組織の仕組みで従業員を守る~従業員保護のためのカスハラ対策の本質~【今なら間に合う、現場で始めるカスハラ対策 Vol.5】
カスタマーハラスメント(以降、カスハラ)対策の本質は、企業の評判管理やクレーム削減ではなく、まず従業員を守ることにあります。カスハラという問題と日々向き合っているのは言うまでもなく前線の従業員であり、不当な要求やストレスに過剰にさらされてしまえば、従業員保護の観点からも、企業の存続の観点でも大きな問題となります。従業員を守り、ひいては顧客全体や企業をも守ることに繋がるよう、会社全体で取り組むことを考えましょう。
誰がためのカスハラ対策か、企業としてしっかりと従業員保護の姿勢を示す
カスハラ対策の重要な目的は、現場で対応する従業員の安全と健康を守ることです。仮に企業が従業員をしっかりとカスハラから守ることをしなければ、現場の従業員個人にその対応が依存、かつ押し付けられることになり、言うまでもなく結果としてそれは企業にとっても重大なリスクとして返ってきます。
具体的には、過度な対応が従業員任せになることによる心理的・身体的な負担、重度なストレス、それらによる燃え尽きやメンタル疾患の発生など。さらに最悪の場合は休職や離職に至る場合もありえます。またカスハラ対策が企業の責務として社会的にも認知されるようになった現在では、新卒・中途などの求職者にとっても企業がしっかりと対策を行っているか否かは重要な判断材料にもなっています。これは求職者のみならず、企業姿勢としての会社全体の評価にも繋がることになります。
だからこそ、本コラムでも繰り返しお伝えしている通り、属人的な対応ではなく、企業全体の姿勢と取組みとしてカスハラ対策を行うのであり、例えばルールを定めて社内外に周知する、従業員に相談フローや学習機会を提供する、といった具体的なアクションが重要になってくるのです。
もちろん、対策には一定の労力や工数が必要です。マニュアルやフローを準備したりすることは、イチから始めるのは大変と感じる方も多いでしょう。しかし、一方でカスハラ対策は必ずしも多額の費用や投資を必要とはせず、自社の取り組みや工夫で十分に準備が可能です。大切な従業員の安全、そしてその先にある企業の評価や顧客との適切な関係性を守るため、不可欠なものと考え、取り組みましょう。
カスハラ対策のポイントを押さえた備えで、企業と従業員との信頼関係を築く
これまでのコラムでも紹介してきましたが、改めて企業と従業員のコミュニケーションの視点で、カスハラ対策のポイントをおさらいしましょう。いずれも重要な点は、実効性を担保すると同時に、それにより従業員に安心感を提供することにあります。
まずは「基準・定義」です。従業員が分かりやすく理解し、判断できるように、例えば言動のレベルと対応方針を早見表にしておくことや、グレーゾーンや迷った場合は速やかな交代を促すことなど、実際の場面での有効性はもちろん、事前の安心感に繋がるようにすることが重要です。
次に「交代・エスカレーション」です。誰に・どう繋げばよいかを一目で分かるように提示しておく、ワンオペがある場合には代替の導線(近隣店舗ヘルプ、チャット、内線転送など)を用意しておく、交代時の定型フレーズ(「上席にお繋ぎします」「本件は社の基準により担当を交代します」など)をあらかじめ研修しておく、といったことが挙げられます。
もうひとつ「記録」という点もポイントです。日時・場面・チャネル等の基本情報や、どんな態度・どんな対応だったか等々、自動的に記録可能なら理想的ですが、それが難しい場合も出来るだけ簡易なログを残すようにし、(もちろん従業員の責任追及ではなく)保護や再発防止の観点で活用します。
最後に「事後ケア」です。カスハラに遭遇してしまった従業員がいた場合、まずは現場で上司や周囲による出来るだけリアルタイムなフォローで心理的に落ち着きや安心を生むこと、その後は専門の窓口や担当者がより客観的な立場でケアを行うといった、二段構えの備えが理想的です。
