結論!若手が目の前の仕事に前のめりな状態をつくるには?─「力強い中堅社員」を育てるための「若手育成」の処方箋Vol.6
皆さんがかつて若手だったころ、マネジャーから難題のテーマ、課題を任されて疑問・不安を感じた体験はありましたか。上司の影響によって「よし、やってみよう」と前のめりに取り組んだ体験はありますか。「力強い中堅社員を育てるための若手育成の処方箋」、最終回は、若手を育てるマネジャーの視点に立って考える、「4つ目のポイント」をお伝えします。
力強い中堅社員を育てるための若手育成、これまでのポイント
「力強い中堅社員を育てるための若手育成の処方箋」について、これまでコラムで記載してきました。
「目の前の仕事に集中して(前のめりに、足を止めず)取り組むこと」が最も大切なこと。そして、集中して仕事に取り組むことを妨げる要因に着目すれば出口がなくなるものの、このような環境下でも力強く成長を遂げる若手社員に着目したときに、見えてきたいくつかの注力ポイントをご紹介してきました。
改めて、若手を育てるマネジャーの視点に立ってここまでのことを整理させていただくと、
1.若手の創意工夫・試行錯誤の余地あるテーマ・課題を創造し任せること
2.若手が「自分には集中して取り組む力がある」という信頼を醸成すること」
3.「価値ある仲間と価値ある仕事に取り組んでいるという実感を醸成すること」
これら3つは「かつての環境」であれば自然と育まれてきたものですが、今日的な環境下(第2回参照)ではマネジャーが意識してマネジメントの中に組み込まなければいけないものだと考えています。
ここからは最後の4つ目のポイントをお話させていただきます。
若手社員が目の前の仕事に集中する第4のポイントは「上司への信頼」
皆さんがかつて若手だったころ、マネジャーから難題のテーマ、課題を任されて疑問・不安を感じた体験はありますか? その中でも上司の影響によって「よし、やってみよう」と前のめりに取り組んだ体験はありますか? それは一体どのようなものでしょうか?
私自身は、若手だったころ、上司には恵まれたほうだと感じていました。少なくとも自分は、上司が「自分のことを育てようとしてくれている、見てくれている」と感じられていました。いろいろと納得いかないことや疑問があったとしても、自分の前向きな思いや意欲を疑われることは一度もなかったように思います。ですので、多少マネジャーから疑問に思う仕事を振られても、「この人が言うのであれば」という信頼があったことから、集中して仕事に取り組むことができました。
今、自分が若手社員を育てる立場になって、いつも問いかけているのは「あのころ、自分がマネジャーに対して感じていたようなことを、私は若手から感じてもらえているのだろうか?」というものです。残念ながら胸を張ってYESとは言い切れません。しかしこの点がなければ、若手がマネジャーの行為を信頼することはないのではないかと思います。
若手社員が、難しい仕事を任され、不安・疑問が生じるような状況下で、最後には「思い切って集中して取り組んでみよう」という前向きな状態をつくるための4つ目のポイントは 「マネジャーは、自分の事を見てくれている、わかろうとしてくれている、前向きな意欲を疑うことなく、育てようとしてくれている」という信頼を感じられるかどうか、です。
多忙なマネジャーにとって、若手育成以外にもやるべきこと、考えるべきことはたくさんあります。ともすればマネジャーにとっても若手育成は「面倒」「厄介」と感じてしまいかねないし、テレワークの浸透もあり、マネジャーの姿勢も伝わりづらい環境です。だからこそ、この4つ目のポイントは大変重要であり、他の3つのポイントにも影響する中心の考えでもあります。
一体、どうしたらこの4つ目のポイントを満たすことができるのでしょうか?
若手の根底にある前向きな思い・意欲を信頼しなければ始まらない
「相手に信頼してほしいなら、まず自分から相手を信頼する」。これが鉄則です。マネジャーである皆さんが、若手の中にある主体性のタネを信頼することを決めて関わっていくしかありません。
多くのマネジャーは、「できることなら、目の前の若手の中にある主体性のタネを信頼して関わっていきたい」と思っていると思います。そして、前向きな思い・意欲がある、と信頼して関わった方が若手の力は引き出されると思っています。人とは本来、「他者から期待・信頼されたいと思う生き物である」からです。
若手の持ち味を探索し、味わうことの薦め
まず何から始めたらいいのか? 私たちは、まず若手社員の「持ち味」を探索し、味わっていくことをお勧めしています。持ち味って何? と思われたら、図表1をご参照ください。
若手自身の中にある前向きな思いと持ち味があると信じて探索する。そのような行為・姿勢が、若手からの信頼をつくる可能性を高めるのではないでしょうか。
多くの人は、「仕事を通じて自分の人生を豊かにしたい、自分のキャリアを通じて自己実現を図りたい」という強い思いを持っています。だからこそ、「仕事をできるようになること」以上に、その若手自身が一人の人間として、どのような持ち味を持っているのか? を知ろうとする姿勢・行為がとても大事ではないかと思います。
その持ち味を探索しつつ「職場にある価値ある仕事機会」と結び付けていくようなマネジメントができれば、若手はきっと集中の力を発揮してくれるでしょう。そしてその積み重ねが、若手に仕事・職場・自分への価値実感を育むことにもつながります。
仕事・仲間・自分への価値実感を醸成し、機会と持ち味を結び付ける必要性
6回にわたりコラムで記載させていただいたことを、枠組み・構図として整理させていただくと図表2のようになります。
「いかにして、若手が目の前の仕事に前のめりな状態をつくるのか?」
そのポイント、入り口となるものは下記4点です。
1.若手の創意工夫・試行錯誤の余地あるテーマ・課題を創造し任せること
2.若手が「自分には集中して取り組む力がある」と信じられる状態をつくること
3.価値ある仲間と価値ある仕事に取り組んでいるという実感を醸成すること
4.上司に対して「自分の見てくれている、育てようとしてくれている」という信頼を醸成すること
これが本コラムの結論です。そしてお感じになっている通り、この結論の根底にある重要なキーワードは「信頼」です。時代や環境は変わり、働く場所、働き方、働く価値観が多様化する中でも、人が主体的に動くとき、信頼がテコとなることは変わらない、というのが自分が見てきた若手社員をみてきて感じることです。
信頼醸成ができるマネジャーが今ほど求められている時代もありません。是非「信頼」という点から自身の言動や職場、若手の状態を見つめてみてください。まだまだ、できることが見つかるように思います。