中小企業は「手厚さ」で勝負! 内定承諾と内定者フォローのポイント【新卒採用が困難な今、中小企業が「自社で定着・活躍する新卒」を採用する秘訣 Vol.5】
本連載では自社で活躍・定着する新卒を採用するための「採用ターゲットの設定」や「採用情報の発信」、「選考での口説きポイント」などのノウハウ・施策を解説してきました。しかし、採用活動の最終局面とも言える「内定承諾」と、その後の「内定者フォロー」が不十分では、せっかくの努力が実を結ばない可能性もあります。特に売り手市場が続く昨今、内定承諾後のフォローも欠かせません。今回は、内定承諾に関する学生の意識調査や、実際の中小企業の事例を交えながら、効果的なアプローチのポイントについてお伝えします。
25卒就活生「内定承諾の決め手」は、“社風・社員の魅力”と“キャリアビジョン”
中小企業が、応募者から内定承諾を得るためには、内定通知の前後で応募者の自社への志望度を高める取り組みが必要です。最近の学生たちは何を基準に内定承諾を決めているのでしょうか。当社が2025年卒就活生を対象に実施した「内定承諾の決め手」に関する調査では、「社風がいいと感じた、社員の雰囲気がいい」が71.8%で1位、「やりたい仕事ができる、やりがいのある仕事ができる」が41.5%で2位、「成長できる環境が整っている」が37.5%で3位となり、「給料や休日などの勤務条件がいい」は26.4%で5位、「転勤がない」は13.0%で6位と、労働条件に関する回答は下位となりました。
これは、内定承諾の時点では給与等の労働条件はある程度クリアした上で、最終的には社風や人間関係の魅力、自身のキャリアビジョンが叶うかどうかが決定打となっていることを示しています。内定通知前後は、応募者に「社風や社員の魅力」「キャリアビジョンへの期待」を最大限に感じてもらえるアプローチが有効な一手といえるでしょう。いくつかの事例をご紹介します。
〈リクルーター面談で応募者に寄り添い、マッチング精度を向上させる〉
あるHR業界の企業では、「採用したい」と思った応募者には選考プロセス内で応募者ごとに異なるリクルーター(採用担当とは別の社員)を付けて、複数回の面談を実施しています。面談では、リクルーターが応募者のキャリアプラン、個性、価値観を丁寧にヒアリングし、明確化した上で、それが自社の事業や社風と合う点などを、応募者が迷いなく自社を選べるようすり合わせています。マッチングの精度を高めながらも、リクルーターは「最終的には〇〇さん自身に、この会社を選ぶかどうかを決めてほしい」と応募者の味方である姿勢を貫くことで、高い内定承諾率を実現しています。リクルーターとの面談を重ねることで、応募者自身が価値観やキャリアプランをより明確にできるとともに、自分の目指す姿をぶらさずに企業とのマッチングを図れる点、また個別対応によって社員の魅力を伝えられることが効果を上げています。
〈応募者一人ひとりに、オファープレゼンテーションを行う〉
ある企業では、応募者のキャリアビジョンに対する期待感を高めるために応募者ごとに「オファープレゼンテーション」を行う取り組みを導入しています。この取り組みでは、内定通知の直後に「内定理由と期待」「応募者の就活軸が自社でどのように実現できるか」、さらに「入社後1年目から5年目以降にかけての具体的なキャリアプラン」や「企業からのメッセージ」を個別に伝えています。
応募者ごとにオファープレゼンを作成、実施することはかなり手間がかかりますが、「この会社で自分の望むキャリアを築いていける」という確信や安心感を与えることで、内定承諾につながることが期待できます。採用人数が数十名になってくるような企業では実施することは難しく、中小企業ならではの施策と言えるでしょう。
〈内定通知では、“応募者の保護者”へのフォローも重要〉
内定通知では、応募者に「特別感」を与えるパーソナライズされたアプローチが有効です。例えば、内定通知書とは別に、「選考を通じて感じた応募者の強みや魅力」「自社の事業の安定性」「応募者が自社で叶えられるキャリアプラン」を綴った手紙を作成し、手渡しする方法は非常に有効です。また、その際に選考過程で関わった社員が同席して声をかけることで、応募者に対して特別な存在であることを伝えることができます。
また中小企業の場合、応募者へのアプローチと同じくらい大切なのが“応募者の保護者”へのフォローです。特に新卒や若手人材の採用においては、内定承諾の意思決定に保護者の意見や同意が大きな影響を与える場合が少なくありません。そのため、内定承諾を成功させている中小企業では、応募者の保護者にも安心感を持ってもらえるような工夫を行っています。具体的には、内定通知書やオファーレターとは別に、保護者向けの封書を作成し、自社の事業内容や安定性、応募者が働く環境について詳しく記載した資料を同封する取り組みがあります。保護者の方にも「信頼できる企業だ」と納得してもらいやすくなり、保護者を含めた安心感・特別感の提供は、内定承諾の後押しとなります。
