問い合わせ対応や業務設計をAIでスマートに ラクスのAI戦略の現在地と展望
2025年7月10日、経費精算システム「楽楽精算」や電子請求書発行システム「楽楽明細」など、企業の業務効率化を支援するクラウドサービスを提供する株式会社ラクスが、自社のAI戦略やサービスへのAI機能実装を説明する記者発表会を行った。属人化しがちな問い合わせ対応や業務設計をAIが支援することで社内の業務効率化と消費者や顧客の満足度向上を実現。企業のシステム導入のハードルを下げる狙いだ。
社内外に広がるAI活用と開発戦略
発表会冒頭、取締役兼CAIOの本松慎⼀郎氏が登壇。近年のAIを取りまく環境の変化と、それに伴うラクスのAI戦略について説明した。
AIは技術の飛躍と普及の加速が非常に速いペースで進んでおり、ユーザーが期待するサービスの品質もあらゆる面でAIの活用が前提とされるようになっている。競争環境の変化に伴い、ラクスは2017年からAI開発を行ってきた。2025年は開発スピードを加速させ、下記の図の「4つの機能」を各製品に搭載していく予定だという。
「人間の代わりに何かを創り出す生成AI」と、「データ分類や予測推論を得意とする判別AI」の2つを利用して、全体的なサービス向上に努めている。ラクスは自社内でもAI活用を活発化させている。人材教育、企画作成、業務の自動化にAIを活用。業務においては実に97.9%の社員がAIを用いて、効率化を図っている。
製品サポートにおけるAIの取り組み
発表会では次にラクスクラウド事業本部 戦略企画部 副部長 ⾼嶋洋氏が登壇し、サービス機能へのAI搭載について具体的な説明を行った。
問い合わせ対応を変える「メールディーラー」
ラクスが提供する「メールディーラー」は、問い合わせ対応業務を整理・効率化するクラウド型の管理システムだ。共有メールアドレスやメーリングリストを用いて複数の担当者でユーザーからの問い合わせに対応する場合、「メールの見落とし」や「二重対応」といった人的ミスが発生しやすい。こうした人的ミスを防ぐと同時に、業務の正確性とスピードの両立を可能にする。
同サービスには、問い合わせ対応の自動化を目的としたAIエージェント機能が順次、搭載されていく。
発表会当日にリリースされた「メール作成エージェント」と10月にリリース予定の「回答自動生成エージェント」は、業務負担の軽減のために開発された機能だ。自社が蓄積した過去の対応履歴やFAQなどのナレッジをもとに、AIが最適な返信文を自動生成する。
これらのAI機能により、問い合わせ対応にかかる業務の約50%が削減可能と見込まれている。対応品質の安定と、業務効率アップの両面で効果が期待される。
販売管理業務の設計をAIで支援する「楽楽販売」
また、ラクスは販売管理システム「楽楽販売」へのAI搭載についてもプレスリリースを発表している。販売管理業務は、一般的に企業ごとに異なるビジネスモデルや商習慣に基づいて構築されている。そのため、システム導入のためには業務フローを可視化したうえで、適切なシステム要件へと落とし込む必要がある。しかし、このプロセスには一定の専門知識と実務経験が求められ、設計から構築までには相応の時間やコストを要し、この点がネックとなって導入に二の足を踏む企業も少なくない。
この課題に対し、ラクスでは業務フローを迅速に、かつ容易に構築するための支援するためのAIによる自動提案機能を導入した。「やりたいこと」の言語化から、システム設定への反映までを一貫してAIがサポートする仕組みだ。
AIが生成したシステム設計案を基盤とし、カスタマーサクセス担当者が導入企業の業務への理解を深めながら最適な形へと仕上げる。この流れにより、構築のスピードと品質を両立するという。
ラクスが掲げる今後の展望
2025年から2027年にかけての具体的な開発計画と、各製品へのAI実装ロードマップについて、再び登壇した本松氏が紹介した。
「楽楽販売」に引き続き、業務フローをより簡便にするAI機能の搭載は電子請求書発行の「楽楽明細」、債権管理システムの「楽楽債権管理」にも順次、リリース予定だという。
2025年には「楽楽販売」がデータベースの構成提案AIにより顧客の「業務の見える化」を支援。その後、システム要件化アシストAIによるコードの自動処理を強化させていく。さらに、要件自動設定AIエージェントにより、顧客オリジナルの販売管理システムを完成させられるよう、サービスを進化させていく。
本松氏は「社内外でAI活用を進めていき、継続的な開発をすることでAI環境の変化をポジティブにとらえ、より価値あるものをお客さまに提供できるようにしていければと考えております」と宣言し発表会を締めた。
AI活用によって下がる導入ハードル
質疑応答では、ラクスのAI戦略に対する狙いや新規顧客の獲得可能性について、具体的な見解が示された。
AI戦略による具体的な狙いについての質問に、本松氏は「AIを製品に組み込むことで、業務の効率化や作業時間の削減といった実利が顧客にもたらされる。こうした便益の提供が確実であれば、価格に転嫁する根拠となるため、企業としても収益向上の手段になり得る」と回答した。
さらに、「従来のIT導入に対する心理的・技術的ハードルを、生成AIの活用によって下げられるメリットを実感していただきたい」と加えた。「やりたいこと」があいまいでも、具体的な業務支援に落とし込めるAIの能力は、IT化が進まなかった企業に対する突破口となる。これにより、従来アプローチが難しかった層へもサービスを届けることが可能となり、業績への貢献が期待される。
今回のAI機能の拡充は新規ユーザーの獲得起因となるのか、という質問には「ラクスが現在獲得している顧客の多くは、これまで何らかのシステムを導入していなかった企業さまがほとんど。特に経理・生産業務の領域では、現在も紙やExcelによる運用を続ける事業者が約5割存在すると推測される」と回答。こうした市場に対し、AIを通じて使いやすく、導入しやすいサービスを展開することで、新規顧客の獲得を加速させる方針であるとした。
ラクスの取り組みは、AI技術を日常業務に根づかせ、より現場に寄り添う形へと進化させる試みだ。企業の業務改善だけでなく、IT未導入層への架け橋として今後の展開が一層、注目される。











