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人生100年時代 健康にはたらくためにVol.2 緊急事態宣言解除で増える”出勤再開うつ” 原因と従業員のケア方法

2020.06.16

 2020年5月25日、新型コロナウィルスの影響で全国に発令されていた緊急事態宣言が解除された。それに伴い、企業は感染対策として行っていたテレワークを解除し、従業員がオフィスへの出勤を再開する動きも見られている。一方で「出勤再開うつ」という言葉がSNS上でも話題となり、実際に従業員の心のケアに悩む人事・労務担当者もいるのではないだろうか。

 今回は、「出勤再開うつ」が発生している背景や具体的な症状、考えられる原因と企業が行える従業員のケア方法を紹介する。従業員の心の健康を守り円滑に業務を進めるために、出勤再開うつについての知識と対策を把握しておこう。

目次

●出勤再開うつの背景
●出勤再開うつの症状
●出勤再開うつの原因
●出勤再開うつに対する従業員のケア方法
●まとめ

出勤再開うつの背景

 「出勤再開うつ」とは、業務や出勤の再開に伴って起こる、様々なうつ症状を指す。新型コロナウイルス感染症の流行により、在宅勤務へと移行した企業も多い中、緊急事態宣言の解除後にオフィスへの出社が再開したことで、昨今出勤再開うつに悩む人も多いようだ。まずは新型コロナウイルス感染症拡大下における、自粛期間中の従業員の状況や、緊急事態宣言が解除されたことによる影響から「出勤再開うつ」が発生した背景を確認しておこう。

自粛期間により環境適応が困難に
 2020年4月16日、全国に対して緊急事態宣言が発令されたことで、企業は対応に追われた。いわゆる「三密」を避けるべく、テレワークやローテーション勤務、時差通勤が推奨され、会議もオンラインによる開催が主流になった。

 自粛期間に入りテレワーク業務が開始されると、メリットが挙げられる一方で、コミュニケーション不足による意思疎通の難しさや作業効率の低下等の問題が浮上した。加えて、外出自粛による運動不足や生活リズムの乱れ、ストレスからくる健康面・精神面への懸念が出てくるようになった。
 
 特に新入社員には、本来あるはずだった研修の中止や延期、自宅待機、入社後間もない中でのテレワーク開始等、コロナ禍の影響が大いにあった。社内の人と会う機会が少なく、入社した実感もわきにくい状況下で、思い描いていた社会人としてのスタートが切れなかった若者も少なくない。
 
 また、年度の切り替わりで転勤や配属の転換があった社員も同様だ。新たな環境への緊張に加え、自粛によるコミュニケーション不足により、不安やストレスが倍増した人も多いだろう。このような環境の変化や見通しの立たない状況に、強いストレスを感じていたことが背景の一つとされている。

自粛解除に伴う生活スタイルのリセット
 自粛期間に入ってから約2カ月後の5月25日、全国の緊急事態宣言が解除された。緊急事態宣言解除が発表された当初は、業務が再開されることによる金銭面や生活面への安心感、自粛生活からの解放感や安堵感が勝っていたのではないだろうか。

 しかし、多くの従業員が自粛環境下での新しい生活様式やビジネスコミュニケーションに慣れつつあったこと、テレワークや業務フローのデジタル化にメリットを感じられるようにもなっていたことから、以前の生活に戻ることや生活に再び変化が訪れることに不安感や嫌悪感を覚える人が出てきた。それが「出勤再開うつ」のきっかけであると予想される。

出勤再開うつの症状

出勤再開うつの症状

 出勤再開うつは、「先のことを考えて不安になりやすい人」「人とのコミュニケーションが苦手な人」などに症状が出やすいと言われている。ここでは、出勤再開うつの具体的な症状を紹介する。該当する従業員に対しては特に注意を払い、十分なフォローを行おう。

5月病と似た症状を呈する
 5月病は、GW等の長期休暇付近に起こる心身の不調の通称だ。ストレスに起因するとされており、医療現場では自律神経失調症や軽度のうつと診断されることもある。出勤再開うつも長期休暇明けと同様の心理状態であると考えられており、5月病のような症状が出る可能性が高い。

具体的な症状
 出勤再開うつでは、具体的に以下のような症状が現れる可能性が高いと考えられている。

 ・睡眠障害
 ・体重の急激な増減
 ・興味・関心の低下
 ・身だしなみに気を遣わなくなる
 ・集中力の低下
 ・意欲の減退
 ・慢性的な憂うつ感

 これらの症状が10日以上続く場合は、うつ病や適応障害、パニック障害につながる可能性がある。従業員がこのような症状を訴える場合は、早急に医療機関の受診をすすめよう。