入社までが採用活動! 入社前辞退を防止する内定者フォローとは
承諾を得た後は、入社までの内定者フォローが欠かせません。新卒学生の内定承諾のピークは4月~6月頃ですが、売り手市場に伴う採用活動の早期化が進むと、内定承諾の時期がさらに早まることも予想されます。また、早期内定が一般化し、「内定承諾後でも辞退が可能」という認識が広まっている中で、内定承諾書を提出してもらうなどの効力は以前よりも弱くなっています。そのため、承諾後に内定者を放置することなく、定期的なフォローを行うことが、入社前辞退を防ぐうえで重要です。
入社前辞退の理由のひとつには、「内定ブルー」があります。内定ブルーとは、結婚式前のいわゆる「マリッジブルー」と同じ現象です。内定承諾した自分の決断に対して、「この企業で、本当に大丈夫なのだろうか?」「自分の能力で、本当に活躍できるのだろうか?」といった不安や迷いが生じることです。内定ブルーを解消するには、「疑問や不安の解消」「入社後イメージの具体化」という2つのポイントを意識しながら、内定者フォローの施策を実施していくことが大切です。いくつか事例を紹介します。
〈定期接触で不安の芽を摘んでいく〉
内定ブルーを解消するには、定期的に接触を図り続けることが基本です。内定承諾後に企業からの連絡が途絶えると、「この企業を信頼して大丈夫なのだろうか?」といった不安や違和感が生じやすくなります。そのタイミングで就活サイトからのスカウトメールが届くと「もう少し就活してみようか…」といった気持ちが芽生えます。内定から入社までの期間には、スケジュールや事務手続きの連絡にとどまらず、最近の学生生活の様子を伺ったり、誕生日があればお祝いのメッセージを送ったり、会社のトピックを共有するなど、形式的な内容だけでなくカジュアルなコミュニケーションを取ることが重要です。これにより、内定者に安心感を与えることができます。新卒採用で成功している企業の採用担当者は、少なくとも2週間に1回、メールや電話、LINEなどを活用してこのような接触を行っています。また、接触時には必ず入社に向けて不安な点がないかを確認し、不安がある場合は個別に対応して解消させましょう。
〈内定者コミュニティの醸成〉
入社までの期間に、懇親会や内定者研修を活用して、内定者同士の人間関係を構築することも有効です。将来の同期と交流し、仕事への期待や悩みを共有できる環境を整えることで、内定者の孤立感を軽減できます。また、同期との仲が深まることで、「一緒に成長したい」という前向きな気持ちが芽生えやすくなり、内定ブルーの緩和につながります。採用人数が少ない場合には、1つ2つ上の社員を巻き込んだり、翌年度の採用活動を手伝ってもらったりする試みもコミュニティを作るうえで有効です。
〈内定者インターン(内定者アルバイト)の実施〉
採用人数が少ない中小企業の場合、内定者インターンシップ(内定者アルバイト)を提供することも有効な方法です。アルバイトとして実際の業務に携わってもらうことで、企業が求めるスキルを具体的に理解してもらえるだけでなく、実務を通じて「リアルな社風」や「社員の魅力」を直接感じてもらうことができ、具体的な入社後のイメージを持つことができます。また、内定者が業務に取り組む姿勢や成果を目の当たりにすることで、現場社員にも「新しい仲間を迎える準備」を意識してもらい、チーム全体が良い緊張感を持つきっかけとなるでしょう。さらに、内定者にとっても、働く環境や同僚の雰囲気を実感できる貴重な経験となり、不安の解消や入社意欲の向上につながります。
中小企業が内定承諾を掴むためのアプローチには、「手厚さ」を全面に出す
今回、内定承諾を得るためのアプローチや内定者フォローについて解説しました。ここまでお読みいただき、「そこまでケアする必要があるのか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、日々多くの中小企業の新卒採用活動を見ていると、「そこまでしなければ採用が難しい」というのが現状です。採用目標人数を達成している中小企業は、リソースが限られている中でも、今回ご紹介したノウハウをいくつも取り入れています。
繰り返しになりますが、中小企業が採用で成功するには、応募者一人ひとりに対して手厚いケアを行い、人間関係を作ること、そして「自分のことをしっかり見てくれた内定だ」と感じてもらうことが大切です。売り手市場の中で、応募者は複数の内定を比較して選ぶケースが多いため、企業としては競合と差をつける必要があります。少し熱意が強すぎると感じるかもしれませんが、最終的に重要なのは「あなたと一緒に働きたい」という企業側の思いを丁寧なアプローチに乗せることです。その思いが応募者の心に届いたとき、内定承諾、そして入社を実現させることができるでしょう。