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テレワークの専門家による 「リモートでのコミュニケーション術」 ~全部リモートで!は間違い?上手なテレワークの始め方~

2020.06.09

 新型コロナウイルス禍の影響で、地域によっては未だ「テレワーク」「リモートワーク」「在宅勤務」等、出社しない働き方を続け業務上の問題や社員のストレスをギリギリで処理しながら続けている企業もいらっしゃるかと思います。今回は、前回の「テキストコミュニケーションとオンラインミーティングの使い分け」に続き、フルリモートで400人が働く現場にいる私から見た、今後起こりうる社会の変化や、変化についていくためのリモートと出社の使い分けについてお話しします。

コロナ禍をきっかけに変化する「働き方の常識」

 緊急事態宣言が発令されて、もうすぐ2か月が経とうとしています。テレワーク、という働き方に「だいぶ慣れてきた」「快適だ」という方がいる一方で、「ストレスが溜まっている」「業務に支障が出ている」という方も多いのではないでしょうか。

 このような、働き方が大きく変わる節目は過去にもありました。現在では当たり前となりつつあるクラウドサービスへのデータ保存は、2011年3月の東日本大震災で公共交通機関が麻痺する等物理的に出社が不可能になった際の経験から導入企業が増えていったといういきさつがあります。クラウドサービスの利用が定着し今では一般的になったのと同じように、今回のコロナ禍で起こった「多数の企業がテレワークを経験した」という事実は我々の働き方や、企業の働き方に対する考え方が大きく変化するきっかけとなるでしょう。

コロナ禍終息後、企業はどう変わっていくのか

コロナ禍終息後、企業はどう変わっていくのか

 今後、外出制限が完全に解除されたとしても、企業での働き方は大きく変化すると思います。パターンとしては、
 
①テレワークに業務を載せ替える企業
②テレワークを働き方の選択肢に入れる企業
③原則出社とし、緊急時にテレワークに切り替える企業
④出社のみの企業

が考えられます。今までは、②③④に該当し、テレワークは「何かあった時の特別な対応」だった企業や「考えてもみなかった」企業も、テレワークの利便性や可能性に気付いたはずです。今回の経験を基に、必ず出社せざるを得ない業態以外は①②③へと移行していくでしょう。

 かといって、全ての企業が①のように全て業務をテレワークで完遂出来るかというとそうではありません。おそらく可能な企業はほんの僅かです。実際、フルリモートで運用して6年目となる弊社・株式会社ニットでも、まだテレワークでは対処が難しいと感じる部分が残っているからです。

すぐ全部リモートに!は無理。テレワークと出社の関係

すぐ全部リモートに!は無理。テレワークと出社の関係

 私は多くの企業でテレワークについてお話ししていますが、テレワークに前向きな企業は何でもテレワークに載せ替え可能だと思いがちです。しかし思い出してください。企業がこれまで時間をかけて設計してきた業務の大半はオフラインを前提で設計されています。そのため、テレワークに適さなかったり、業務効率が落ちてしまったり、という業務も多数存在します。企業として最適な業務体系を考えるうえで「テレワークと出社は共存の関係である」という認識をしていただいたほうが良いでしょう。

 この共存の関係、というのは「テレワークだけ」「出社だけ」とどちらかだけにしない、ということです。1つのプロジェクトの中でも、リモートでできる業務と出社して対応する業務とが混ざっていて良いのです。むしろ混合することが今後のスタンダートとなっていくかもしれません。

この業務はリモート?出社?「成果の出しやすさ」を軸に考える

この業務はリモート?出社?「成果の出しやすさ」を軸に考える

 ではテレワークと出社、それぞれどのような業務が適しているのでしょうか。判断するための基準としていただきたいのは「成果の出しやすさ」です。突然「成果」と言われても判断が難しい、という場合は、その業務について、下記の4点を考えてみてください。

A.自宅でできるか
B.短時間でできるのはどちらか
C.認識齟齬は発生しやすいか、しにくいか
D.捗る・クオリティが高いのはどちらか

 例えば、経理業務について考えてみましょう。ERPなど、現在の経理システムが社内サーバーで運用している状況であれば、社内PCにリモート接続できない限りは自宅でできない、つまりAは×となります。

