トムソン・ロイターのリーガルAIソリューション「CoCounsel」が法務の定型業務をサポート
2025年10月16日、トムソン・ロイター株式会社は記者説明会を開催し、リーガルAIソリューション「CoCounsel(コカウンセル)」の日本語版を10月より提供開始することを発表した。法務分野におけるAI活用が加速する中、日本市場でも待望のリリースとなる。本稿では、記者説明会で語られたトムソン・ロイターの戦略と、「CoCounsel」がもたらす変化をレポートする。
リーガルテック戦略の全体像
記者会見ではまず、三浦健人社長が登壇し、トムソン・ロイターの歴史とグローバルな事業展開について語った。ニュースサービスを主なビジネスとするロイターは1872年に日本で事業を開始、2008年にトムソンコーポレーションがロイターを買収。以後、トムソン・ロイターとしてビジネスを展開し、ロイターニュースなどを提供する報道部門、法務の専門家に法務基盤や案件管理システムを提供するリーガル部門、企業の法務部門を対象として貿易関連情報を提供するコーポレート部門など5分野の事業を100カ国以上で展開している。
リーガル部門においては、現在6200以上の法律事務所・企業がサービスを利用しているという。三浦社長は「日本でも世界でも、法務専門家のお客様にとってAIをどう活用するかが課題となっています。今回の『CoCounsel』日本語版は、私たちの既存サービスと連携しながら、法務に関する業務をより早く正確に、効率的に行えるAIサービスです」とし、グローバルな会社が日本のマーケット向けに最適化したサービスであることを強調した。
法曹界で進むAI導入 そのスピードは前年比2倍
発表会では次に「CoCounsel」開発責任者のトーマス・サンダー氏が登壇し、法曹界でのAI導入状況と、「CoCounsel」の具体的な機能について説明した。
法曹界では、前年比2倍のスピードでAI活用が進んでいるという。世界1700以上の法務組織を対象とした調査では、2024年の導入率14%が、2025年には26%に達した。
ただし、AI活用には不安も多い。最も大きいのが、クライアントデータの安全性に対する不安だ。オープンソースチャットのようなツールは特に心配が大きい。また、最新のAIを活用しないことによって競争力が低下するのではないかという懸念点もある。これらの懸念を払拭するためにも、信頼の置けるパートナーが必要だ。サンダー氏は「AIは弁護士の代わりではなく、戦略的判断に集中するための支援者。CoCounselは、法務業務に特化した世界初のAIアシスタントです」と語った後、「CoCounsel」の具体的な機能の説明に移った。
世界初、法務業務に特化したAIアシスタント
「CoCounsel」は契約書レビュー、要約、ドラフト作成など、法務実務を総合的に支援するAIだ。法務の専門家が日常的に直面する、時間のかかる定型業務を自動化する。セキュリティやコンプライアンスにも配慮し、法務の現場に安心して導入できる設計だ。
サンダー氏は開発の「3つの柱」として、「知識」「技術」「信頼性」を挙げた。
「知識」が柱の一つであるとは、ユーザーが入力する情報と、トムソン・ロイターが保有する法務データベース(Westlaw、Practical Law、Westlaw Japanなど)を組み合わせることで、専門性の高いアウトプットを実現するということだ。単なる言語処理ではなく、法的根拠に基づいた回答が可能となっている。
2つめの「技術」に関しては、常に最新のテクノロジーを開発に取り入れていること、内部で1000名を超える専門家が機械学習を行っていること、AIに対し毎年2億ドルを超える投資を行っていることを強調した。
そして3つめの「信頼性」を「最も重要な柱」として、データの取り扱いに対して厳重な注意を払ってきたこと、高い信頼性でMicrosoft社をはじめとするさまざまなパートナー会社に貢献していることを挙げた。
「CoCounsel」の実力を実演
会見では、プロダクトマーケティングディレクターの飯嶋睦氏が、実際の操作画面を用いたデモンストレーションを披露。契約書のレビューやリスク分析、条文比較などの機能を紹介した。
デモでは、「CoCounsel」が日本語で書かれた契約書の修正提案を提示する様子や、現行の就業規則を最新法案に照らし合わせたときの法令遵守チェックと修正案作成を行う様子も実演された。
AIが奪うのは“作業”、残すのは“価値判断”
デモンストレーションの後に行われた質疑応答では、まず「法務の重要情報に対して、セキュリティ面はどうなっているのか?」という主旨の質問があった。これに対し飯嶋氏は「『CoCounsel』はインターネットを参照しないように作り込まれており、『CoCounsel』内の情報と顧客がアップロードした情報だけを参照しながら回答を生成できる」と答えた。
最後には「AI導入後、法務部はどこに価値を残すのか?」という質問があり、それに対してサンダー氏は「AIが定型業務を担うことで、弁護士は重要で判断を要するような業務に注力できる」と回答。飯嶋氏も「企業法務の役割は、受動的な業務から、もっと能動的な事業支援など、価値を示せるような業務へと変化していく」と補足した。
「CoCounsel」日本語版の登場は、AIリーガル支援の新たなマイルストーンだ。法務業務の生産性向上だけでなく、専門家の役割再定義を促す存在として注目されていくだろう。