カスハラ対策は特別なことではない、日常業務の中で自然とチームの信頼関係を構築する
ここまでにお伝えしてきたことは、詰まるところ会社における従業員との、あるいは従業員どうしの信頼関係の醸成であることがお分かりいただけると思います。カスハラが発生した場合でも、当事者を「孤立させない」「その人任せにしない」ということを、普段から職場で上司と部下、同僚間で共通認識化しておくことが大切です。
前述の通り、カスハラ対策は大きな投資でなくとも日頃の工夫で準備できることが多々あります。上司やリーダーにあたる方は、ぜひご自身の職場にあった形で取り組んでみてください。
例えば、まとまった時間の研修を常時行うことが難しくても、毎日の朝礼で5~10分の時間を取り、ミニ共有として、他社・他店の難事例、言い回し例、対応の良かった点を取り上げるといったことは比較的簡単に実行できます。カスハラに限ったことではありませんが、最近では学習効率の観点で長時間の研修よりも短時間の動画などによる反復練習の方が用いられることも多いですし、クイズやミニテストなどを折り込んだコミュニケーションを工夫してみるとよいでしょう。
その他にも、定期的に経営者から労いと方針のメッセージを発信する等のトップによる対応や、顧客向けに掲示するカスハラ方針のポスター内容や、発生時のサインを皆で考えるといったボトムアップの活動など、それぞれの環境や忙しい現場でも、日常的な取り組みに落とし込むことは可能です。
カスハラを「出来れば発生しないで欲しい・やり過ごしたいもの」として蓋をすることなく、企業も従業員も職場全体が同じ方向を向いて取り組むことで、きっとより良い企業活動に繋がります。
Q&A 企業のカスハラ対策においてよくある質問
ひとつの正解があるわけではないカスハラ対策、どの企業も悩みながら対応されています。ここではそんな企業の現場の皆さんからよくある質問について、当社のインストラクターで多くの企業へカスハラ対策の支援を行っている阿部がお答えします。
Q:「導入にコストがかかるような対策は実施のハードルが高いと感じてしまいます。」
A:体制面もコスト面も負担がかかってしまうと大変ですよね。コラムにもある通り、大きな投資をしなくてもカスハラ対策は始めることができます。例えば、交代やエスカレーションの流れを可視化しておく、朝礼でクレーム事例の共有や交代時の定型フレーズを確認する、などです。重要なのは「完璧な体制を整えてから」ではなく、「従業員保護の姿勢を示す」ことです。できることから始めてみましょう。
Q:「現場で相談を受ける立場である上司・管理者にはどんなフォローが必要ですか?」
A:従業員の相談を受ける立場である上司・管理者が「慣れていない」「どう対応すればいいかわからない」状態にならないよう、決めておくことがいくつかあります。
①相談対応のガイドを作り「被害者ケア」をできるようにする
新人管理者は「穏便にすませたい」「軽く扱う」などの行動に陥りがちです。我流にならないよう相談対応ガイドの作成や研修を実施しましょう。上司・管理者が「聴くスキル」を持つだけでも離職リスクは下がります。
②エスカレーション(二次相談・交代)の基準を明文化する
「このレベルなら即エスカレーション」というルールがあれば、新人管理者でも対応できます。ワンオペの場合はすぐに駆け付けられるように、どこに連絡をするのかも明確にしておきましょう。
③管理者が困ったときに相談できる窓口を作る
二次対応や部下のケアを一人で抱え込むと管理者自身の精神的負担も増大します。判断や行動に影響する前に気軽に相談できるよう、社内相談窓口に加えて外部相談窓口も案内するなど、複数の選択肢を提供できるとよいでしょう。
次回は最終回として、改めて企業がカスハラ対策に取り組む意義と、企業と顧客のあるべき関係性について解説します。
※本記事に掲載されている図表は全て(株)TMJの研修テキストより抜粋しています








