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中堅社員をくすぶらせない!人材育成の今【中小企業の組織づくり~いまこそ階層別育成の時代 Vol.5】

皆さんの組織にはどのような役職の方がいらっしゃるでしょうか。「部長」「課長」は一般的ですが、最近は「係長、主任といった役職がない」というケースもあるでしょう。スタートアップ企業だと、階層が3階層程度…ということも珍しくありません。そもそもピラミット構造ではなく、フラット化している企業もあり、それが肯とされるような気運があります。ところが、いざ組織運営をしてみるとフラットな組織の運営難度は非常に高く、あらためて階層別組織の良さが見直されているように感じています。そこで本連載では中小企業の組織づくりをテーマに、階層別育成の考え方について解説していきます。ぜひ、自社の組織づくりに生かしていただければ幸いです。
第5回は、第4回に続き中堅社員に期待される役割と実践へのつなげ方のヒントをお伝えできればと思います。

●前回のコラムはこちら:第1回/第2回/第3回/第4回

目次

(1)ケース① 「中堅社員に、少し物足りなさを感じた時」の関わり方
(2)ケース② 「中堅社員が、仕事を抱え込みすぎているように見えた時」の関わり方
(3)関わり方のヒント

ケース① 「中堅社員に、少し物足りなさを感じた時」の関わり方

前回以下のケースをご提示しました。「うちにもこんな中堅社員がいるな……」「うちの中堅社員とは少し違うな……」など感じていただいたのではないでしょうか。改めてそれぞれのケースについて考えてみたいと思います。

ケース①
直属上司Aさんに中堅社員Bさんに対する印象を聞きました
「中堅社員Bさんは職種の専門性も身についてきました。タスクを処理する時間もずいぶん早くなったな、と感じています。ただ、少し物足りないところがあります。私に対して『■■と▲▲どちらがよいでしょう』『隣の部署の人が●●と言ってきたのですが、『どう進めたら良いですか?』などの質問があるのです。①間違いや手戻りがないように確認をしてくれること自体は良いのですが、少し頼りなく感じてしまいます。依頼したことは手際よく進めてくれます。そこも良いところです。ただ、②中堅なら気づいてほしいな、というタスクを拾って取り組むことはまずありません。比較して話すのはあまりよくないかもしれませんが、同じ頃入社したCさんは、担当する人が決まっていない、誰がやってもよいような仕事をすすんで引き受けてくれます。Cさんの方が、一緒に仕事をしていて気持ちが良い、やりやすいと感じてしまうんですよ。」

ケース内でお伝えしたかった点に下線をつけてみました。

下線① 本人が主体的に動ける関わりをしているかどうか。
上司Aさんが感じる「物足りなさ」はどこから生まれているのでしょうか。下線の中の質問は、いずれも相手に一から判断を委ねる尋ね方をしています。もし、「■■と▲▲の進め方が考えられます。~~といった理由から、▲▲で進めるのが私は良いと思いますがいかがでしょうか。」「隣の部署の人が●●と言ってきました。○○と回答しようかと思いますが良いですか。あわせて気を付けた方がいいこと等ありますか?」のように相談されたとしたら、どうでしょう。
こちらは、相談はしているものの、自分としての考え、意思もあわせて上司に伝えています。
新人の間は周囲の力を借りながら仕事を進めていく段階なので、いわゆる「報連相」をしっかりしてくれれば合格と言えるでしょう。中堅となれば、仕事をただ漫然と進めるのではなく、どうするのがより良いのかを考え、自分なりの判断基準を持って欲しいものです。自分なりの判断基準を持つためには、仕事について先ず「考える」ことが必要になりますが、考えるクセがついていないと、突然意見を求められてもなかなか出てきません。新人の間は「指示をされる→やってみる」という仕事の進め方から学びにつながることが多いですが、そろそろ新人を卒業して欲しい…と思ったら「Bさんはどう思う?」「Bさんはどうしたい?」等、考えることを促す関わりをしてみるのが良いのではないでしょうか。


下線② 目の前の仕事だけでなく周辺の仕事を意識させられているかどうか。
「明確にタスクと意識されておらず、誰がどのように取り組むのか、定まっていないような仕事を誰がするのか」、これはその企業の風土や評価制度によっても扱いをどう考えるか異なると思います。また、担当が決まっていないのですから、中堅社員にそれを「しろ」というのもおかしな話です。しかし、日本企業の多くはJOBで仕事を切り分けていません。役割を緩やかに決めて互いに支えあい、拾いあいながら進めている、というのが実情ではないでしょうか。
宙ぶらりんなタスクを拾うには、そもそも、そのタスクに気づいている必要があります。新人であれば自分の仕事で精いっぱいでしょうから、前後の仕事が滞っていてもわからないかもしれません。しかし、中堅であれば、自分の仕事だけでなく工程の前後や関係者の様子がもう少し見えるようになって、更に、仕事完了という目的に照らしたときに滞っている仕事は放っておいてはいけない、という気持ちから自分が進んで片づけに行く…こんなスタンスを身に着けて欲しいものです。仕事を前に進めたうえで担当が決まっていない仕事が見つかったら、その仕事が宙に浮かないように担当のセクションを決めて欲しい、職場の問題解決も進めて欲しい、中堅社員にはそういった期待があると思います。宙ぶらりんの仕事を「しろ」とは言えませんが、仕事の流れや前後の工程への意識は期待したいところです。周囲に目配り、気配りができた様子をみたら褒める、「Bさんとは仕事を進めやすい」などの感じたことを伝える、仕事の改善に一緒に取り組んでみる、などを行っていくとそれらの行動は促進されるのではないでしょうか。

