【後編】若手の「早期離職」を防ぐポイント【中小企業の“令和流” 若手・第二新卒採用を成功させる秘訣 Vol.5】
大卒新卒の入社3年以内の離職率は、長年3割前後を推移していますが、小規模の事業所ほど離職率は高く、採用支援を行う弊社に「苦労して新卒や若手を採用しても、退職してしまう」というご相談が、中小企業から多数寄せられています。
そこで前回は、「早期離職防止のポイント」として、“採用活動”における具体的なノウハウをご紹介しました。今回の後編では、「受け入れノウハウ」や「1on1の実施ノウハウ」など、“入社後”における早期離職防止のポイントをご紹介します。早期離職に苦い経験がある方、久しぶりに採用活動をされる方などはぜひご覧ください。
費用をかけずにできる「受け入れ」のポイント
◆実務スキルの教育に大切な受け入れ態勢とは?
早期離職を防ぐうえでは、採用活動でリアリティギャップを減らしたうえで、受け入れ態勢をしっかりと作ることが大切です。多くの企業で、実務に必要な知識やスキルは、座学とOJTで身に付けてもらうためのステップが組まれているでしょう。たしかに実務スキルの教育は受け入れで大切なものですが、離職防止をするうえでは実務スキルと合わせて、「組織に馴染む」、「人間関係をつくる」、そして「悩みを相談できる」といったことに焦点を当てた受け入れ態勢をつくることが重要です。採用慣れしていない中小企業ほど、このあたりの受け入れ態勢がないことが多いので、注意が必要です。
◆費用をかけずにできる!新人や若手の受け入れポイント8つ
組織に馴染み、人間関係を作るための受け入れ態勢は、大きな費用をかけずにできることばかりです。8つの具体的なノウハウを紹介します。
01.入社日が決まったら、全社員に告知する
氏名だけでなく経歴や面接での評価ポイント・印象、出身地や趣味などを伝える、また、“社員の○○さんと同じ”といった情報を共有すると、入社した時に既存社員から話しかけやすくなります。また、伝える際には面接した社長や配属先の上司などが伝えるとより効果的です。
02.絶対に忘れない!備品の準備
細かな話ですが、座る場所(机)やパソコン、メールアドレス、社員証、名刺など、共通で貸与する備品はできる限り、入社初日までに準備しておくことが大切です。疎かにすると、入社初日、ドキドキしながら出社してくる新人は大きな不安を感じてしまいます。
03.ちょっとした気配りで歓迎ムードを醸し出す
備品準備と合わせて、「机を拭いておく」「備品をまとめて揃えておく」など、ちょっとした気配りで入社人材が持つ印象は大きく変わります。緊張しながら入社日を迎える新人の気持ちは、こちらの対応次第で『歓迎されていないのかな?(疑い)』から『私の入社を待っていてくれた!?(喜び)』まで極端に揺れ動きます。机の上に「○○さん、入社おめでとう!」とカード1枚置いておくことも、非常に効果的です。
04.手紙や小物をプレゼントする
面接での評価ポイントや『一緒に頑張っていこう!』というメッセージを手紙にして渡すと新人の気持ちは一気に高まります。たとえば、名刺・名刺入れと一緒に手紙を渡せば、新人は「受け入れてもらえている」ことを感じてくれます。大人数を採用する大企業では実施できない、中小企業ならでのやり方です。
05.各部署に紹介する
入社初日、経営者や人事が新人と一緒に各部署をまわり、『本日入社の○○さんです』と紹介したうえで、簡単に自己紹介をしてもらいましょう。全社員の前での自己紹介もあって良いですが、お互いに覚えられませんし、緊張してしまいます。配属される部署やオフィス以外も挨拶に回ることが早期に馴染むためのポイントです。なお、挨拶の際、既存社員には作業の手を止めてもらう、立ち上がって自己紹介を聞き、新人が挨拶を終えたら盛大に拍手するのがポイントです。歓迎を伝えると共に、新人の顔を覚えてもらい既存社員から声掛けしやすくすることが大切です。
06.初日のランチは誰と行く?
