フリーランス保護新法施行開始から1カ月、改めて押さえたいポイントとは? ~LegalOn Technologiesによる解説セミナーより
フリーランスの労働環境保護や取引の適正化を目的に作られた「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)。2024年10月9日、AI技術を駆使した法務系のソフトウェアを開発している株式会社LegalOn Technologiesの弁護士・軸丸厳氏により、フリーランス新法の対策と留意点に関するセミナーが行われた。セミナーでは、フリーランス新法の概要などの全体像や、法務や契約担当者が気を付けるべきポイントを解説。施行開始から1カ月が経過した今、改めて押さえておくべきポイントをまとめた。
フリーランス新法を知る企業は、約半数?
厚生労働省が2024年10月18日に発表した「フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)結果」によれば、委託者側によるフリーランス新法の認知度は45.5%。フリーランスは23.7%であった(※1)。フリーランス新法の施行は11月1日から始まっているものの、未だこの法律について聞いたことはない、内容を知らない企業は多いと推察される。
フリーランス新法とは、企業がフリーランスに業務を委託する際に守るべき法律である。業務委託を合意した日、役務の提供などを受ける期日、報酬の額や支払期日などの取引条件を、あらかじめ明示することが求められている。「納品してもなかなか報酬が支払われない」「発注時に決定した報酬を減額される」など、立場が弱くなりがちなフリーランスを保護するための法律だ。
委託者にフリーランス新法違反と思われる行為があった場合、フリーランスは公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省に対してその旨を申し出ることが可能である。行政機関は申し出の内容に応じて、報告徴収・立入検査といった指導、助言、勧告を行い、従わない場合には命令・公表をすることが可能となる。
フリーランス新法の違反事業者として公表されれば、企業のイメージダウンは免れない。軸丸弁護士の解説により、今、改めて実務レベルで企業側がやるべきことを確かめておきたい。
対象となる「フリーランス」の定義と実務におけるポイント
フリーランス新法では、その目的を「特定受託事業者に係る取引の適正化」であり、「特定受託業務従事者の就業環境の整備」にあるとしている。ここで「特定受託事業者」と定義されているのは、個人であって従業員を使用していないフリーランスか、あるいは法人であって代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないものだ。「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である個人および特定受託事業者である法人の代表者をいう。
なお、「従業員を使用」とは、「1週間の所定労働時間が20時間以上」「継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労基法上の労働者)を雇用すること」を言う。また、同居親族のみを使用する場合は「従業員を使用」に該当しない。
契約書や発注書を作成する際は、相手がこれらのフリーランスに該当するかを確認する必要がある。これについて、次の3つが実務上のポイントとされた。
□受託者が「個人」あるいは「代表者以外に役員・従業員がいない法人」の場合、適用対象となる
□特定受託事業者に該当するかは、発注時点で判断(契約を更新する場合、更新時に判断)
□「特定受託事業者」該当性の確認は、過度な負担にならず、かつ、記録に残る方法で行う(例:電子メールやSNSのメッセージ機能)
対象となる委託者側の定義と実務におけるポイント
業務を発注する委託者側は、フリーランス新法では「業務委託事業者」あるいは「特定業務委託事業者」と書かれている。「業務委託事業者」は、フリーランスに業務を委託する事業者だ。「特定業務委託事業者」は、業務委託事業者でさらに「個人であって従業員を使用するもの」「法人であって2人以上の役員がおり、または従業員を使用するもの」のいずれか。
「従業員を使用」は、フリーランス側と同じ要件となる。そしてフリーランス新法の指す「業務委託」とは、「物品の製造(加工を含む)」「情報成果物の作成(ソフトウェアやデザイン、プログラムなど)」「役務の提供(=サービス全般について労務または便益を提供すること)」のいずれかである。