ケース② 「中堅社員が、仕事を抱え込みすぎているように見えた時」の関わり方

ケース②
直属の上司Cさんに中堅社員Dさんに対する印象を聞きました
「私の補佐となるリーダーが育ってほしいと思っています。社歴や経験などからするとDさんが順当なのでしょうが、まだ任せられないなと感じているのです。
同じ課の後輩EさんにそれとなくDさんのことを聞いてみました。すると『Dさんは仕事を任せてくれるので、頼られているのかな、と感じますが、①Dさんはいつも忙しそうで、正直あまり会話したことがないんです。質問するのも申し訳なく感じてしまいます』という答えが返ってきました。
実はF部署の上司からもDさんに対して要望が入っています。F部署とDさんは一緒に仕事をすることが多いのですが、F部署のメンバーにミスがあった時、②強い口調でミスをなじるのだそうです。F部署のメンバーはDさんとは仕事がしにくいと感じているので態度を改善してほしい、といった要望でした。
人や仕事の好き嫌いもはっきりしていて、自分が面倒と思った仕事を後輩のEさんに押し付けている様子でした。困ったものです。」


下線① 仕事の抱え込みを解消する
中堅になると、新人の頃に比べ、任される仕事の量・質・領域の負担がいずれも増え、成果につなげることはもちろん完遂することすら大変になっていきます。加えて、新人の頃と比べると、周囲のフォローはだんだん少なくなってきます。中堅社員はこの状況を「自立しろという合図だ」と暗黙のメッセージとして受け止め始めます。
本人の中堅社員としての自覚も芽生えてきたがゆえに、「このくらいのことは自分でできなければ……」と周囲に相談せずに進めようとしてしまいます。仕事が多量になり複雑化し難度が上がっていることを考えると、進め方を周囲に相談して良いはずですが、それができずに仕事を抱え込んでしまっている場合があります。ちょっと周囲に相談するだけで、仕事を効率よく進めるヒントがもらえるかもしれません。もしくは、何か周囲で手分けできることがあるかもしれません。この場合の中堅社員は「自分からは相談できない」と思いこんでいますから、周囲の方が仕事の状況を聞いてみてあげてはいかがでしょうか。「仕事の様子はどう?」と唐突に尋ねても、「大丈夫」と強がることも想定できますが、普段から定期的なミーティングを設けるなどして、ちょっとしたことを尋ねやすい状況を作っておくのが1つの手かもしれません。

下線② 期待役割は伝わっているか
新人から中堅社員への転換にあたるキーワードは「周囲への影響力」です。新人の間は、周囲の力を借りながら、先ずは一人で仕事ができるようになる=一人前になることが期待されるところでした。
中堅社員はそれだけでは十分でなく、上司の補佐や後輩指導、隣接する部署と連携して仕事を進める、といったことが期待されます。更に、仕事が前に進んでさえいればいい、ということではなく、良好な関係を築きながら周囲にいい影響力を発揮することも期待されます。仮に業績が良かったとしても、自分さえ良ければといった考えや、自分が気持ちよく仕事を進めるために周囲が不愉快になるようなやり方は、期待に叶っているとは言えません。
こういった場合、本人に悪気がない場合もあり、自分の改善点にはなかなか気づきにくいものです。
先ずは中堅社員として期待されている役割を伝えること、期待に照らして改善して欲しい点をフラットに伝えることが是正につながるのではないでしょうか。

関わり方のヒント

弊社では中堅社員の成長をトランジションモデルで整理しています。具体的には、個々の社員に対して周囲が関わって「抑える行動」、「伸ばす行動」を決め、うまく成長が進んでいないときの様子を「トランジションを乗り越えられていない」、成長がうまくいっているときに見える行動を「出口のサイン」などに棲み分けて言語化し、状況を整理しています。

以下を目安に中堅社員の皆さんに関わってみてはいかがでしょうか。

抑える行動
☐難しい業務の判断は、自分で考えず、誰かにしてもらおうとする
☐全部自分ひとりの力で何とかしようと抱え込む
☐自分の仕事や役割の範囲を決めてしまい、そこから出ようとしない
☐関係者やチームワークに気を配らず、自分の仕事ばかりに没頭する

伸ばす行動
☐担当業務に対する自負をもって、より高い成果を追求する
☐自分の得意領域、強みを築く
☐仕事の幅を広げる
☐関係者に自ら働きかけ、協力を引き出せる関係性を築く
☐後輩の状況に気を配り、関わろうとする
☐ロールモデルやメンターを見つけて交流する


トランジションを乗り越えられないと…
☐複数の関係者を巻き込み、協働して進めていくような仕事を任せられない
☐自分の判断基準が持てず、周囲の意見に右往左往する
☐目の前のことに対応し続けることに精一杯で疲弊する
☐仕事を回しきれず、自信が持てない
☐自分の担当業務に意味を見出せず、受身の対応しかできない
☐主担当としての問題意識や持論を上司や関係者に提言することをしない


トランジションの出口のサイン
☐担当分野について自分の考えを持ち、いろいろな角度から語れる
☐好き嫌い、得意不得意にかかわらず、必要な行動をタイムリーに取れている
☐相手の反応が予測できるようになり、それを見越して行動できる
☐自分なりに仕事をとらえる枠組みができている
☐業務が増えるなかでも、全体や先のことを見て段取りをつけられる
☐自分が関わった後輩が成長することに喜びを感じる
☐発言や行動が、上司の意思決定や関係者に影響を与えるようになる