若手に「郷に入っては郷に従え」は通用しない─「力強い中堅社員」を育てるための「若手育成」の処方箋Vol.2
第1回では、力強い中堅を育てるために、若手という時期に最も必要なことは何か? を主テーマに『「目の前の仕事に、足を止めず、前のめりに(=集中して)取り組むこと」が、若手の時期に必要なこと』『それがいざ中堅になったときに、難題を前にしてもひるまずチャレンジしていくことを支える土台(「知識・技術」「行動原則」「仕事・職場(仲間)・自分・仕事への価値実感」)を育むことにつながること』をお伝えしました。
しかし昨今、若手育成を見つめたときに、「実は……」と真剣に悩みを打ちあけられるお客様が増えています。今、若手育成に何が起きているのか? その問題を引き起こしている原因は何なのか? が今回のテーマです。
若手社員の現状を巡る問題意識
人事担当者からよく聞かれる声をご紹介させていただきます。
1. 元気がない。活力の低さを感じる。くすぶっている
2. 質問できない。周囲に過度に配慮しすぎてため込んでしまう
3. 指示待ち。言われたことは真面目に取り組むが、自分から、こうなりたい、こうしたいという意見を表に出さない。物足りない。
4. 周りの様子を窺ったり、正解を探したりする傾向がある
5. 仕事にやりがい・面白みを感じていないのではないか
ここまでの声については今に限らず、これまでも聞かれていた内容ですが、ここ最近は、
6. 以前より自律して働く若手とそうでない若手の差が開いている
7. 若手の職場でのつまずきが、離職につながるケースも増えていて、看過できない問題になってきている
という声を多く聞きます。
一体、現場に何が起きているのでしょうか? 今回は「若手を取り巻く環境」と「若手の傾向」の2つの観点から考えてみたいと思います。
①現場OJTのありようが「これまで」と「今」で激変した
これまでは、今と比較すれば若手の成長に相応しい仕事が存在し、上司も「任せること」ができました。若手は集中して取り組むからこそ、仕事での成功─失敗の中で学びを得て、つまずきながらも乗り越え方を学んでいくことができ、その姿が「職場・仲間からの信頼」の獲得にもつながってきました。
足が止まったり、不安が先に立って飛び込むことを躊躇してしまったりするときには、職場の先輩や上司が気づいて後押しができました。社内だけでなく、時に顧客から教えられることも多かったと思います。多くの企業で現場OJTが有効に機能しやすかったのが、ここ数年で下記3点の変化が先鋭化しています。図表1をご覧ください。
図表1
・職場の変化
リモートワークが増え、職場が喪失した企業が少なくありません。出社とリモートのハイブリッドであっても、以前より「人が集う場」として機能しづらくなり、上司や先輩が日常的に若手に関わったり、若手のちょっとした変化に気づいたりする機会が極端に減っています。
・職場内コミュニケーションの変化
ここ数年で企業全体で生産性・効率性追求がさらに進んでいます。若手も先輩もマネージャー(MGR)も皆余裕に乏しく、目先・当面の仕事に追われ、コミュニケーションの中身も「当面業務に必要なことを」「簡潔に伝えあう」ことが優先されがちです。その結果、若手が仕事上で感じているほのかな問題意識、ヒントなど、感じることや思うことがオープンにコミュニケーションされずらくなっています。
・若手の仕事内容の変化
3つの傾向が進んだと感じています。
┗1、他者(顧客や協働相手)との接点において非対面コミュニケーションが常態化。
例えば目の前のお客様の表情や何気ない一言を通じて、自分の仕事の手ごたえを感じることも以前は多々ありました。社内の協働者とのやり取りでもそれは一緒でした。オンラインコミュニケーションの増加は仕事の「手ごたえ」を感じづらいものにさせています。
┗2、仕事の中に「手つかず」の余地、創意工夫を込める余地が見つかりづらくなった。
仕事の仕組み化・パターン化やアウトソーシング化が一段と進み、若手にとって仕事上の工夫の余地が相対的には少なくなっています。
┗3、残っているのは正解がない仕事、企業にとっても未知の仕事。
逆に余地がある仕事は、成果を上げることも簡単ではない上、上司や先輩から教わるパターンも通用しづらく、先輩も手におえない、支援できない。
もちろん業種・業界・企業によって差はあります。皆様の企業に照らして考えてみてください。
②近年の若手に見られる「強い成長志向」と「自己完結化」の傾向
顧客先で新人研修の講師をしていると、「配属が思い通りにならなかったらどうするか?」「思い描いていた仕事とは違い、理想と現実のギャップを感じたらどうするか?」ということを議論するセッションで「転職を検討する」という意見が以前より増えた感覚があります。何より驚くのは、その解答をすることに迷いがないことです。どうやら、就職する以前の育ち方と形成される仕事観、労働観にも目を向ける必要があるようです
図表2は、今の若手社員が育った2000年代以降に国内で起きた出来事、ニュースの主なものを記載しています(出来事の取捨選択に主観が入っていることはご容赦ください)。
図表2
特徴を挙げると、①ITの普及によって世の中の様々な不祥事や隠されていたものが明るみになった出来事が多いこと、②ツイッターやインスタをはじめ様々なSNSが発展し、リアルな世界とは別の「コミュニケーション空間」で過ごす時間が圧倒的に増えたことです。
そのような青年期を過ごしてきた今の若手は自分のキャリア、企業や仕事、職場での出来事に対して、強い成長意欲と自己完結化の傾向が強くなっていると感じます。「企業によりかかって生きるのではなく、自分のキャリアは自分で切り開かなければならない」「この企業、この職場がすべての世界ではない。合わないならば、自分にあった会社・仕事を選べば良い」と感じてもおかしくありません。
読者の皆さまが今の若手が育った時代を生きて、企業内の職場で仕事に取り組んだとして、「目の前の仕事に集中して取り組め」と言われたらどんなことを感じるでしょうか? ここで述べた変化は業種・業界・企業・個人差があることは前提ですが、それでも「そんなこと言われたって」と感じる若手がいてもおかしくありません。
若手を育てる側の立場に立つと、頼もしさを感じる一方で、向けられる目線はシビア。また働く中で、若手の考え・価値観と職場・上司の考え・価値観にギャップが生じることは多々ありますが、その時に「郷に入っては郷に従え」「石の上にも3年」といった考えが通用しづらくなっているように思います。
一体どうすればいいのか
こう見てくると、「では、どうやって若手育成をしろというんだ!」と感じてしまい、出口がないように思えてしまいます。ここまで述べた環境変化や若手自身の変化は決して変えることができないからです。しかし、私たちは下記のことに着目しています。
このような環境変化の中で若手全員が“受身”“元気をなくしている”わけではない。なかには“仕事に集中して取り組み、力強く成長を遂げている若手がいる”という事実です。
“仕事に集中して取り組めている若手は、一体どのような考え方・捉え方・工夫をしているのでしょうか”。その中に若手育成の実践的なヒントが隠されています。次回以降は私達が出会った若手社員や若手育成に関わる上司の具体的な事例をご紹介しながらそのポイントのいくつかをご紹介していきます。