「他社の成功事例を真似るのがエンゲージメント向上の近道」という誤解【今さら聞けない「エンゲージメント」とは? Vol.3】
エンゲージメント向上させる施策は多種多様で、「何からやればいいのか分からない」という声もよく聞かれます。このようなとき、「他社はどんなことをやっているんだろう?」と気になるものですが、他社の成功事例をそのまま真似しても、エンゲージメントが向上するとは限りません。今回は、エンゲージメント向上の2番目のステップである「Plan(施策立案)」における誤解やポイントについて解説していきます。
エンゲージメント向上を向上させる際によくある「誤解」とは?
前回お伝えしたとおり、効率的にエンゲージメント向上を図るためには、「See(現状分析) → Plan(施策立案) → Do(実行促進)」の3つのステップを回すことが重要です。「Plan」とは文字どおり、施策を検討・計画するフェーズですが、よくある「誤解」に注意が必要です。
●Planの誤解:「他社の成功事例を真似るのがエンゲージメント向上の近道である」
Plan(施策立案)のステップでよくあるのが、「他社の成功事例を真似るのがエンゲージメント向上の近道である」という誤解です。
エンゲージメントの重要性が広く認識されるようになった今、ネットで「エンゲージメント向上 成功事例」などと検索すれば、様々な企業の事例が見つかります。他社の成功事例を目にすると、ついつい「この施策は良さそうだな」「こういう組織になれたらいいな」などと触発され、同じ施策を取り入れる企業も多いでしょう。今をときめく成長企業の事例ともなると、「あの会社がやっていることなら間違いない」と、そのまま施策を真似たくなる気持ちも生まれると思います 。
しかし、他社の成功事例を取り入れたからといって、自社のエンゲージメントが向上するとは限りません。逆に、他社の成功事例が自社では失敗事例になることもあるため、施策をそのまま真似るのは避けるべきです。
ここで、分かりやすい例を2つご紹介しましょう。A社では、社員を育成するために研修を増やしました。しかし、現場の社員からは「ただでさえ忙しいのに、研修を増やすなんて、経営は現場のことを何も理解していない」と否定的な反応が返ってきてしまい、エンゲージメントの低下を招いてしまいました。
B社は、コミュニケーションを活性化させて風通しの良い組織風土を醸成しようと、有志を募って懇親会を行いました。しかし、開始時間になっても人が集まらず、時間が経つにつれ若手社員を中心に会社への不平不満が話題の中心となり、懇親会の雰囲気も最悪なものとなってしまいました。結果として、お互いに「本当にこの会社にいて大丈夫なのか?」と不安が募り、かえってエンゲージメントの低下を招いてしまいました。
A社もB社も「良かれ」と思って講じた施策が裏目に出てしまいました。これは、施策そのものに問題があったわけではなく、そのときの組織状態に適した施策ではなかったことが原因です。このように、組織によってエンゲージメント状態や課題は異なります。そのため、エンゲージメント向上させるためには、他社の成功事例をむやみに取り入れず、自社に合った「最適解」を探ることが重要です。
エンゲージメント向上施策を「Plan」する際のポイントとは?
自社に合った「最適解」を探るために、Planでは、どのようなことがポイントになるのでしょうか。意識したいのは以下の3点です。
①エンゲージメントの高低に合わせた施策を描く
上述のとおり、そのときの組織状態(=エンゲージメントの高低)によって、打つべき施策の方向性は変わってきます。そのため、自社の組織状態を見極めたうえで、現状に合った施策を講じることが重要です。
当社は以下のように、エンゲージメントの高低によって打ち手の方向性を4つに分けて考えています。
たとえば、エンゲージメントが低い状態のときに会社が新しいビジョンを策定しても、施策自体に問題はありません。ですが、従業員と経営の相互理解が不十分な状態では、「経営が何かやっているけど自分たちには関係ない」「ビジョンを変えても意味ない」などと、「無関心」や「諦め」の反応が返ってくることが考えられます。
自社の組織状態を正しく把握し、その時のエンゲージメント状態に合わせた施策を描くことが重要です。
②緊急度を軸に優先順位をつける
エンゲージメントサーベイを実施すると、想像以上に多くの組織課題が抽出され、「一つずつ課題を解決していこう」と意気込む会社は多いと思います。ですが、会社のリソースは有限であり、次から次へと新しい課題が出てきてしまいます。そのため全ての課題に対応しようとすると、従業員が疲弊し、改善がうまく進まないのはよくある話です。
エンゲージメントを向上させるためには、課題に優先順位を付けて取り組むことが重要です。組織課題に優先順位を付けるためには、前回お伝えしたように、サーベイで従業員の「満足度」だけでなく「期待度」も測ることをおすすめします。数ある組織課題の中でも、従業員の「期待度が高く、満足度が低いもの」から優先的に取り組み、エンゲージメント向上への緊急度が高い課題から改善させていくことがポイントです。
③組織変革までの手順とシナリオを描く
組織課題の優先度をつけても、施策自体が難しかったり、誤った順序で施策を進めてしまうと、エンゲージメント向上に繋がらないケースも良くあります。そのため、エンゲージメントを高めるためには、組織が変わるまでの手順とシナリオを描くことが重要です。では一体どのようなことに気を付けるべきなのでしょうか。
ポイントは、「態度変容の3ステップ」に沿って、取り組みを進めることです。
態度変容の3ステップとは、社会心理学者のクルト・レヴィン氏が提唱した「Unfreeze(解凍) → Change(変化) → Refreeze(再凍結)」の3つのステップのことです。3つのステップのなかでもっとも重要なのが、「Unfreeze」です。
四角い氷を丸い形に変えようとするシーンを思い浮かべてください。形を変えるために四角い氷をアイスピックで削ろうとすると割れてしまいます。人の心も氷と同じで、いきなりChange、つまりああしろ、こうしろと伝えることから入ってしまうと、拒否反応を起こしてしまいます。
その前に、相互不信を解く「Unfreeze」を行うのがポイントです。理解や共感を示すことで、氷を溶かすように相手との関係性を築いていきましょう。少々遠回りに思えるかもしれませんが、Unfreezeをするかしないかでその後の施策の効果は大きく変わってきます。態度変容の3ステップを用いながら、信頼関係を築き、変化を実感させるためのシナリオを描くことが大切です。
次回は、エンゲージメント向上の3番目のステップである「Do(実行促進)」における注意点やポイントについて解説していきます。