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これからの「採用」はどう変わるのか?⑬~コロナ禍での転職市場動向と企業に求められる採用姿勢

 急激な少子高齢化、労働人口の減少、サービス経済化、デジタル社会への転換、AIの進化など、社会構造は大きく変化しています。働く個人の生き方や働き方に対する意識も大きな変化を遂げつつあり、そこに向き合う企業も採用戦略の新たな在り方が問われ始めています。
そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、転職市場も急激に変化しています。転職市場の現状と今後の見通しについて、2回に分けて解説したいと思います。

コロナウイルス収束後を見越して「人的投資」を積極化する企業は多い

 初めにお伝えしておきたいのは、コロナ禍以前から構造的な人材不足や、サービス経済化・DX(デジタルトランスフォーメーション)化の進展により、企業の経営戦略や採用戦略に質的転換が起きていた、ということ。足元で採用活動を一時休止する企業はありますが、この質的変化の流れは今後も続くと考えられます。

 そして、業界変容、戦略の複線化を受け、「業界一括りでは語れない」というのも今の転職市場動向の特徴となっています。

 例えば、観光業や小売業、飲食業などコロナ禍の影響を大きく受けている業界がある一方で、医療や物流・運輸、EC関連、通信関連など、これまで以上に採用が活発化している業種や企業が存在します。さらには、「コロナ禍の影響が大きい」と言われる業界においても、事業への影響や経営戦略、そしてそれに呼応した採用戦略は企業によって異なることから、採用を継続しているところもあります。

 加えて、同じ企業内であっても、既存事業を中心とした守りの人事戦略と、市場創造を見越した攻めの採用戦略が並存するケースもあります。例えば小売業において、店長の募集はいったん止めるものの、ECサイトの売り上げは好調なのでカスタマーサポートやデジタルマーケティング担当の採用にはアクセルを踏んでいる、というところも散見されます。

 とはいえ、足元で新たな中途採用に踏み切ることに不安を覚える企業も多いことでしょう。
ただ今後も、コロナウイルスに適応した新たな生活様式や経済活動が加速してゆくでしょう。そのときに機動的な事業創造や拡大のための人的資本が維持できているかどうかが問われます。

 リーマンショック時、採用を停止した企業や雇用を維持できなかった企業は、その後の業績回復に時間がかかりました。短期的な視点ではなく、中長期的な視野で競争力を維持・向上するための採用戦略を考えることが重要なのです。

「IT通信」「コンサルティング」「インターネット」の採用ニーズは活況

 続いて、業界別の転職市場動向についても触れておきたいと思います。今回は、「IT通信」「コンサルティング」「インターネット」の3業界について、解説します。
これらの業界は、いずれも企業や事業領域ごとに濃淡はあるものの、全体的には採用ニーズは活発です。

 「IT通信」業界においては、新型コロナウイルス禍で通信キャリア系やネットワーク系に強みがある企業の求人が活況。在宅勤務環境への移行の流れを受けて通信のニーズが高まっていることに加え、5Gの案件も増えています。働き方改革の流れを受けたセキュリティ関連の事業・サービスや、物流システム関連を扱う企業も採用は活発です。

 即戦力の採用ニーズは以前に引き続き旺盛で、特にデータサイエンティスト、IT(DX)コンサルタント、クラウド知見のあるインフラエンジニア、セキュリティエンジニア、システム監査などのニーズが高まっています。一方で、未経験者育成ができる状況であるところは限られており、昨年までの第二新卒・未経験採用の動きは鈍化しています。

 「コンサルティング」業界は、採用に力を入れている部門と落ち着いている部門に分かれています。新型コロナウイルス禍の影響もありニーズが高い傾向があるのは、通信・リスク管理・業務改善関連の求人。通信ではもともと5G関連の案件があったところに、テレワーク対応に伴うネットワークの再構築などの案件が発生しています。リスク管理では、会計やガバナンス強化だけでなく、サイバーセキュリティ関連のニーズが増加。業務改善では、省人化・生産性向上のためのIT導入やアウトソーシングなどの動きも出ています。

 なお、これまでは第二新卒採用が活発でしたが、現在はシニアコンサルタントレベル以上のニーズが高まっています。即戦力のコンサルタントだけでなく、コンサルタント経験がなくても、必要とされる業界の知見があり業務改善経験があれば採用したいという企業が多いのが特徴です。

 「インターネット」業界の採用ニーズは、領域ごとに濃淡はあるものの、全体としては5月から緩やかな回復傾向にあります。業務支援のSaaS系サービスについては、顧客のDX推進に伴い事業も好調、採用も活発で、営業企画や営業・開発ポジションまで幅広く求人があります。外出自粛の影響でユーザー数が増えているゲームやライブ配信事業についても、人手不足が顕著になっています。

なぜ今採用するのか?どうやって採用するのか?問われる「Why」と「How」

 この状況下で企業に問われているのは、「なぜ今、採用するのか?」という目的・背景をしっかりと求職者に伝える姿勢です。

 人が協働体に参加する際の魅力要因は、「目標への共感」「活動内容への魅力」「構成員への魅力」「特権への魅力」の4つに分類され、この4つのうちどれかに魅力を感じると参加したくなると言われています。コロナ禍においては特に、「目標への共感」が重要。事業戦略と紐づく投資領域なのか?事業リスクを軽減する守りの領域なのか?明確に伝えることができなければ採用が難しくなるでしょう。

 そして、Web面接に対応できる企業と、そうでない企業では、採用に大きな差がつくと予想されます。求職者のライフフィット志向は、採用プロセスにおいても顕在化しており、「時間や場所にとらわれない転職活動がしたい」「Web面接を実施している企業と優先的に出会いたい」という意向はさらに高まっています。

 特にIT分野においてWeb面接に対応していない企業は、「Web面接もしていないのにDXだなんて…」などと思われてしまう可能性が高く、事業戦略にすら猜疑心を持たれてしまう恐れもあります。コロナ禍のみならず、これからの採用においては、Why(なぜ採用するのか)とHow(どういう方法で選考を行うのか)がますます問われるようになるでしょう。