自社で定着・活躍する「採用ターゲット」を設定するポイント【新卒採用が困難な今、中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用する秘訣 Vol.2】
コロナ禍の終わりと共に高まっている大卒求人倍率や、学生の大手志向により、新卒の採用活動に苦戦する中小企業が増加しています。第1回のコラムでは、中小企業が新卒採用で成功するための基盤となる考え方として、ターゲット設定から選考、入社後の初期教育プログラムまで「一貫性を持たせる」、そして、採用活動が長期化する中で「学生を飽きさせない」という2つを紹介しました。第2回からは、採用活動のステップに沿ってより具体的なポイントを解説します。今回は「採用ターゲットの設定」と、採用活動の初期で検討しておきたいポイントを紹介します。
採用ターゲットを「誰もが欲しい優秀な人材」にすると失敗する
テレビや新聞で報道されている通り、初任給の引き上げや、配属希望の確約など、多様な取り組みを通じて新卒採用に取り組む企業が増えています。学生に好まれる施策を提供することも大切ですが、新卒の採用活動で成功するために最も重要なことは、事業特性から逆算し、自社で定着・活躍する「採用ターゲット」を上手く設定することです。自社の事業特性や組織文化に合致し、長期的に定着・活躍する新卒人材を明確にしておくことで、効率的な母集団形成のアプローチ、採用面接での適切な評価、さらに入社後の初期教育まで一貫性を持って取り組みやすくなります。そして、最終的には定着率の向上や、組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。
採用ターゲットを設定する際には、「一般的に優秀とされる人材」ではない、「自社で定着・活躍する人材」の要件を見出せるかがポイントです。例えば、「素直で、明るくて、地頭が良くて、コミュニケーション力がある」のような、いわゆるどの会社でも採用したい万能型の優秀人材を採用ターゲットに設定していると、採用競合とバッティングするリスクは増大します。独自の「自社で定着・活躍する人材」の要件を見出す、具体的な方法を紹介します。
自社で定着・活躍する「採用ターゲット」を設定する2つのステップ
ステップ① ː 事業戦略から逆算し、ターゲットにする人物像を設定する
新卒採用の目的は、将来の組織を作り上げることです。新卒採用においては、3年後、5年後、10年後の企業の成長を見据え、将来の柱となる学生を見つけ迎えることが真の目的です。採用ターゲットを設定する際には、まずは事業戦略から逆算して現状の課題を洗い出し、その課題を解決できうる学生をターゲットと考えてみましょう。例えば、自社が新しい技術分野に進出しようとしている場合、その分野に精通し、さらにチームでの研究経験が積める特色がある大学や学部がターゲットにできます。逆に、既存の事業を強化するうえでは、既存のプロセスやルールを順守する姿勢、さらに改善できる力を持った学生が求められます。部活動やサークル・アルバイトなどで、ルールや規律が存在する組織に属する学生をターゲットにするものよいでしょう。
ある化粧品メーカーでは、事業戦略により将来の経営幹部候補となる学生の採用が求められていました。しかし、自社のブランドが世間に広く認知されている結果、応募してくるのは店舗の商品販売に就きたい学生が大半を占めていました。このメーカーでは経営幹部候補となる学生に的確にアプローチするため、大学、学部など、細かくターゲットにする範囲を定めました。結果として応募人数が減りましたが、経営幹部候補となる学生の採用を進めることができるようになりました。
中小企業においては、人事部門の規模が限られており、採用活動にかけられるリソースや工数も大企業に比べて限られています。専任の採用担当者が少なく、他の業務と兼任しているケースも多いため、一つひとつの採用活動に割ける時間や労力はどうしても限られがちです。ターゲットを絞りこみ、効率的にアプローチすることが重要です。
ステップ② ː 自社で定着・活躍する社員を分析し、“自社の優秀人材”を設定する
一方で、ステップ①で定めた学生層に対して手あたり次第にアプローチするだけでは、ターゲットは、スキルや経験が突出した「一般的に優秀」な学生となり、他社とバッティングしてしまいます。そこで、先に述べた「自社で定着・活躍する人材」の要件を見出すことが大切です。
独自のターゲットを見出すには、いま定着・活躍している社員の特徴や傾向を分析することが重要です。分析には適性検査+ヒアリングが非常に有効です。既存社員に適性検査を実施して、優秀層とそうではない層の違いを見出し、仮説を立てる。そのうえで、20代後半から30代前半の社員を対象に複数人からヒアリングすると、共通する要件や成長のプロセスを把握することができるでしょう。
ヒアリングを効果的に行うためのポイントとして、「価値観」「能力」「期待」の3つの視点で考えてみることが有効です。まず「価値観」では、自社のミッションや価値観と社員の職業観や人生観が一致している部分を探ります。「自社の製品が人の役に立っていることがうれしい」や「失敗を許容する社風が自分に合っている」などは、長期的な定着に寄与する要素といえます。次に「能力」では、社員が業務で成果を出すために大切と考えている、実務のスキルやコミュニケーションスキル、それらのスキルをどのように習得したかを詳しく聞きます。ここで社員から、「“前向き”な姿勢は大切」「営業職だから“傾聴力”は大事」など、1つの語句で表現できる要件が出てきた場合は、具体的にどんな行動で表されるのか、一段深く掘り下げましょう。例えば、前向きは「考えるより先に動く」、傾聴力は「相手の話を聞いてから話し始める」といった具体的な行動に落としてみましょう。掘り下げることで、採用選考で見極めるべきポイントが見えてきます。最後に「期待」では、社員が会社から提供されるキャリアパスや成長機会に対してどの程度満足しているか、また将来的にどのような役割を期待しているかを確認します。これにより、入社後のモチベーション維持やキャリア形成に直結する要素を把握します。
