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人事制度とは…ほめること、たしなめること 人事制度の在り方について考える【中小企業の人材育成~「働き続けたい」組織と人づくりVol.7】

労働力不足が深刻化する中、このところよく耳にするのが「離職防止」に関するお悩みです。労働力の需給バランスが「売り手市場」に転換する中、中小企業において、人材確保は喫緊の課題なのではないでしょうか。そこでこのコラムでは1,000社以上を担当し、中小企業の人材育成、組織づくりに深くかかわってきた株式会社リクルートマネジメントソリューションズの佐藤修美氏に、中小企業の人材育成をテーマに、バックオフィス担当者に必要なノウハウを伝授していただきます。第7回は人事制度について。

人事制度の現実

今回は人事制度について考えてみたいと思います。人事制度はいわば会社の“幹”のようなもので、その会社の運営方針を示す大変重要な制度です。

現状を見てみると、例えば、人事制度に記載されている等級の定義が、よく意図を解釈されないまま、評価が進んでいることがよくあります。「等級定義はみても概要(大枠)しか書いていないからよくわからない」「自分たちの業務にどうあてはまるのかわからない」といったお声も聞きます。あまり大きな声では言えないけど、部下の普段の仕事ぶりのイメージや直観で評価をつけている…という世のマネジャーも少なからずいるのではないでしょうか。

ここで、中小、中堅企業での人事制度改訂にあたって見聞きする、あまり望ましくないパターンをいくつかご紹介したいと思います。

1)長らく改訂されていない
人事制度は10年すると制度疲労を起こすと言われています。もし皆さんの会社の人事制度が制定されたのが10年前だったとしたら、現実とあわなくなっている可能性が高く、見直しを強くお勧めしたいところです。今は事業スピードも速まっていますから10年を待たず、もっと短いサイクルでの改訂でもいいと感じています。いざ変えるとなると大がかりな取り組みとなるので、なかなか簡単にはいかないものではありますが、気がついたら5年、10年経っていた、ということもよくあります。制度の内容が現実に即しているのか、定期的にチェックをする機会を持つのも良いのではないでしょうか。

2)他社のものを流用している
親会社のものをそのまま流用している、他社で使っている、よさそうな制度をそのまま流用している、といったことがあります。これは、親会社や流用元の他社とはそもそも業種が違ったりするので、自分たちの職種や業務にあてはめるとよく意味が通じない、評価したいポイントがずれるといったことが起こります。流用した制度内容がその企業にマッチしていれば問題はないのですが、上手く機能していないことの方が多いかと思います。

3)使いにくい設計
以前お客様の制度を拝見したときに、いわゆる等級定義に相当するものが100ページ近くあり、驚いたことがありました。評価者はその100ページの中から、部下の等級に該当する項目を都度探しだし、数十項目にもまたがって評価をする…というなんとも運用負荷が高い制度になっていました。たくさんの観点から評価したいという想いから項目が増えてしまった…ということらしいのですが、それにしても毎期あの作業をするとなると、評価者は手順を踏むだけでうんざりだろう…と感じました。評価は“評価“をすることが目的ですから、手順は煩雑にならないものを選択すべきだと思います。

人事制度は「何を褒めるか、たしなめるか」

人事制度とはその会社で「何を褒めて、何をたしなめるか」を決めるものと言えます。人事制度のポリシーが何なのか、ということです。
年功主義的人事制度を例に考えてみましょう。“年功“は、「年を重ねれば重ねるほど功がある」という考え方です。なので、社歴1年の人よりも5年の人の方が給料が高い、10年の人はもっと高い…という風に長くいればいるほど給料は上がっていきます。これが長く務めることを「褒めている」ということです。年功制は例えば、経験を積まないとなかなかできない仕事なのに、業務が肉体的もしくは精神的にとてもハードで、長く続けられる人が少ないといった場合には有効です。大変な仕事を長く勤めてくれるだけで、会社にとっては有難いからです。

一方、年功制の難しいところは、長く務める人が増えれば給与の支払総額が上がることです。売上があがらなくとも給与は上げなければならないのでは会社経営は行き詰まってしまいます。

もう1点、年功制は(本来、単に長さではなく)長く勤めればスキルも熟練するし、経験値も上がっていくであろうことを前提に設計がされています。しかし、長く勤めていてもスキルも経験も上がらず成果が上げられない人が出てくることがあります。いくら長く勤めていても成果をあげてくれない人を褒める=高い給料を支払うことになるのが果たして良いのかについては悩ましいです。

人事制度見直しの背景

「褒めたい人が褒められない」状態になっている時、人事制度を見直そう、ということになります。先に例とした年功制は、優秀な若い人からすると「こんなに頑張っているのに評価されない」「自分より成果をあげていない人がたくさんの給料をもらっている」「高い給料をもらうには長い時間がかかる」といった不満につながったりします。そのことがモチベーションを下げ、離職につながったりもします。こういったことを防ぐには制度を変える必要性が出てきます。

何を見直すのか

制度を「見直す」といったとき、見直す点は大きく2つあるかと思います。

1つ目は制度そのものの見直しです。先の例でいくと年功の制度のままでは、成果をあげた人を評価できませんから、その場合は成果主義的制度に変える必要があります。

2つ目は運用の見直しです。実は制度は成果主義的制度になっているのだけれど、運用が「年功的」になっている場合があります。評価する側に「長年勤めているから給料は多いもの」という思い込みが影響し、評価を高くつけてしまう場合があります。また、成果主義であれば、成果が出せていない人は降格する必要も出てきますが、部下を降格するというのはマネジャーにとってもなかなかし難しいもので、高い評価にしなくても悪くはつけない、結果全体的にメリハリがない評価になってしまうこともあります。その制度が実現したいポリシー、すなわち「褒めたいものを褒める」状態になるかどうかは、運用も大きく影響します。

運用の見直しだけでもできることは多くある

制度を見直すことは、大がかりでそんなに急には変えられないということもあるかと思います。しかし、運用を見直すことで是正できることも多くあります。
改めて、制度は「褒めたい人を褒める=評価したい人を評価する」ことと考えると、部下が「私はきちんと評価された」と“感じられる”かどうかが重要とも言えます。
では、部下に「きちんと評価された」と感じてもらうにはどのような条件がそろっているといいのでしょうか。
ふだんから自分をよく見てくれている上司、あまり見てくれていない上司、評価結果を聞くとき、どちらの上司から結果をきくと「きちんと評価された」と感じるでしょうか。
評価面談の際に「評価結果はAとした」と評点だけを伝えるのと「〇〇ということを成し遂げてくれたのでAとした」と評価した具体的な事実をあわせて伝えるのだとどちらが「きちんと評価された」と感じるでしょうか。
自分と周囲をみたとき自分よりも活躍していないと思う人が自分よりも評価が高い時と、自分と周囲は相対的に見ても相応の評価をされていると感じられる場合とどちらが「きちんと評価された」と感じるでしょうか。

日常から部下よく見ること、何をもって評価したのか丁寧に伝えること、マネジャー同士で評価のすりあわせを行い、評価観を磨くこと、こういった取り組みをしてみるだけでも評価に対する従業員の満足は向上するのではないかと思います。