注目する人が増えているのです。

 裏を返せば、こうした「場所の制約」「時間の制約」を抱えた働き手に対応できていない企業は、昨今の人材獲得競争において後れを取る、という事実がより顕著になったと言えます。

 最近では、ITベンチャーを中心に「週休3日」や「フルリモートワークOK」などという思い切った人事施策のカードを切る企業が増えつつあります。一方で、飲食業や観光業、医療福祉などのサービス業や、土木建築のように「現場に行かないと顧客サービスや付加価値を提供できない」業界においては、働き方改革においてまだ多くの課題を残している企業も少なくありません。ただ、そういう業界においても、業務プロセスを再点検・再定義し、オンラインでもできる業務や自動化できる業務とすみ分けし、いち早く新しい働き方を導入している企業の注目度は高い傾向にあり、採用・定着戦略上優位となるケースも散見されるようになりました。

■時間や場所に制約のある女性は「働き方ワード」全体の検索傾向が高い

 「働き方ワード」の検索回数を“性別”で分析したところ、女性のほうが「働き方ワード」全体の検索傾向が高いことがわかりました。「検索ワード」全体の女性の比率が41.9%であったのに対し、「働き方ワード」では59.8%と高く、中でも「在宅」「有休消化率」「ワークライフバランス」が多く検索されています。
 一方の男性は、「完全週休2日」「残業なし」「転勤なし」の検索傾向が高いことがわかりました。

 このジェンダーギャップからは、家庭の中での子育て、介護、家事の負担が女性に偏重していることが読み取れます。だからこそ女性は、仕事と生活のバランスが取れる仕事を探す傾向が強いと思われますが、今後は男性が子育て、介護などの家事に積極参加し、検索ワードにおける性差はなくなっていくことを期待したいと思います。

 男性の「完全週休2日」「残業なし」「転勤なし」という検索傾向からは、従来の日本企業の雇用的慣行と言われる三大無限定(職種無限定、場所無限定、期間無限定)に対して「NO」と抵抗する姿勢が見えてきます。企業は、個人の生活を壊してまで、人事辞令一つで職種や勤務地を変えることにもっと慎重になる必要があり、個人の生活上の制約やライフデザインに寄り添い、一人ひとりの思いに耳を傾けなければならない時代になっているのです。

 さらに「働き方ワード」と「年代ワード」の検索回数を“年齢”で分析したところ、20代の「働き方ワード」の検索傾向が高く、40代、50代では「中高年」「年齢不問」というワードの検索傾向が高いことがわかりました。

 この結果からは、20代はワークライフバランスを重視した働き方を実現したいという人が多い、と判断することができます。また40代、50代の傾向からは、自身の年齢が応募のネックにならないだろうかという不安と、年齢にこだわらず広く門戸を開いてくれる企業を探したいという思いが見て取れます。

■100人100色の生涯活躍に寄り添う「ライフフィット風土」の醸成がカギ

 求職者の検索傾向の変化からは、働く個人のライフフィット思考の拡大や、長期活躍思考の拡大といった深層心理が見えてきます。特に女性の検索傾向からは、子育てや介護といったライフステージの制約に合った働き方がしたいという「声なき声」が聞こえてきます。

 企業寿命が短命化する一方、個人の職業寿命は長命化するという逆転現象が起き、事実上企業はもはや終身雇用を約束できなくなりました。そうした中で、今までのような企業の都合を押し付けるような働き方は通用せず、「100人100色の生涯活躍」に寄り添った「ライフフィット風土」の醸成がより重要になっています。

 人生100年時代による生き方の多様化を受け、個人は「いくつになっても成長したい」と考えています。「働き方改革」が叫ばれる中、「有給休暇」「在宅勤務」などの制度を訴求する企業が多くなってきましたが、実際の取得率や実体的な取得風土を訴求できている企業はまだ少数です。また、年齢によらず実力で評価する機会、社員の卒業後の活躍などを具体的に訴求できている企業はさらに少数です。ライフフィットな環境とエンプロイアビリティ(雇用され得る能力)向上の機会の同時訴求。これこそ、「終身成長」時代の採用成功のカギとなるでしょう。

 アメリカの臨床心理学者、フレデリック・ハーズバーグは自身が提唱する「二要因理論」において、「 人間の仕事における満足度は、ある特定の要因が満たされると満足度が上がり、不足すると満足度が下がるということではなくて、「満足」に関わる要因(動機付け要因)と「不満足」に関わる要因(衛生要因)は別のものである」と理論づけています。

 仕事の「満足」に関わる動機づけ要因とは、「達成すること」「承認されること」「仕事そのもの」「責任」「昇進」など。これらが満たされると満足感を覚えますが、欠けていても職務不満足にはつながりません。
仕事の「不満足」に関わる衛生要因とは、「会社の政策と管理方式」「監督」「給与」「対人関係」「作業条件」など。これらが欠けていると不満足を引き起こしますが、満たしたからといって満足感につながるわけではありません。

 働き方改革を受けたさまざまな施策によって、上記の「衛生要因」は満たされつつあります。ただ、「休日も多いし、残業もない。在宅勤務制度も用意したからこれでいいだろう」と捉えるのは早計です。これら衛生要因に加え、生涯成長が実現できるような「動機づけ要因」を合わせて訴求することが、これからの人材戦略においては必須であると考えましょう。
 「働き方改革」と「働きがい改革」の二重奏の実現。それこそ、優秀な人材を惹きつける、これからの採用戦略の要諦となるでしょう。