マネジメントの拠り所【リモートワーク下における活力ある職場づくり 第7回】
この連載では、これまでもリモートワーク下における活力ある職場づくりと題して、その考え方と様々な実践原則をお話してきました。改めて見つめてみると、どの原則もこの時代になって新たにつくられたものというよりは、以前からあった原則が実践されるうちに、時代の変化に合わせてブラッシュアップされてきている“だけ”ということに気づいたのではないでしょうか? しかし、いざ実践しようとすると、マネジャーである皆様、全社のマネジメント力向上を企画する人事部門の皆さまに対し、さらなる負担を強いるものです。中には“そこまでやる必要がある?”とお感じの方もいらっしゃることでしょう。
では、実践する人と、しない人の差はどこにあるのでしょうか? それが、最終回である今回のテーマです。
正解がない時代に求められるもの
この連載では、“リモートワーク下”という変化の時代に合わせた様々な原則をご紹介してきました。しかし、いくら原則をつかんだところで、実践されなければ意味はありません。
参考までにあるお話を紹介します。前回、定点観測を行い、職場活性化させたマネジャーに聞いた話の続きです。あのエピソードを聞いた際、「どうして、この忙しい中でそこまでやろうとしたんですか?」と聞いたところ、マネジャーはこんなことを言ってくれました。
「実は私も同僚に聞いて真似し始めたのですが、別の同僚からは“よくそこまでやるね。そこまでやらないといけないの? 会社や組織の方針をメンバーがやらないんだったら、ちゃんと目標を伝えて、メンバーの目標に落としこんで、できる仕組み・方法を考えることがマネジャーの役割だと思うよ” って、言われたんですよね。最初は私もそう感じていたので、そう言われたときに、なんでこんなに必死になって取り組んでいるのか、考えてみました。すると、1つ思い出したことがあったんです」
「それは、自分が入社した時に配属された職場のことでした。新人時代、営業に配属されて右も左もわからないまま好き勝手やっては失敗ばかりしていたのですが、その都度上司がうまく軌道修正してくれて、そのうえ“お前がやりたいことをやればいいんだ”と言ってくれました。お恥ずかしい話、当時は“上司なんだから当たり前だろ!”としか感じていなかったのですが(笑)、今にして思うと相当上司は関係者に手を回してくれていたり、辛抱してくれていたりしたのだと思うんです。自分はあのようなマネジャーになりたかったし、あのように一人ひとりが思い切って働ける職場を作りたいと思っていたんです。だから、自分も辛抱できたのだと思います」
過去の体験・経験によって、このマネジャーの中に喚起されたものは一体何でしょうか? それは自分がマネジャーとして何を実現したかったのか、マネジメントをしていくうえで大切にしたかったもの。いわば、マネジメントをしていくうえでの「価値-目的」です。それらがこのマネジャーの実践に向けた背中を押し、苦しい時の拠り所になったのでしょう。
原則を創造する発想で「マネジメントの価値‐目的」を描いてみよう
そして、その拠り所を起点にして、実践し、その結果の中から自分らしいマネジメント原則を創造していく。これだけ変化が激しい時代です。一見すると、これまでのマネジメント原則がそのままでは通用しづらい時代のように見えますが、一方で、見方を変えれば、どうせ正解がないのであれば、自分自身の試行錯誤の中から新たな原則を創造できる時代ともいえます。
そのためにも、まずは、その起点・基準・拠り所になる「マネジメントの価値‐目的」を改めて思い起こしておくことが大切になります。
そして、それらを常に再実感できるようにしておくことも重要です。先程のマネジャーも、同僚マネジャーに問いかけられるまで、自分自身の「マネジメントの価値‐目的」を忘れていました。そして一時期は自分でも意に添わないような行為をとっていたわけです。要は、”価値にしているものであっても、繰り返し繰り返し実感しないと枯れる“といえるでしょう。
下の図は、「マネジメントの価値‐目的」の内容と描くときのポイントをまとめたものです。これを参考にしていただきながら、自分が何を実現したかったのか、何を大事にしておきたかったのか、自分らしい表現でまとめてみてください。
「マネジメントの価値-目的」を描く
マネジメトの価値‐目的=マネジメント基準をはっきりした言葉にすることの意義
マネジメントの価値‐目的を描いたところで、改めてのその意義をまとめてみました。
マネジメントの価値‐目的
①はっきりせず、時と場合で揺れていると、メンバーはマネジャーの考えをうかがい続けることになります。メンバーから見れば「マネジャーが根っ子のところで大事にしている意思決定の基準」です。
②もし、マネジメント基準を持てなければマネジャー自身が、外・上・下からの様々な要請・圧力にさらされて右往左往します。
③もし、はっきりした言葉になっていなければ、メンバーはマネジャーの思いを察するしかないから伝わらないかもしれない。
④メンバーが、マネジャーのマネジメント基準が一貫していると感じられれば、メンバーは、マネジャーへの期待・信頼を抱くことができます。
この連載では、いくつかの実践原則をお話ししてきました。しかし、実はそれすらもすでに環境変化の中においてはブラッシュアップされていくべきものだと思っています。是非、皆様自身が、自分自身のマネジメント基準を拠り所に、自分らしいマネジメントを行うことを通して、自分なりの実践原則を創造していってください。これまでお話ししてきたことが、その一助になっていれば幸いです。
ありがとうございました。