 また、営業訪問の場合について考えてみましょう。先方がテレビ会議ツールで商談が可能な場合、画面オンにし、快適な通信環境を整備していれば、リモートで対応しても全く問題ありません。むしろ、私はリモートを推奨したいと思います。理由としては、移動時間が発生しないため、1日の商談件数を増やすことができます。また、画面共有機能や録画機能を活用すれば、聞き漏らしなどによる認識齟齬も発生しにくくなるからです。しかも、自宅で対応するのであれば、満員電車等の移動による疲弊もないため自身の体調管理が容易になることに加え、疲れたからパフォーマンスが落ちる、ということもなくなります。

 ここまで2例挙げましたが、注意していただきたいのは人によって最適解が異なる、ということです。例えば企画案等のアイディア出しの場合、「オフィスに出社すると話しかけられる機会が多く集中できない」「音楽を聴きながら考えたほうが良い案が出やすい」という自宅が適したタイプの人もいるでしょうし、「自宅だと雑念が多すぎて集中できない」「メンバー数人と、ホワイトボードを使いながらブレストしたほうが捗る」というオフィスが適したタイプの人もいるかと思います。企業側がどちらかに決めてしまう、というのは悪手でしょう。

上手なテレワークの始め方とは

上手なテレワークの始め方とは

 では、企業がテレワークを選択可能とし、リモート・出社どちらにするか自由に選べる、とする場合気を付けていただきたいたった1つのポイントをお話しします。それは「スモールスタートで業務を載せ替えること」です。

 今現在テレワークをせざるを得ない状態になっている企業も多いでしょうし、仕切り直して始める、となると、一息にできそう、もしかしたらそのほうが効率的かもしれない、と思う方もいるかもしれません。しかし、出社で処理していた業務をリモートに載せ替える、となると業務内容によってその負荷は全く別物となります。

 では、具体的にどうやって載せ替える業務を決定し、何からスタートすれば良いのでしょうか。まずは、各業務を出社からリモートに切り替えるにあたり、どれだけ負荷がかかるかを踏まえて短期・中期・長期の3つに分類します。

<短期>
・業務フローを変えずに可能
・明日からできる

<中期>
・業務フローの変化や改善がともなう
・投資が伴わない・少額投資で実現可能
・1ヶ月以内で切り替え可能

<長期>
・システム導入などの大々的な変化が必要
・投資がともなう
・1ヶ月以上の期間がかかる

 ご覧いただいてわかる通り、短期で実現できるものについては比較的容易にテレワークに載せ替えることができます。企業によって変わるかもしれませんが、例えば短期に分類される仕事として「会議」「資料作成」「アポ取得」「リスト作成」「調査」などが挙がります。これらの業務は、場所が変わったとしても業務の進め方は変わりにくい業務と言えるでしょう。また、「パソコンさえあればできる」という業務は、大方短期に分類しても問題ありません。

 中期の業務としては、「商談」「イベントのオンライン化」など、これまでの業務フローは一部変更・追加するが、コストをあまりかけずに対応できることが挙げられます。他にも、変更は必要だが、変更自体に大きなパワーがかからないものは中期にあたります。
最後に長期の場合です。これは、「クラウドサインの導入」「経理や人事システムのリプレイス」など、大々的な投資が必要なものや、クライアントや協業企業等との大がかりな調整がともなうものが分類されます。

 なお、これらの分類はもちろん会社規模や関わる人員数、社内規則によって大きく変わります。さらに、システムや制度をリモートにするにあたり新しく導入する場合や刷新する場合もあるため、一概には言えません。

 大事なことは短期に分類した、もっとも実現しやすいものから順に着手していくことです。そして中期・長期に分類しているものは、着手できそうなところから同時並行で進めていくことをお勧めします。

新しい社会に適応していくために

 一般社団法人日本CFO協会の調査によると、約70%の企業が2、3月にテレワークを実施、または推奨したそうです。これだけ多くの企業がテレワークを経験し、今も試行錯誤しているというのは社会全体に多くの影響を与えます。もう私たちは、コロナ禍が起こる前の世界には戻れないのです。「スモールスタートで」「できることから」「成果の出しやすさを基準に」出社とテレワークを上手に使い分けていくことが、今後の社会を生き抜くうえでは必要なのではないでしょうか。

 また、多くの企業がテレワークに踏み切る中で、実はSNSでは業務と全く別の部分からの声も挙がっています。「誰とも話さないため孤独を感じる」「管理職が寂しがっている」等…メンタル面についてです。これも、在宅でのテレワークを長期間続けることで浮上してくる、大きな問題です。

 次回は、テレワーク長期化で発生する「孤独」や「コミュニケーション不足」との戦い方についてお話しいたします。

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