マネジャーが生きれば組織も生きる! 人材育成の今【中小企業の組織づくり~いまこそ階層別育成の時代 Vol.9】

皆さんの組織にはどのような役職の方がいらっしゃるでしょうか。最近は「係長、主任といった役職がない」あるいは「部長も課長もない」というケースもあるでしょう。スタートアップ企業だと、階層が3階層程度……ということも珍しくありません。そもそもピラミッド構造ではなく、フラット化している企業もあり、それが肯とされるような気運があります。ところが、いざ組織運営をしてみるとフラットな組織の運営難度は非常に高く、あらためて階層別組織の良さが見直されているように感じています。そこで本連載では中小企業の組織づくりをテーマに、階層別育成の考え方について解説していきます。ぜひ、自社の組織づくりに生かしていただければ幸いです。
第9回は、マネジャーに昇進したて、もしくは昇進して2~3年など、新任マネジャーに期待される役割と実践へのつなげ方のヒントをお伝えできればと思います。
目次
(1)ケース① 「脱プレイヤー」ができていないときの関わり方
(2)ケース② 「部下を振り回してしまっているとき」の関わり方
(3)関わり方のヒント
ケース① マネジャーが「脱プレイヤー」できていないときの関わり方
第8回では以下のケースをご提示しました。「うちにもこんなマネジャーがいるな……」「うちのマネジャーとは少し違うな……」など感じていただいたのではないでしょうか。改めてそれぞれのケースについて考えてみたいと思います。
ケース①
Aさんは4月に課長に昇進し、営業1課を率いて4カ月になります。プレイヤー時代のAさんの業績は圧倒的で、Aさんがマネジャーになることに異論を唱える人はいませんでした。
もうすぐ半期が終わろうとしていますが、やはりAさん、プレイングマネジャーということもあり、自身の業績をしっかりつくっています。頼もしいAさんの印象について、直属の部下Bさんにきいてみました。
「Aマネジャーはすごい人だと思います。1課はメンバーが4人いるのですが、目標達成できそうなのはAマネジャーだけで、他は皆苦戦しています。でも①Aマネジャーが上乗せしてくれる業績で課は達成できそうなんです。Aマネジャーと同じ課なら毎期目標は達成できるので安心です。 ②自分ですか?私は未達成に終わりそうですが、Aマネジャーのやり方を見てもよくわからないし、難しそうで……。到底真似できそうにありません。まあ、でも、課が達成できるから、いいですよね?」
ケース内でお伝えしたかった点に下線をつけてみました。
下線① 正しい役割認識ができているか
ケース①のAさん、プレイヤー時代から圧倒的な業績を作っていただけあって、自らの業績で組織目標を達成する勢いです。しかしAさん、マネジャーになった以上はこれでは十分ではありません。プレイヤーとマネジャーの決定的な違いは成果の出し方です。 “直接的”に成果を生むのか、部下を通じて“間接的”につくるのか、この違いがプレイヤーとマネジャーの違いです。
Aさんの行動はプレイヤーとしては素晴らしいですが、マネジャーの期待役割に照らして評すると不十分です。あえて辛口に言うと、「部下に成果を出してもらうことができず、自分の成果で帳尻をあわせているだけ」と評されても仕方のない状況です。
今日の多くの組織において、マネジャーはプレイングマネジャーの役割を担っています。弊社が企業の人事担当者150名、管理職層150名に対し実施した「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」では、管理職層が「マネジメント業務に携わる比率」は50%が最多。大半の時間をマネジメント業務に割けている人は少数派で、プレイヤー業務も担う人が多い実情が明らかになりました。
この「プレイングマネジャー」という表現は誤解が生まれやすく、マネジャーに任命された当人も「プレイングマネジャーなのだから、プレイングして成果を出せばいい」と認識していることがままあります。プレイングマネジャーは「プレイングで成果を出すマネジャー」ではなく「プレイングを“しながら”マネジメントを並行して行うマネジャー」です。自分が成果を出すだけでなく、部下に成果が出せるように関与してほしいというのが、会社が期待する役割です。すなわち“脱プレイヤー“をしてほしいのです。この期待している役割を改めて伝えるだけでもマネジャーの動きは変わってくるのではないでしょうか。
下線② メンバーの育成に意識がいっているか
①の話と関連しますが、Aさんが脱プレイヤーしない結果が下線②の状況です。部下のBさんも「Aさんは業績を作ってくれる人」と認識してしまっています。Aさんのやり方が「Aさんだからできる個人技」のように映ってしまっているのも気になります。
