業務推進と人材育成の両立~チームづくりについて考える【中小企業の人材育成~「働き続けたい」組織と人づくりVol.6】
労働力不足が深刻化する中、このところよく耳にするのが「離職防止」に関するお悩みです。労働力の需給バランスが「売り手市場」に転換する中、中小企業において、人材確保は喫緊の課題なのではないでしょうか。そこでこのコラムでは1,000社以上を担当し、中小企業の人材育成、組織づくりに深くかかわってきた株式会社リクルートマネジメントソリューションズの佐藤修美氏に、中小企業の人材育成をテーマに、バックオフィス担当者に必要なノウハウを伝授していただきます。第6回はチームづくりについて。
チームをつくる
中小企業の人材育成について、ここまで5回、客観的なデータに基づき解説してきました。
今回はより具体的にイメージしていただけるよう、私たちリクルートマネジメントソリューションズがどんな考え方をもって組織づくりを行っているのか、その取り組みを事例としてご紹介してみたいと思います。
自組織の概要
組織構成(営業課)
マネジャー 課長1名
ベテラン社員 2名(定年後継続雇用1名、社歴16年1名)
中核リーダー社員 1名(入社 7年目)
中堅社員 2名(2名とも中途入社 2年目)
若手社員 1名(中途入社 1年目)
新入社員 1名(新卒入社 1年目)
中堅社員(営業アシスタント) 1名(中途入社 4年目)
運営の仕組み
リクルートマネジメントソリューションズは提供サービスを通じて、お客様にとっての理想の組織像を一緒に目指していく、そんなご支援を行っています。生業上、お客様に恥ずかしくないよう、また取り組みをリアリティーのある事例としてもお伝えしたいという想いから、自部署の組織づくりもこだわって取り組んできています。
では実際、私の上司であるマネジャーは、この組織をどう運営しようとしたのか。解説とともにご紹介していきましょう。
【1】1on1の実施
マネジャーと直接接点の機会として、1on1を導入しています。頻度はベテランであれば、2週間に1回、新人であれば毎日…というふうにメンバーの仕事の習熟度や状態にあわせて回数を決めています。
【2】課会
週に1回3時間を目安に「グループ会」と称する課のミーティングをおこなっています。業務連絡、また、営業組織ですから業績づくりがどこまで進捗しているのか、といった確認も行います。加えて、ちょっとしたプライベートの共有や、営業プロセス上どんな工夫を行ったか、など知恵やアイディアなどを共有する時間も作っています。週1回の定例の時間に加えて、期初・期中・期末には「じっくり会」といってほぼ丸1日ミーティングを行います。期初にはどんなグループにしたいのか、定性目標を考えます。期中・期末にはその目標に照らして今の状態はどうか確認をしていきます。親睦をはかるイベントなども行います。業務の進捗もそうですが、メンバーの関係性をつくる貴重な機会としています。
ちなみに弊社はテレワークを実施しており、【1】の1on1や課会、チーム会などはオンライン会議システム上で行っています。期初の時間をしっかりかける会議等のときは出社し対面で行ったりもします。
【3】チーム制の導入
「スパンオブコントロール」というキーワードは耳にされたことがあるのではないでしょうか。管理職一人が直接管理(コントロール)できる部下の人数範囲を指しますが、私たちの営業課はメンバーが8名おり、管理者一人でみるにはやや多い人数といえます。1on1を実施しながらも、十分めくばりができるのか、不安に感じるところでもあります。そこで、ベテラン2人をリーダーとしてチーム制を敷くことを決めました。マネジャーはベテラン2名と連携をとることでメンバーの様子を知ることができます。チーム会では月1回、営業の進捗、期初に描いた組織に近づいているかどうか等をふりかえったり、互いに仕事のヒントを出し合ったりしています。
このベテラン2名のうち1名は定年し継続雇用となっている社員です。雇用形態が変わった時、ラインではなく、別の組織に所属をさせる、といった運営方法もあるかと思いますが、弊社の場合は雇用形態が異なっても、一般社員と何ら変わらず、組織としての期待を伝え、役割を担っていただくことになっています。
【4】OJTリーダーの設定