下請法では、委託者が自ら用いる自家利用役務(弁護士に顧問契約を委託するなど)は対象外だったが、フリーランス新法では自家利用役務も対象となる。
これらを踏まえ、軸丸氏が示した実務におけるポイントは以下の4点だ。
□フリーランスが業務を委託する場合も「業務委託事業者」に該当する
□「資本金1000万円以上」などの資本金要件はなく、対象範囲は限定されていない
□フリーランスに委託するほとんどの業務が適用対象となる
□業務委託契約を締結している場合でも、実質的に労働基準法上の労働者と判断されるときは、労働基準関係法令が適用される
委託者の義務・禁止行為
軸丸氏は次に、委託者の義務や禁止行為について解説。業務を委託する期間によって、適応される義務が違う。資料を参考に、委託者の義務・禁止行為を一覧化した。
【取引の適正化・就業環境の整備7つのポイント概要】
① 取引条件の明示義務
以下8つの取引条件を、書面または電磁的方法(メール、SMS、SNSのメッセージ、チャットツールなど)で明示することが求められる。
・業務委託事業者および特定受託事業者の名称
・業務委託をした日
・特定受託事業者の給付の内容
・給付を受領または役務の提供を受ける期日
・給付を受領または役務の提供を受ける場所
・給付の内容について検査する場合は、検査を完了する期日
・報酬の額および支払期日
・現金以外の方法で報酬を支払う場合は、支払方法に関する事項
② 期日における報酬支払義務
特定業務委託事業者は、給付を受領した日(委託者が物品や成果物を受け取った日や、役務の提供を受けた日)から起算して60日以内のできる限り短い期間で、支払期日を定めて報酬を支払う必要がある。
③ 禁止行為
1カ月以上業務を委託する特定業務委託事業者においては、以下7つの行為が禁止される。
・受領拒否
・報酬の減額
・返品
・買いたたき
・購入・利用強制
・不当な経済上の利益の提供要請
・不当な給付内容の変更・やり直し
④ 募集情報の的確表示義務
全ての特定業務委託事業者において、広告などでフリーランスを募集する場合、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示とせず、正確かつ最新の内容に保つ義務がある。
⑤ 育児介護等と業務の両立に対する配慮義務
6カ月以上の期間業務を委託する特定業務委託事業者においては、育児介護等と業務を両立できるよう必要な配慮を行わなければならない。なお、6カ月未満の場合は努力義務となる。
⑥ ハラスメント対策に係る体制整備義務
特定業務委託事業者は、ハラスメントによりフリーランスの就業環境を害することのないよう、相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならない。フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として、不利益な取扱いをすることは禁止される。
⑦ 中途解除等の事前予告・理由開示義務
6カ月以上業務を委託する特定業務委託事業者においては、契約の解除または不更新をしようとする場合、解除日または契約満了日から30日前までにその旨を予告しなければならない。
それぞれの項目についてさらに詳しく知りたい場合は、下記のセミナーアーカイブ動画をチェックしてほしい。
セミナーアーカイブ動画はこちらから
フリーランス新法から1カ月経過して
ここまで、フリーランス新法の要点をあげてきたが施行から1カ月。対応している企業はどのくらい変化したのだろうか。施行前に公表された「フリーランス取引の状況についての実態調査(法施行前の状況調査)結果」から大幅に認知度が向上した印象はなく、企業においては随時対応しているような現状だと軸丸氏は分析。しかし、同社が提供するサービスやコンテンツで見れば、フリーランス新法への関心は高まっているという。
「当社が提供しているサービスでは、"フリーランス新法"という単語の検索量が昨年比25倍になっており、フリーランス新法に関するコンテンツのPVも2024年9月以降、急増しています。自社の結果ではありますが、フリーランス新法に対する認知度が広がり、対応する企業が増えることを期待しています」(軸丸氏)
認知度や対応企業ともにまだまだこれからと言えそうだが、改めてフリーランス新法への理解を深め、対応できているかどうかの確認を行う必要がある。また委託者がフリーランス新法に適応されるか迷った場合は、基本的に適応対象と考え、対応することが望ましいとした。