出社初日は誰とランチに行くか?等も事前に決めておくことがおススメです。弊社の場合、人事と社長、配属先の幹部が行くことが通例です。初日は面接で顔を会わせている経営陣が行くことがおすすめです。選考時と同じ人が登場することで、面接プロセスと入社後の生活がつながります。また、ランチでも入社後に想定される大変なことを軽く伝えておくと、リアリティギャップの予防になります。
07.他部署の幹部やマネージャーとの面談・ランチ
配属部門ではない他部署の幹部やマネージャーとも面談やランチmtgをセッティングすることがおすすめです。顔見知りを増やすことで会社に馴染ませる、また、組織の一員であることを意識してもらうことができます。時間の都合もあると思いますが、30 分程度の部門紹介をしてから、ランチを一緒にするといった段取りがおすすめです。
08.歓迎会は2週間以内に
会社ごとの事情もあると思いますが、入社2週間以内に歓迎会をすることがおススメです。歓迎会は状況にあわせて、飲み会ではなくランチ等でも良いでしょう。弊社では採用支援した会社にさまざまなアンケートを取り、どんな要素が定着・活躍に影響するのかを調査しています。その中で、定着率に相関する因子の1つに「歓迎会をしている企業の方が、しない企業より定着率が高い」という結果が出ています。仕事を離れて、“個人”としての側面を見せ合う時間を持つことは人間関係づくりに良い影響を与えます。
以上、8つのノウハウをご紹介しましたが、まとめると、組織に馴染んでもらうためのポイントは2つです。1つは、緊張して入社した新人・若手に「歓迎」を伝えること。もう 1 つは「声をかけ合う」「たまにランチに行く」程度の緩いつながりを、なるべく多くの社員と作れるように仕向けることです。入社すぐの新人・若手の心は非常にナーバスです。早期に人間関係を作り、心がポジティブな方向に向けば「あばたもえくぼ」ではありませんが、良い循環が生まれます。一方で、ネガティブな捉え方になると、「重箱の隅をつつく」目線になり、欠点が気になる悪い循環に入ってしまいます。「甘やかす」「お客さま扱いをしましょう」ということではありません。仕事は仕事としてしっかり教えながら、組織として歓迎を伝える、緩い人間関係をたくさん作らせることがポイントです。
上司や管理職層が若手との「対話力」を身に付けることの重要性
入社後の新人・若手に最大の影響力を持つのは上司です。退職・転職理由に関する様々な調査でも「上司との人間関係」は常に上位に入るものです。人事の世界では「従業員は職場を去るのではなく、上司の下を去る」のだとも言われます。
この10年で、上司や管理職層に求められるスキルは大きく変わっています。若手の離職防止に取り組むうえでも、上司が「今求められるマネジメントスキル」を身に付けているかは重要です。以下は、10年前の管理職と現在の管理職に求められるスキルについて、管理職約1,500人に行ったアンケート調査の結果です。さまざまな能力やスキルについて、10年前の管理職に求められると思う比率、現在の管理職に求められると思う比率を比べると、真逆になっていることが分かります。
10年前の管理職に求められるのは、トップダウンで指示して、組織を動かす力でした。管理職が意思決定し、部下に「何をするか/なぜするか」を伝えて説得する。そして、自分と同じように考え行動させることで成長させるというマネジメントです。
意思決定や説明力は管理職にとって今も必要な能力です。しかし、今求められる管理職のスタイルは、部下と信頼関係を作り、アイディアや提案を引き出すボトムアップ型のマネジメントです。自分をコピーさせるのではなく、部下の強みを生かす必要があります。会社や役職が持っていた権威が相対的に落ちている中で、対話を通じて部下の主体性や熱意を引き出す必要があります。