Aさんは本来、Bさん自身が成果を出せるように働きかけをしなければなりません。誰にも真似できないようなミラクルを部下に見せつけるのではなく、誰にでもできるように行動を整理し、言葉にしてBさんに伝えていく必要があります。
有効なのは組織学習です。チームの会など組織全員と、どのようにすれば成果が出せるかプロセスについて共有しながら進めるのです。Bさんも、Aさんの共有や他の先輩の工夫などを聞き、動き方のヒントにすることができます。Bさんが「こうすれば自分でも成果がだせそう!」「やってみよう!」という気持ちになり、実践を促せればしめたものです。
これはプレイングマネジャーがプレイングを“しながら”という超多忙な中でマネジメントを実現するコツでもあります。組織の力を借りながら組織全体で成果を出していくことが思考できると、マネジャーとしてパワーアップできるのではないでしょうか。
ケース② マネジャーが部下を振り回してしまっている場合の関わり方
ケース②
Cマネジャーに対する印象を直属部下のDさんに聞きました。
「Cマネジャーの下について1年になるのですが……。大きな声では言えませんが、正直うんざりです。約2カ月前、Cマネジャーから『私は▲▲は売れると思う。みんなで力を入れて▲▲を拡販しよう!』と会議で提案がありました。マネジャーが言うことだから……と皆従って営業活動に力をいれたのですがお客様の反応はいまひとつで、1カ月たっても売れる気配が一向にありませんでした。①すると今度は『■■がトレンドだ!■■を拡販しよう!』と言うのです。▲▲にしても■■にしても、なぜそれが強化商品として採択されたのか、判然としなかったので、どのような基準で選定したのか?とたずねてみると『営業としての勘だよ!』と返ってきました。
今までCマネジャーの勘に付き合っていたのか……となんだかがっかりしてしまいました。次に『また新しい商品を売ってほしい』と言われたとしても、もう二度とやりたくありません。②一番腹が立ったのは、評価フィードバック面談の時です。評価結果が悪かったので、なぜこの結果なのか理由をたずねたら、『私はDさんを評価していたんだけど、部長が悪くつけちゃったからさ……。しょうがなかったんだよね。』とコメントがあり、それ以上の説明は何もありませんでした。全く納得できません。」
ケース内でお伝えしたかった点に下線をつけてみました。
下線① 経験や勘に頼りすぎていないか
プレイヤーとして経験が積み重なってくると自分の中に暗黙知ができあがり、一定の範囲で勘が働くようになってきます。自分が自分の勘に従うことには問題もありませんが、部下を率いるとなるとそうはいきません。上手くいっている時は良いと思えそうですが、上手くいかなかった時は一大事です。もともと根拠が存在しないため結果が出ない原因もわからず、軌道修正から難しくなってしまいます。ついてきていた部下からの信頼も失いかねません。
方針を出す際は何かしらの定量的なデータや情報などを根拠にすること、またその根拠とあわせて部下に説明することは意識するといいです。そうすることで、なぜその取り組みをするのかという点における部下の納得度が高まり、それがチームの推進力にも繋がる可能性があります。設定の根拠があればそれを目安にPDCAサイクルを回すこともできます。
とはいえ、プレイングマネジャーの皆さんは腰をすえて自分のチームの方針を出すといったことが難しい……というのも実情ではないでしょうか。そこで、上記を意図して実践していただくために、メンバーに伝える前に上司との面談機会を定例で作っておく方法があります。チームの方針は組織の方針と連動している必要があるため、その確認のプロセスにもなるだけでなく、部長からよりよい方針のためのアドバイスをもらえるかもしれません。本質的ではないかもしれませんが、マネジャーの皆さんは忙しい分、仕組みを作って否が応でも考えなければならない機会を作ってしまうというのも得策かと思います。
下線② 自分の言葉で伝えているか
「私はDさんを評価していたんだけど、部長が悪くつけちゃったからさ……。しょうがなかったんだよね。」この発言には特に注意する必要があります。一方で、過去に上司からこの言葉を聞いたことがある…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
上記の発言の良くない点は、出た結論に対するチームの長としての責任を放棄しているところにあります。マネジャーご自身による部下への評価と上司による部下への評価が対立することは当然あるかと思います。仮に、最終的に上司の意見が通ったとしても、ともに議論したプロセスがあるはずなので、最終的に決まった結果に対しては責任を持つべきです。
例えば
「僕が評価した〇〇の点は部長と意見が割れたところだった。しかし、△△という事実を考えてこの結論となった。次は良い評価になるよう□□を見直していこう」
