オンラインイベントでのコミュニケーション② オンラインの「参加型イベント」で上質なコミュニケーションを実現する方法
新型コロナウイルス感染症の影響により、講演やセミナーがオンライン開催に移行する一方、「ワークショップ」「ミートアップ」「ハッカソン」といった参加型イベントはオンライン化がなかなか進んでいません。vol.1では、オンラインでも場を活性化させ、上質なコミュニケーションを生み出すためのポイントについてご紹介しました。今回は、議論を進展させるファシリテーションの技法についてお話しします。
議論を進展させるために、3つの「型」を活用する
参加型イベントをオンラインで実施する上で重要なのは、参加者の「相互理解」を深めることです。オンラインでは、対面しているときと比べ、表情やしぐさなどの「非言語コミュニケーション」が取りづらく、自分の発言が他のメンバーに伝わっているのかどうか不安になりがち。すると率直な発言がしづらくなり、場の熱量も高まりません。
そんなときは、ファシリテーターが、1人の意見に対して別のメンバーに意見を求めるなどして「議論進展」を促すのが有効です。自分の意見に対する他者の意見を聞くことで、「聞いてもらえていた」「内容が伝わっていた」と安心感を得られるからです。
では、どのように議論を進めていけばよいのでしょうか。「高度なファシリテーションスキルを要するのでは」と思われがちですが、次の3つの「型」を踏まえて設計していくことで、議論を進展させることが可能なのです。
「化学反応型」
アイデアをかけ合わせて新しいアイデアの発想を促す
「相互理解促進型」
対立するアイデアの背景を推測し合う
「因数分解型」
出たアイデアを深掘って分解していく
「化学反応型」では、AさんとBさんのアイデアをかけ合わせることで新しいアイデアにつながる発言を促します。
「相互理解促進型」では、AさんとBさんのアイデアが対立している場合、「何が違うのか」「なぜ違うのか」を考えさせます。
「因数分解型」では、抽象的なアイデアが出てきたときに、「具体的にはどういうことですか」など、深掘りする問いかけをします。
この3つの型を組み合わせることで、議論は進めやすくなります。最初に設計をする段階で、かけ合わせをどんどん増やしていくか、対立が生まれるようにするのかを想定しておくことで、ファシリテーションの難易度は下がると思います。
議論進展があるオンラインワークショップは、参加者の満足度が高い
議論進展を促すことで、相互理解が進み、オンラインコミュニケーションの質が高まる―この仮説にもとづき、実際に実験を行ってみました。
協力いただいたのは2社。仮にX社・Y社とします。X社では「議論を進展させない」、Y社では「議論を進展させる」と、進め方に差をつけました。いずれも、「テーマに対してブレスト的にアイデアを出す」→「質問があれば相互に聞く」という流れは同じ。しかし、その後、X社では「一番良いと思ったアイデアに投票する」ところで終了し、Y社では「それぞれのアイデア同士をかけ合わせて、新しいアイデアを創出する」というように議論を進展させたのです。
終了後、参加者にアンケート調査を行ったところ、X社の満足度は5点満点中、3.7点。Y社の満足度は4.4点と、大きな差が見られました。寄せられたコメントの一部をご紹介しましょう。
<X社(議論進展なし)>
●他の人のアイデアを知ることができたり、一番良いアイデアを出そうと競争したりする感じは楽しかったが、グループでアイデアを練り上げている、協働している感覚がなく、物足りなかった
●知らない人同士で関係性が構築される感覚はなかった
<Y社(議論進展あり)>
●他の参加者のアイデアがあったおかげで、自分だけでは考えつかなかった新しいアイデアが出た瞬間が楽しかった
●チームで議論している感覚を味わえた
●リアルで議論しているときと差がないくらい熱量を感じた
このように、議論進展を促すことで場の熱量は高まり、参加者の満足度も高まるという結果を得られたのです。
テーマの「粒度」を適切に設定することが重要
議論進展を意識したオンラインコミュニケーションの設計をするにあたっては、大前提として議論のテーマの「粒度」を適切に設定しておく必要があります。議論テーマの粒度が粗過ぎると、それぞれのアイデアの軸が違いすぎて進展を生み出せず、「議論の空中戦」が発生してしまいます。
わかりやすい例を挙げると、「新型コロナウイルス感染症問題をいかにして終息させるか」というテーマ設定をしたとします。「特効薬の開発を急ごう」と言う人と「検査体制を強化しよう」と言う人がいたら、そもそもの前提が異なるため、意見が交わることもなければかけ合わせることもできません。この議論テーマは「粗過ぎる」ということです。粒度を細かくして、「特効薬の開発をスピードアップするためには」「どんな検査体制を敷くか」というテーマに設定すれば、議論は進みやすいでしょう。
なお、うまく運んだオンラインワークショップの議論設計の事例をもう一つご紹介しましょう。テーマは「組織開発」。ここでは、あえて「対立」を生むようなテーマ設定をしました。
「マネジメント層を育成すべき」「若手層を育成すべき」「チームビルディングを工夫してコミュニケーションの円滑化を図るべき」という3つの選択肢を用意して、参加者に「あなたはどれがいいと思いますか」と最初に投げかけたのです。すると参加者の意見は割れ、それぞれの理由を語り合うことで議論が活性化しました。