出勤再開うつの原因

 出勤再開うつの原因にはどのようなことがあるのだろうか。適切な対策を講じるためにも、人事・労務担当者として、考えられる原因を把握しておこう。

環境の変化
 人間は変化に対しストレスを感じる。元々4~5月は異動や転勤で変化の起こりやすい時期であり、心労が重なりやすい。新型コロナウィルスの影響で、人と直接会うことを避けていた生活から再び対面で関わる生活に切り替わることで、さらに大きな変化とストレスを感じる人が増えていると考えられる。また、新入社員や部署異動後の従業員等、事前にオンライン上でのやり取りがあったとしても、実際は初対面に近い状態で新たな環境に慣れなければならない場合のプレッシャーは相当なものだろう。

感染リスクへの不安
 緊急事態宣言が解除されたとはいえ、新型コロナウィルスが終息した訳ではない。第二波・第三派が警戒される中、通勤や業務で人と関わる機会が増えることに不安を感じる従業員もいるだろう。特に電車やバス等の公共交通機関で通勤する従業員は感染リスクが上がることから、より強い抵抗感があると予想される。

長欠感情
 「長欠感情」とは、長期欠勤後に出勤する際、欠勤の原因は解消されているにも関わらず様々な不安を感じてしまう感情を指す。今回のコロナ禍でも、職場に久しぶりに出勤する時、「最初はどのように挨拶をしたら良いだろう」「人から声をかけられたらどう答えよう」等と、本来の業務に対する不安とは別の感情が生まれてしまう可能性がある。元々人と話すのが苦手な人や、他人が自分をどう考えているかを気にしやすい人は、特に長欠感情を感じやすいだろう。

対比効果
 「対比効果」とは、2つのものの間にある差を実際の差よりも強く感じてしまう現象を指す。以前は当たり前であった満員電車でも、(新型コロナウィルスの影響で)一度空いた状態を経験してしまってから乗車すると、これまで以上の窮屈感を感じるだろう。また、自粛期間中テレワークを行っていた場合は、久しぶりに出社して人と対面しながら業務を行うと、以前と変わらないメンバー・業務内容であっても強い疲労感を感じる可能性がある。

出勤再開うつに対する従業員のケア方法

出勤再開うつに対する従業員のケア方法

 出勤再開うつを防ぐためには、企業が対策を行うことも重要だ。ここでは企業が行える従業員のケア方法をいくつか紹介する。

能動的な目標を設定する
 コロナ禍では、環境の変化にネガティブなことを想像しがちになる。ネガティブな意識を変えるためには、「〇〇をやってみたい」「〇〇をしたい」と、能動的な目標を1つでも設定させると良いだろう。さらに、その目標を提出したり同僚と共有したりすることで、 連帯感の向上やモチベーションアップに繋がる可能性がある。
  
マインドフルネス
 「マインドフルネス」とは、雑念や無駄な思考を取り払い、意図的に“今”の瞬間に意識を向けた心の状態を指す。目の前のことに向き合う「マインドフルネス瞑想」や自己をより客観的に知る「メタ認知」を行うことで、集中力や生産性の向上、ストレスの軽減、人間関係を円滑にする効果が期待されている。企業向けの講座等も開催されており、大手企業がプログラムの導入を進めている例もある。企業が率先してマインドフルネスの時間を設けたり、瞑想できる場所を提供したりすることで、従業員が不安を取り払い、目の前の業務に集中できると考えられる。

気持ちを共有する
 ネガティブな気持ちを自身の中だけで留めておくと、感情の処理や物事を客観的に捉えることが難しくなる。そのため、従業員に対してアウトプットの機会を作ると良いだろう。例えば、「面談やアンケートの実施」「オンライン飲み会やコーヒーブレイク等、雑談時間を作る」「サーベイを用いてストレス状態をチェックする」等が挙げられる。必要に応じてカウンセリング等を行うことも重要だ。

生活リズムを整える
 生活リズムを整えておくと、出勤が再開した際の変化が少なくなり、ストレスの軽減に繋がる。しばらくテレワークが続く場合でも、通常の出勤時間に合わせて起床するよう呼びかけよう。また、福利厚生で食事をサポートしたり、勤務中に軽い運動や適度な休憩の時間を取り入れたりすることも効果的だ。

急な切り替えを求めすぎない
 長欠感情の克服には勢いが大切だと言われている。また、対比効果の影響もその状況に慣れていけば解消されていくとされている。ただし、自粛期間を経て新たな生活や業務スタイルに再適応するには、相応の期間も必要となる。通勤が再開し始めた数日間は疲労感や消耗感が激しいと考えられるため、最初から成果を求めすぎないといった、企業側の姿勢も求められる。

まとめ

 新型コロナウィルスによる新しい生活様式が引き続き求められる中、懸念されている「出勤再開うつ」。予防するためには、出勤再開うつに至る背景や原因を把握するとともに、従業員の様子に目を配りながら必要に応じたケアを行う必要がありそうだ。従業員の心と体を守り、気持ちの良い職場環境を構築するためにも、適切な対策を検討してみてはいかがだろうか。

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