等と伝えてもらっていたらどうでしょう。評価は高くなかったとしてもDさんの納得度はずいぶん違ったのではないでしょうか。評価の場面では特に、評価結果とその根拠や評価のもととなった事実等をあわせて伝え、納得度を得ること、その上で次の成長に向けての動機づけをすることが肝要です。
権限に見合う一定の責任を背負おうとしているのか、誰かから借りた言葉ではなく自分の言葉で語っているのか、上司の覚悟は日々の行動や発言から、部下には透けて見えるものです。期初に、自分がどのようなマネジャーでありたいのか、どのような組織を作りたいのかメンバーに共有する、相談するといった場を設けるのも一つの手ではないでしょうか。
まとめ
マネジャー(前期)の今日的課題は“脱プレイヤー”この一点といっても過言ではないかもしれません。今は、プレイヤーとして優秀な人がマネジャーになることがほとんどでしょう。多くのマネジャーはプレイング業務に関してもともと利き腕な上に、締め切りがあり、かつ、業績に直結する業務ということもあって、育成といった時間がかかるマネジメント業務よりもついそちらを優先しがちということがあると想像できます。結果的にマネジメントがおろそかになってしまいがち、という現状はあるのではないでしょうか。加えて、コンプライアンス、多様化する働き方への対応などマネジャーにのしかかる業務は従前よりも増え、その上組織のフラット化の影響で、頼りにしたいナンバー2が育っていない……などの大変さを抱えて業務を行っています。
マネジャーに任命した側は、例えば、マネジメントとは何をすることなのか期待役割を伝える、部下マネジメントに生かせるスキルを付与する、といった学習の機会を設けるなど、周囲のサポートが不可欠ではないでしょうか。
関わり方のヒント
第8回でご説明した通り、弊社ではマネジャー(前期)の成長をトランジションモデルで「Manager(前期)=マネジャー(前期)」として、整理しています。具体的には、社員一人ひとりに対して周囲が関わって「抑える行動」、「伸ばす行動」を決め、うまく成長が進んでいないときの様子を「トランジションを乗り越えられていない」、成長がうまくいっているときに見える行動を「出口のサイン」などに棲み分けて言語化し、状況を整理しています。
マネジャー(前期)の皆さんとの関わりにおいては以下を目安にしてみてはいかがでしょうか。
抑える行動
☐ 自分で手を下すプレイヤーであり続けようとする
☐ メンバーに対して、細かいところを含めすべてを自分の指示命令で動かそうとする
☐ 自分の経験則や考え方にこだわり、他の考えや価値観を受け入れない(自分のやり方の ほうが質が高い・すべてをわかっているというおごり)
☐ 日々の仕事を回すことだけに関心が向き、人としてメンバーを見ない
☐ 好き/嫌い、できる/できない、でメンバーを評価する
☐ メンバーが期限どおりに終えられない仕事を自分で巻き取って間に合わせる
伸ばす行動
☐ 経験則ではなく事実に基づいた判断を追求する
☐ 組織の要請とメンバーの欲求の調和、統合を追求する
☐ 組織の目標、計画、方針を自分の言葉で伝える
☐ 仕事の優先順位を意識する
☐ 嫌われることをいとわず、メンバーに向き合い、要望する
☐ 日常からメンバーと接点、会話を増やし、変化を見逃さない
☐ 結果責任は自分にあるという自覚をもって判断、行動する
トランジションを乗り越えられないと…
●優先順位をつけられず、メンバーが疲弊したり、中途半端な成果しか出せなくなる
●上司に対して提言ができず、上からの方針をそのまま下ろす
●自分の専門外・知らないことがあると、判断できず業務をとめる
●メンバーに仕事を任せようとしても、結局自分がやってしまう
●メンバーが伸び悩む
●メンバーが、報告や意見・提言をしてこなくなる
●メンバーが自分の顔色をうかがうようになる
●仕事ができるメンバーのみに仕事が集中する(そのメンバーだけに頼る)
●職場や会議での発言や交流が少なくなる
●場当たり的な判断を繰り返し、メンバー・他部署・顧客の信頼を失う
トランジションの出口のサイン
☐ 組織としての成果(目標達成・取り組みが進む)が出てくる
☐ メンバーの成長を実感する(言わなくても動く、楽しそうに仕事をしている、協力して仕事をしている、成果を出す、など)
☐ メンバーに口を出さない・先に言わないといった我慢ができるようになる
☐ メンバーの成長を喜べる
☐ つくりたい・目指したい組織像を描ける
☐ 上司への要望の通し方や説得の仕方などの勘所がわかってくる
☐ 上司から自組織の成果を認められる
☐ メンバーのよい評判を、自組織外から聞く
☐ メンバーと率直に会話ができるようになる(メンバーがフィードバックを前向きに受け止めてくれる/メンバーが耳の痛いことも言ってくれる、など)
☐ メンバー同士が、自発的に協力をし合うようになる