経理の根本課題を解決する鍵とは。「全体像の設計」と「スキル不足の解消」でDX推進
労働人口の減少、テレワークなど働き方の多様化、電子帳簿保存法・インボイス制度といった法改正…こうした変化に対応すべく、今、経理のデジタル化が喫緊の課題となっている。しかし「ならばとりあえず」とクラウド会計を導入しても、使いこなせないケースも多い。メリービズ株式会社 代表取締役社長の山室佑太郎氏に経理DX(*1)を阻む壁と解決策について伺った。
DX推進でツールを導入するも「使いこなせない」2つの原因
──業務効率化のための「経理のデジタル化」の第一歩として、クラウド会計などのツールやサービスの導入を進める企業が増えていると聞きます。一方で、それらのツールを使いこなせなくて困っているという現場の声も多いそうですね。
そうですね。そういったご相談の際はまず導入の目的からヒアリングしているのですが、ツールを100%活用できない原因は大きく2つのパターンに分けられるように思われます。
1.ツール導入がゴールになっている(ツールを導入して実現したいことが描けていない)
ツールが持つポテンシャルを100%引き出せていないケースです。ツール導入によって期待できる効果や理想の状態が明確になっていないので、10ある機能のうち3しか使わずに「使いこなせていない」という実感につながるパターンです。
いわば、ツール導入による「ビフォーアフター」の「アフター」がイメージできていない状態。そして、ゴール(アフター)が描けないのは、往々にして現在地(ビフォー)の認識が曖昧なことが影響しています。
2.ツール導入後の理想の状態を実現するスキルが不足している
ツールが持つポテンシャルに、担当者のスキルが追いついていないケースです。理想の状態は描けているのに、いざ導入してみたら思ったように「使いこなせていない」パターンです。
ビフォーアフターの「アフター」は描けているが、それを実行するスキルが不足している状態。例えば、A社の会計ソフトを利用するなかで、B社の請求書発行システムと連携し効率化させたいが、その方法がわからないなど。要は理想の状態をつくるためのノウハウが不足しているのです。
ツールを「使いこなす」ために必要な3つのステップ
──ツールを思うように使えないという課題には現場のスキル不足が影響しているようですが、具体的にはどのようなスキルが求められているのでしょうか。
ツール導入の流れを「設計」「実装」「運用」の3つに分け、それぞれに必要なスキルをご説明したいと思います。
「設計」で求められるのは、全体像の中にどうツールを当て込むかを考えて言語化する能力です。自社の現状を把握して、その中でいかにしてツールを使っていくのか、大きな枠組みを整えるスキルとも言えます。
次の「実装」で必要なのは業務改善力です。オペレーションの中に実際にツールを組み込むため、設計を具現化して運用の準備を進めます。システム同士の連携などもここで行う必要がありますが、ツール全体の構造から機能まできちんと理解できていないと設計したものを実装することは難しいでしょう。
最後に「運用」ですが、これには日々の実務をきちんと遂行するスキルが求められます。ツールの操作を理解して業務を滞りなく進める必要があります。
このように、設計から運用までそれぞれに求められるスキルは異なり、先ほど挙げた「ツールを使いこなせない2つの原因」を言い換えると以下のようになります。
1.ツール導入がゴールになっている(ツールを導入して実現したいことが描けていない)
→「設計」ができていない
2.ツール導入後の理想の状態を実現するスキルが不足している
→「実装」「運用」ができていない
これらのスキル不足の背景には、経理DXが急速に進みツールも発展する中で、担当者のスキルが追いついていないことがあります。慢性的な人手不足に悩む経理部では、担当者が日次業務に追われ、スキル向上のための時間を確保できないという厳しい現状が影響しているのです。
ただ、設計から実装のスキル不足は「メリービズ経理DX」、実装での課題や運用のスキル不足は「バーチャル経理アシスタント」を導入いただくことで解消できるんです。
経理部の“人”にまつわる課題をアウトソーシングで解消
──運用のスキル不足を補うオンライン経理代行「バーチャル経理アシスタント」。こちらは、人材のマッチングサービスではないのですよね。
そうですね、マッチングサービスではなくアウトソーシングサービスである点にメリービズの大きな強みがあります。マッチングサービスは実務スタッフのレベルや依頼元との相性で業務の質が決定してしまいますよね。しかしアウトソーシングサービスは法人が業務を委託するため、マッチングよりも品質が安定する傾向があります。もちろんアウトソーシングの場合、業務の適切な切り出しが必要になります。「経費精算1,000件をこの予算で」などを依頼するにあたっても、現場の方は業務の棚卸しや手順の説明をしなければなりません。ここは意外と負担が大きいので、アウトソーシングに抵抗感があるという声も聞きます。バーチャル経理アシスタントでは、運用のスキル不足に加え、こういった課題を解決するための業務改善を支援しています。
具体的には、まず導入コンサルタントがお客様の業務プロセスへの理解を進めます。なぜ導入を決めていただいたのか、どういった課題を解消したいのか、どの業務まで依頼したいのか、どう運用していきたいのかをヒアリングし、業務設計していきます。つまり、経理体制や業務状況を把握したうえで業務のデザインと組織のデザインを行い、最適なチームとオペレーションをもって手厚くオンボーディング(*2)することを強みとしています。
メリービズには、全国に高い専門スキルと豊富な実務経験を持つ累計1,400名以上のリモート経理スタッフが在籍しています。その中から複数名のスタッフがお客様ごとの専属のプロジェクトチームを組み、業務を行います。
──チーム組成のポイントは何でしょうか。
企業フェーズや業種業界、経理部の課題や委託いただく業務内容に応じて、適切なスタッフをアサインしている点です。
例えば、経費精算など細かい業務に強い人、システムに強い人、全体をデザインすることが得意な人、税務・労務に詳しい人。すべてのリクエストに1人で応えるのはかなり難しいですが、それぞれの得意をかけ合わせれば実現できます。プロジェクトとしてチームを組み、スキルセットを自由に組み換えられる点は本サービスの強みです。顧問税理士や社労士との連携にも対応していたり、中には海外在住のスタッフもいるので変則的な業務時間にも対応可能だったりする点も、お客様から評価いただいています。
また、少人数であることが多い経理部は急な退職や長期休暇による欠員の影響を受けやすいですが、メリービズでは十分な人員を確保しているのでその心配もありません。
「バーチャル経理アシスタント」は豊富なノウハウで柔軟に対応
──専門チームがつくとはいえ、どこまでお願いできるものなのでしょう。業務を理解したうえでとはいえ、業種によっての対応は難しいのでは?