このように、最初のテーマ設定を工夫することで、ファシリテーションスキルが高くなくても議論進展を促すことが可能になります。
円滑に進行するための環境づくり、盛り上がるための仕掛けを
この他、オンラインでのワークショップやディスカッションを成功させるためのポイントをいくつかご紹介しておきます。
●1グループあたり、最大5名までにする
以前、リアルでのワークショップの設計を行った際、1グループは5名以下が適切と経験から判断しました。1グループあたりの人数を変えて実験した結果、6名以上になると議論に参加しなくなる人が出てくる傾向が見られたのです。また、それぞれの意見をかけ合わせていく際にも、人数が多すぎると複雑化し、時間もかかってしまいます。4~5名が適切な人数であることは、オンラインでも同様だと考え、現在実践を続けています。
●参加者はできるだけ周辺の音が入らない環境で参加する
周囲の雑音が入ると参加者の声が聞き取りづらく、集中力がそがれてしまいます。静かな環境から参加してもらうようにしましょう。周りの音が気になる場合は、マイクオフ機能を活用します。
●資料の共有が別途できる場合、事前に行っておく
資料を画面に映し出すこともできますが、前のページに戻って確認することができないことも。事前に共有しておいた方が話に集中しやすくなります。
皆がオンライン上で同時に作業ができるような「共有型ワークシート」を準備しておくのも有効。テキスト入力によって意見やアイデアを可視化することで、伝達度が高まります。
●ガヤ、ちょっとしたコメントなどはチャットツールを活用する
ちょっとしたコメントやガヤを発するにも、他の人と音声がかぶってしまうとストレスを感じるもの(発話衝突)。それを避けるために発言を控えると、どうしても盛り上がりに欠けてしまいます。そんなときはチャット機能が効力を発揮します。
あるオンラインワークショップの実験では、約20名の参加者が5チームに分かれてオンラインディスカッションを行った後、再び全員がオンラインで集い、各チームの代表者がアイデアを発表しました。
すると、最初のチームの代表者が発表するとき、そのチームメンバーの1人がチャットで発表者に対して応援コメントを入力しました。他チームメンバーも続けて「拍手」や「頑張れ!」などのエールの声が書き込まれて行きました。1時間程度、各チームでの議論を経て全体に戻ったとき、チームで応援コメントが飛ぶようになるなど、関係性も構築されていきました。参加する方々のそれぞれのキャラクターが垣間見えたやりとりで、場が一気に和んだのです。その後、各チームの発表の際にも応援コメントが自然と飛ぶようになりました。熱量のある議論によって構築されたつながりや関係性の温かさが、コメント機能を使うことでオンラインでも体感できる瞬間でした。
イメージとしては、「LIVE動画配信サービス」で視聴者のコメントが右から左へ流れていく、あのライブ感です。一体感が醸成され、場の熱気が高まります。チャットで寄せられたコメントを、ファシリテーターがラジオパーソナリティのように拾い上げるといった工夫も効果的です。
以上、私たちの「参加型イベントのオンライン化」への取り組みをご紹介しました。仮説を立て、数回の実証実験で手応えを得ましたが、まだまだこれからです。今後、さらに実績を積み重ねることでブラッシュアップし、より効果的なメソッドに進化させていきたいと思います。
新型コロナウイルスの影響が長期化する中、自己成長や出会い、交流の機会を諦めるのではなく、状況に応じて新たなスタイルを築いていくことが重要だと思います。我々が今回考案したメソッドは様々な可能性のうちの一つのパターンだとは思いますが、この記事を読んで、「自分も挑戦したい」と思っていただけた方がいれば、ぜひ今だからこそできることを一緒に考え、実践し、新たなスタンダードを創り上げていけると嬉しいです。
※本記事内の図は、参考文献を基に独自に作成したものです
<参考文献>
大平雅雄『対面異文化間コミュニケーションにおける相互理解構築とアイデア創発の支援に関する研究』、http://library.naist.jp/mylimedio/dllimedio/show.cgi?bookid=100037915&oldid=69517、2003年3月
大澤幸生、小橋りさ『日用品企画実験における対面・Web上の議論の効果比較
~提供者と受容者の相互作用モデルの部分的検証として~』(マーケティングジャーナルVol.31)、2011年
奥田 訓子、尾野 明美、荒木 みさこ、茂木 俊彦『感情共有コミュニケーション尺度開発の試み』、桜美林大学心理学研究、2012年度
※論文格納元URL:
https://obirin.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1447&item_no=1&page_id=13&block_id=34
※当該文献の著者の掲載順序は論文内の表記に準じています
杉谷陽子『インターネット・コミュニケーションの優位性と課題について:心理学からの提言』(第3回ITコミュニケーション活用促進戦略会議)、https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/itc/dai3/siryou1.pdf、2014年2月12日