管理職に求められるものは明確に変わっています。特に年齢が高めの管理職の方々は、リーダーシップスキルのアップデートとリスキリングを行う必要があります。今、管理職に求められるリーダーシップは、相手に寄り添った上で主体性や熱意を引き出す“対話力”であり、“ボトムアップ型のチームビルディング力”です。そして、メンバー一人ひとりの“強みを生かす”能力です。こうした変化を捉えず、管理職が10年前のスタイルでマネジメントと人材育成をしようすると、若手を早期離職させる原因になり得ます。
「1対1の対話機会」を社内外で複数組み合わせる
上司の対話力向上に加えて、1対1の対話機会(1on1)を複数作ることも離職防止のポイントです。若手の定着・活躍に一番大きな影響を与えるのは上司ですので、業務レビューだけではない1on1を定期的に上司と新人で実施することが有効です。
組織に慣れる・馴染むという点では、“斜め上の先輩”との1対1の対話機会を作ることも常に有効です。新人と年齢が近く、できれば同じチームでない2年目や3年目の先輩社員を新人のブラザー(お兄さん)・シスター(お姉さん)に任命して面倒を見てもらうブラザー・シスター制度がおススメです。
制度を効果的にするポイントは、ブラザー・シスターを問題の解決役、業務の指導役ではなく、新人が「気軽に相談できる話し相手」にすることです。ブラザー・シスター役の社員にも「一番大事なことは、直属の上司や部署の先輩には言えない新人の悩みや不安を言わせてあげること、聴くこと。組織に馴染むことをサポートすること。業務指導や問題解決をしなくて良い」と明確に伝えます。弊社の場合、ブラザー・シスターには新人を月1 回ランチ・飲み会に連れていってもらい、その費用は会社で負担しています。
また、リアリティギャップを把握して解消するためには、採用に携わった人事や経営層との対話機会が有効です。選考に携わった人事や経営層との対話機会をつくることで、リアリティギャップの状況を把握すると共に、上司には言えない悩み(上司との人間関係など)や、上司では解消できない悩み(会社の制度等にも関わる問題など)を吸い上げることができ、また新人に「採用して終わりではなく、入社後もきちんと気にかけているよ」というメッセージを送れます。人事や経営層との1on1は上司やブラザー・シスターほど頻繁にやる必要はありませんので、入社1か月後、3か月後、6か月後などとタイミングを決めて実施すると良いでしょう。
最後に、1on1の対話機会は社外にも作ると有効です。どれだけ場を作っても評価者である社内の人間にネガティブな話はしにくいですし、キャリアの悩みなども社内では本音を言いにくいものです。従って、契約している顧問社労士、キャリア面談サービスなどを使って、「社外の第三者」との対話機会を定期的に作ると良いでしょう。頻度は当初は3カ月に1回、その後は半年に1回で大丈夫ですが、継続的に実施すると良いでしょう。
次回は「若手の採用が難しくなる中で企業がすべきこと」
今回は、「入社後の離職を防ぐためのノウハウ」を紹介しました。入社後は、実務スキルの指導と並列で「組織に馴染む」「居場所を感じる」「人間関係を作る」サポートをしっかりと提供することが早期離職を防ぐポイントです。費用をかけずにできることはたくさんありますので、ぜひ取り組んでみてください。
また、若手の離職を防ぐためには、最も大きな影響を与える上司のマネジメントスキル、対話力をしっかりと磨くこと、上司・斜め上の先輩・選考に携わった人事や経営陣・社外の第三者という4つの軸で「1対1の対話機会」を設けることも重要です。苦労して採用した若手が離職すると、コストや工数だけでなく、社内のモチベーション等にも影響を与えます。しっかり手を打って離職を防ぎましょう。
次回は採用や定着だけに留まらず、組織開発と人材確保という広い視点から「若手の採用が難しくなる中で企業がすべきこと」というテーマでお送りします。ぜひご覧ください。