この点も弊社ならではの強みですが、業種ごとのノウハウが蓄積されているので対応可能です。
例えば不動産賃貸業であれば、賃貸管理や更新など特徴的な業務と関連した経理業務が発生します。eコマースを展開するお客様であれば、在庫管理と紐づく経理業務が発生します。こうした専門的な業務に対応できるスタッフが在籍しているのはもちろん、数多くのお客様に利用いただいてきたので社内にも知見がたまっています。
──使用する会計ソフトは指定しているのですか?
指定していません。お客様が現在お使いのソフトに対応します。
オンラインで代行できない経理業務はほとんどなく、紙面のやり取りが必要な場合もスキャンしてデータ化すれば問題ありません。またマニュアルがなくても、導入コンサルタントが丁寧に業務をヒアリングしてオンボーディングするのでご安心ください。お客様のオペレーションに柔軟に合わせることができます。
──予算としては、派遣社員を雇用するのとどちらが予算を抑えられますか?
派遣社員の雇用の方が支払う費用は低く抑えられるケースが多いです。ただ、派遣社員の場合、業務環境の管理やコンディション管理などマネジメントコストが発生しますし、契約期間も考慮しなくてはいけません。
一方、バーチャル経理アシスタントは、たとえスタッフが変わっても引継ぎなどをお客様にやっていただく必要はありませんし、ノウハウもしっかり引き継がれます。中長期的に見て高コスパだと考え、長きにわたってご活用いただいているお客様も多いです。
あらゆるバックオフィス課題をコンサルティングする「メリービズ経理DX」
──「メリービズ経理DX」は「バーチャル経理アシスタント」とどう違うのでしょう。
「バーチャル経理アシスタント」はあらゆる経理課題をアウトソーシングで解決するサービスですが、「メリービズ経理DX」はあらゆるバックオフィス課題をDXを軸としたコンサルティングで解決するサービスです。
ビジネスコンサルタント、ITスペシャリスト、事業会社CFO・経理部長クラス経験者、公認会計士・税理士などによるプロフェッショナルチームがあらゆる経理課題を解決します。「経理のDXを進めたいが専門家やプロが社内にいない」「根本的な業務改善につなげるのはどうしたらいいかわからない」といった課題を解決します。例えば会計ソフト導入支援や業務改善コンサルティング、経理体制の全体設計・再構築などを依頼いただいています。
このようにメリービズ経理DXはツールの導入支援や業務プロセスの再構築などのコンサルティングを主軸にしており、抜本的なバックオフィス改革にもつながります。経理DXで体制を「設計」・「実装」した後に「運用」つまりアウトソーシングであるバーチャル経理アシスタントをご利用いただくケースも好評です。
──現状、まだまだ経理のデジタル化、DXと聞いても何をしたらいいかわからない、というバックオフィス担当者も多いと思います。
経理DXへの意識の高まりの背景には、SaaSツールの発達がありますし、働き方の変化も大きいでしょう。その中で、バックオフィス担当者の皆様は「ツールを使わなければいけない」と感じるものの最適解が見えないことが多いかと思います。焦るばかりで「とりあえずのDXツール」を導入してしまった、なんてことも聞きますが、ゴールなき導入は、DXを遅らせてしまうことさえあります。
DXは社会全体に良い影響をもたらしますが、DXという一種のトレンドが強まることで、そこに追いつける企業と取り残される企業の差が広がっていきます。つまり、トレンドのベストケースが社会全体で共有されていないことこそが「新しい社会課題」となっているわけです。
マラソンの先頭集団と後続集団に大きな隔たりがあるように、ビジネスの現場でもITリテラシーを軸として大きな差が生じています。そしてDXやSaaSの発展といったトレンドが加熱するほど、その差は広まるばかりではないでしょうか。
我々は、いわゆる先端を走る企業様の経理改善を行いながら、ITの助けが必要な企業様のクライアントサクセスにも注力し、「現場がツールを使いこなす力」を高める追い風になっていければと考えています。
*1 デジタルトランスフォーメーションの略。デジタル技術で社会や企業を変革することを指す
*2 『バーチャル経理アシスタント』の導入期間。安定運用に向けて、業務の設計や適切な人材の選定、実務環境の構築を行い、実業務を開始する