このようにして収集した情報を基に、「MUST」と「WANT」に分けて要件を整理します。「MUST」はどれだけ経験を積んでも変わらない要素や、複数の社員へのヒアリングで共通していた要素などがあげられます。「WANT」は、入社後の学びや経験を通じて成長できる要素です。例えば「能力」に関するヒアリングで、社員から「入社後はできなかったけど、日々の仕事を通じてできるようになったスキル」などが当てはまります。自社で定着・活躍する新卒人材の採用活動は、ターゲットの学生層の中から、「MUST」の要件にあてはまる学生に優先度を上げてアプローチすることが有効です。
上記のようなヒアリングをする前に、適性検査や社員の強みや性格を診断できるツールを活用することがおすすめです。例えば、強みを診断するツールには、「クリフトンストレングスファインダー®」、性格診断には「16personalities」などがあります。
「クリフトンストレングスファインダー®」は、ギャラップ社が開発した強み診断ツールです。50年以上にわたる心理学の研究や、ビジネスパーソンへのインタビューなどを基に開発された才能(資質)診断ツールで、「適応性」「コミュニケーション」「達成欲」など34の資質から、個人の上位5つの資質を知ることができます。
性格診断ツールである「16personalities」は、物事に対する考え方や価値観の傾向から個人の思考を分析し、その人の深層的な強みと弱みに加え、思考の傾向について明らかにする性格診断テストです。診断では、外向型と内向型、直感型と感覚型、感情型と論理型、判断型と知覚型の4つの指標に基づき、それぞれの特性の組み合わせから性格タイプを特定します。テスト自体は会員登録などせず誰でもネットで受検することができ、約60問の簡単な質問に回答していくだけで、自分の性格タイプを知ることが可能です。その手軽さから、最近では就職活動や転職活動における自己分析の一環として取り組む人も増えてきています。
このような診断ツールをなるべく多くの既存社員に受けてもらったうえで、普通の社員と活躍している社員で異なる因子、スコアのレベルが違うような項目を見出します。ここから仮説を立てたうえで、ヒアリングすると良いでしょう。
繰り返しになりますが、設定する上では、“自社独自の優秀さ”を見出すことです。万能型ではない、欠けてもよい因子を見出して、自社独自の「優秀人材」要件を設定することで、採用競合、とくに中堅大手企業とのバッティングを少なくすることが出来ます。さらに発信すべきメッセージも明確になり、採用活動に一貫性を持たせやすくなります。
採用活動を成功させるために、初期に検討しておきたいポイント
【経営者、定着・活躍している社員を採用活動に巻き込む】
自社で定着・活躍する新卒人材のターゲットを設定する際には、現在活躍している社員からヒアリングを行うことが重要とお話しました。このような社員への協力体制を構築するためには、初期の段階で、経営者・人事以外の定着・活躍している社員を巻き込んだ採用プロジェクトチームを立ち上げておくことが有効です。特に定着・活躍している社員は、ターゲットに合う学生側にとれば「入社後、自分が目指せるゴール」です。採用活動に巻き込み、選考での面接対応や、内定承諾までの個別アプローチに関与してもらうことで、志望度や入社への期待を高めてもらうことも可能です。
ある企業では、経営者が採用活動を「全社員でコミットすべき重要な経営施策」と位置づけ、人事部門以外の社員にも採用活動への協力を促しています。さらに、その貢献に対しては、評価面でインセンティブを与える仕組みを導入し、社員のモチベーションを高めています。社員を巻き込める状態がない場合、人事は経営者に対して採用活動の意義を説き、社員を巻き込みやすい環境を整えるための提案を行うことも大切です。
【外部団体との長期的なコネクションづくり】
母集団形成を効率的に進めるためには、採用ターゲットとなる学生が多く所属している大学、学部、研究室、さらには特定のスキルや興味を持つ学生が集まるサークルや学生団体と、長期的なコネクションを築くことが有効です。ただし、大学や学生団体は企業の採用支援を目的としているわけではありません。そのため、コネクションづくりは中長期的な視点を持ち、相手にとってもメリットがある形で行うことが重要です。例えば、大学と企業が連携した産学連携プロジェクトの推進や、サークル活動のスポンサーシップを通じて、相互に利益が得られるような協力関係を構築することが効果的です。このように、相手にとってもメリットのある関係を築くことで、信頼を深め、より強固なネットワークを形成することができるでしょう。
【第二新卒、既卒/中退層をターゲットに組み込む】
少子化により、大学新卒者の数が減少し、売り手市場がさらに加速する中で、中小企業が新卒採用だけで若手人材を確保するのは難しくなっています。そのため、「既卒者」「中退者」「第二新卒」といった多様な人材層へのアプローチを検討することも重要です。
既卒者・中退者とは、大学や専門学校を卒業または中退したものの、正社員としての経験がない若者を指します。これらの人材には、資格試験や海外留学など前向きな理由で就職しなかった若者や、学業を頑張っていたけれど経済的な事情でやむを得ず大学を中退した若者なども多く含まれます。また、既卒者や中退者は競争が比較的少ない市場であり、中小企業にとって採用のチャンスがあります。
一方、第二新卒者とは、正社員として1~3年勤務した後に離職した若者を指します。この層のメリットは、ビジネスマナーや基礎的なスキルを既に身につけており、内定から短期間で入社できる可能性が高い点です。中小企業がこれらの人材層に目を向け、採用ターゲットを広げることで、優秀な人材を確保しやすくなります。第二新卒採用のノウハウは、「令和に若手・第二新卒採用を成功させるには?」で紹介していますので、ぜひご覧ください。