新卒新人1名だけでなく、社歴の浅い中途入社者(若手)1名にもそれぞれ担当のOJTリーダーがいます。オンボーディングの回でも触れましたが、いくら即戦力と目される中途入社者であっても、新しい組織はわからないことだらけ、不安がつきまといます。そんな中、ささいなことでも気軽に聞ける相談相手を作っておくことは本人にとって大変心強いはずです。
【5】ベテランの勉強会
2名のベテランが、若手・新人の2名を対象に営業のヒントとなる勉強会を定例で行っています。
【6】営業アシスタント
マネジャーと1on1を行っています。営業アシスタントは課に1名しかいませんので、課の中での相互研鑽ができにくいのですが、横並びの課で同様の業務を行っている人がいますので、そのメンバーとともにスタッフ会を行い、業務の工夫を共有したりしています。
結果、どんな組織になっているか
期初に、私たちは「お互いがお互いの成果に関与しあい、全員で目標を達成できる、そんな組織を作りたい」「家族まではいかないけれど、他人よりはちょっと近い“親戚”ぐらいの関係性を目指せないだろうか」こんなことを定性の目標に掲げました。この目標を達成するために、お互いのMBO(個人目標)を共有、お互いが達成するようにヒントやアドバイスを出し合うようになりました。期の途中で「個々に仲良くなってきたけど全体ではまだまだ…」と感じたメンバーの発声で毎朝、オンライン上で「今日も1日がんばろう!」と全員が声をかけあうようになりました。もうすぐ期末を迎えますが順調に業績は達成できそうです。
組織をつくるということ~自律・協働型組織
「組織の3要素」…このキーワードも皆さんよくご存じなのではないでしょうか。組織が組織であるためには「共通目的」、「貢献意欲」、「コミュニケーション」が必要という考えです。
このグループでは【1】のじっくりG会で、メンバー全員で期初にどういう業績をあげたいのか、どういう組織状態を目指したいのかを考えました。これが「共通目的」です。そして、その実現のための役割を決めていきました。上記のチームリーダーやOJTリーダー他にもイベント係…などがあります。役割を決めることで誰が何にどう「貢献」するのかを明示しています。1on1,グループ会、チーム会…とことあるごとにコミュニケーションをとっていきます。
本コラムは「働き続けたい組織と人づくり」を標榜し、連載を行ってきました。労働力不足の中、多様な人材が働き続けたいと思える組織は図の右側にある「自律・協働型マネジメント」の組織です。
あらためて先にご紹介した組織の相関図を見てみると、メンバー間のつながりが「自律・協働型マネジメント」のスタイルに似てはいないでしょうか。
上司から部下へ一方向で情報を伝達するのではなく、あらゆる方向から情報が飛び交う、またその情報も結果のみではなく、むしろ業績を生み出すためのプロセスや、大事にすべき価値について語る、そんな組織づくりが、今の時代に求められています。
組織化するが組織を閉じない
上記のように達成すべき目標に向けてどのように組織を構成・運営していくかということを考えることを「組織化」と呼びます。「組織化」すると情報の伝達経路が明確になり組織を進めやすくなるという側面がありますが、一方で“縦割り組織”といった言葉が象徴するように、組織化してしまったがゆえに組織内で情報を滞らせてしまう、ということが起きたりもします。
OJTリーダーなどもそうです。OJTリーダーに任命された人は、責任感のもと、新人を自分一人で育成しようとすることがあります。一方任命されなかった先輩社員は任命されていないので自分は関係ない、と放任になってしまうことがあります。
本来OJTは職場ぐるみで行うものです。図1ではOJTリーダーは任命しつつ、チームで関わったり、勉強会ではチームも超えて先輩社員が関わったりできる状態にしていることがわかるかと思います。 職場全体で若手・新人を育成していこうという意図がわかります。「組織化するが組織を閉じない」。これも組織を上手く運営していくコツではないかと思います。
マネジャーの想い
今回我がグループについて解説をさせていただきました。マネジャー にも組織運営について想いをきいてみました。
「自律的な組織運営ができるよう、仕組み、役割、場を提供してきた。マネジャーとメンバー、1対1の関係はもちろんつくるが、メンバー同士でのつながりをつくることを大事にしてきた。特にテレワーク下では、心理的安全性をいかにつくるかが大切と考えている。」
意図して組織をつくること、原則論を尊重(意識)することが効果的な組織運営には欠かせないのではないでしょうか。